74日目 そっくりな星
私の名前はウガ・カトウ。宇宙船ウシガエル号の政務主任である。ある惑星での戦争に巻き込まれそうになった人々を事前に脱出させた手腕でメディアに取りあげられ、今や世間の話題の中心である。
メディアに取りあげられる中で、過去にやって来た交渉の内容についても掘り下げられてしまい「豪腕の政務担当」と称されている。トップからも「なぜ表彰されていないのだ?」と問われるほどになっており、今更ながらいくらかの報奨が出るようである。
私個人としては、最近はキャリアプランに悩んでいる。本来であれば、中央本部で成り上がるというのがエリートコースになるし、私自身もそれを狙っていた。しかし今や、それはなかなか難しいだろう。ここまで有名になってしまったのであれば、今のまま宇宙船に乗って、しかるべき時に中央本部に舞い戻るという手段が選べるのかもしれない。
しかし、他惑星に行くというのは、危険もある。最近の活躍というのも、やはり運が良かっただけという思いが強い。
そんな悩みもあって、メディアの取材にも積極的になる気にもなれず、「職務を遂行しただけ」と言いつづけているのであった。
そんな日々を過ごしていると、上司から呼び出され「惑星連合会議」の実務担当会議への参加を要請された。実務担当と言っても、私よりもいくつも職級は上である。
「良いのですか?」
「あぁ、他惑星でも、君の名前は知られているようだから、それを活用したいとのことだ」
私はメディアの攻勢に辟易していたこともあって、それに快諾した。
惑星連合会議はそれぞれの星から代表者が集まるが、政治的な干渉は避ける不文律があるので、儀礼的なものに終始する。
一方で、それに付随して行われる実務担当会議は各国のエースが集まる場で、限られた日程の中で積極的な交渉が行われる。表向きには干渉できないということが裏目に出て、実際に少し話せば解決する問題が放置されることも多い。そして重要な問題であっても、複数の惑星が絡む場合には話すことが出来る場がほとんど無いのだ。
そのような貴重な場で、急に参加することになった政務主任に役割はほとんど無い。一緒に行動すればむしろ邪魔になるレベルだ。同行する担当者には「強運が発揮されれば御の字」とだけ言われ、パスだけ渡されている。
そんなわけで今回も結局私はウシガエル号に乗り込み、各国の巨大な船が置いてある中に小さく存在していた。
しかし、このような貴重な場で何もしないのももったいない。私なりに情報を収集し、ツテのない政治力がない一団が溜まる場所に参加することにした。
惑星カルラムの人と出会ったのは、集まりが終わり、仲良くなった人に連れられていったパーティの場でのことだった。
そこでは音楽が流れ、中心では奇妙なダンスが行われていたが、私は隅の方で全宇宙的に定番のお酒を一人飲んでいると、声を掛けられたのだった。
「あなたも混ざれないでいますか? 私もなんですよ」
そんな風に言ってきた男は、全身に鱗をまとっていた。私は一緒に飲もう、と言う男の誘いに乗り、自己紹介をした。
「ウガ・カトウです」
私の自己紹介を聞いて、男はびっくりしたようだった。
「いや、すいません。私の名前が、カトウ・ウガと言うのです」
まさかの一致に私たちは驚き、それがきっかけで話はよく進んだ。
惑星カルラムの話を聞いていると、色々な面が地球にそっくりだった。例えば、宇宙進出をし始めたタイミングや、そこからの政治的な混乱の在り方が、地球にとてもよく似ていたのだ。
地球は今、宇宙進出でようやく他国と交渉が出来るようになり始めたところで、積極的に自分の立ち位置を増やそうとしている。惑星カルラムも同じような状況で、ウガさんは別の惑星での政治的な交渉で成功したおかげで連れてこられたらしい。
私たちは親密感を抱き、いくつか交渉をおこなった。
私は、地球がいずれ宇宙でどんどん権勢を高めていくこともあり得ると思っているし、そのためにいろいろと活躍している。しかし、惑星カルラムも同じような方針で進んでいるのであれば、いずれはぶつかることがあるのかもしれない。
この広い宇宙では色々な星があり、その星の違う文化に戸惑うことは多い。しかし、同じ様な星があるというのは、それはそれで怖いことだ、と私は思った。
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