第7話 やらかした!
既に説明したことではあるけれど、私にとってリリィさんは、最推しの作家様だ。
その存在を知ったのは、彼女がカクヨムで活動を始めてすぐのころ。
まだ読者もほとんどついていなかったけど、その作品を少し読んだだけで、すぐにファンになった。それからだんだん人気が出てきて、たくさんの人がこの作品を読んでるんだと思うと、嬉しかった。書籍化が決まった時は、声をあげて喜んだものだ。
そんな、推してやまないリリィさんの作品のタイトルが、『お義兄ちゃんと、一つ屋根の下』。
簡単にストーリーを説明すると、平凡な高校生である主人公、
えつ。イチャイチャラブラブはともかく、前半は私の状況と被ってるじゃないかって? 分かってるよそんなこと。
言っておくけど、私がこの話を推してるのと、この再婚とは何も関係がない。
私がこれにハマったのは、お父さんから再婚の話が出るよりもずっと前からだし、そもそもフィクションと現実をごっちゃにするようなイタいことなんてしない。
だから、私と佐野君も理恵と良介みたいにラブな関係に、なんて妄想は断じてしていない。本当なの、信じて!
だけど、佐野君がこの本を見てどんな反応をとるかはわからなかった。
恐る恐る様子を伺うと、佐野君は本を手にしたまま固まっていた。それから少しして、こんなことを言ってくる。
「えっと……この話、好きなの?」
聞きますか。聞いちゃいますか。一瞬、何て言おうか考えたけど、これ以外の答えなんてあるわけがない。
「うん……好きだよ…………」
好きかどうかなんて、わざわざ本を買って手元に置いてある時点でわかるでしょ。
しかも……
「なんで、同じのが何冊もあるの?」
再び、佐野君が聞いてくる。箱から零れ出た本は、拾ってもらった一冊だけじゃない。
拾ってもらったのと同じ、『兄妹になった彼と私の、ドキドキ同居生活♡』の2巻が複数。そして、その1巻が複数だ。
全く同じものをいくつも買うなんて、不思議に思っても無理はない。
「ど、どこのお店で買うかで、それぞれ違う特典がつくから、それ全部集めようと思って……」
「そんなに好きなんだ……」
ここで、実はそこまでは、なんて言っても信じてとらえないだろうな。
佐野君は、何か言いたそうにもう一度口を開いたけど、それから迷ったようにモゴモゴさせる。
「えっと、その…………ううん、何でもない」
何か言いたげではあった。それでも、何も言わなかった。いや、言えなかったのかもしれない。
それから、無言のままそそくさと散らばった本を広い集めると、さっさと自分の部屋に入っていってしまった。
私も、引っ越しの準備は一時中断。自分の部屋に入って、頭を抱えてうずくまる。
本のタイトルを見てから、佐野君の態度は明らかにおかしかった。
なぜか、なんて考えるまでもない。
「……引かれちゃったよね」
自分の義妹になる奴が、あんなの読んでいて、しかも重度なファンなんだ。きっと、現実でも自分とそんな風になることを、キモい妄想つきで考えてるに違いない、なんて思われたんだ。
どうしよう。今から佐野君の部屋に行って弁解する?
だけど、わざわざそんなことしたら、よけいに怪しまれるかも。
そう思うと、結局何もできなかった。
この一件以来、佐野君との間には、ギクシャクした空気が流れるようになった気がする。
同じ家に住んでいるんだし、あからさまに邪険にするなんてことはないけど、顔を合わせても態度は妙によそよそしく、以前より確実に会話が減った。
そうこうしているうちに夏休みが終わり、再び学校に通ようになった今も、そんな空気は一向に改善しないままだった。
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