57日目 青春クラブの栄枯盛衰
オレが青春クラブというとんでもない名前のクラブに入ったのは、姉の命令があったからだった。
青春クラブというのは、当時学生だった姉が設立した部活で、姉と数人のメンバーで学校を楽しむ為だけに作ったのだという。その時は、クラブという事を建前に皆で遊びに行ったり、合宿を行ったりして、青春を十分に謳歌したのだという。
そんな姉が教職を取るために、学校に教育実習に帰ると、残っていたのは変わり果てた青春クラブの姿だった。
「だっさいメンバーが、身内ノリだけでわちゃわちゃ遊んでいて、しかもそいつらが三年で卒業したら、空気みたいなメンバーだけが残るわけよ」
とは、姉の弁である。そして、オレに対してなんとかしろと言い放ったのである。
「あの状況だったら消え去った方がましだけどね。けど、あんたみたいな奴には逆に今みたいな状況からなんとかする方が良いでしょ」
姉の言うとおりにするのは癪だったが、もともと何もするつもりがなかったオレは、うまくいったら姉が乗っているバイクを譲ってもらう約束をとりつけて、学校に乗り込んだのである。
青春クラブというのは、去年までいた三年生が消え去って、随分と静かになっていた。
誰も人がいないというのであれば、それはそれでやりやすい。そう思っていたのだが、一人だけ二年生の女子が残っていて、勧誘活動をしていた。
その女子は従兄弟の兄が居て、その兄から話を聞いた青春クラブに憧れていたそうだ。しかし、去年の三年生達とはノリが合わなかったらしい。
「先輩達もいなくなったし、今年こそちゃんと活動したいの」
先輩はそんな風に夢を語った。オレは面倒な人がいたものだ、と頭を悩ませることになった。
なんにしてもまずは人を集めないといけない。その点でオレと先輩は同士だった。オレはそのために、まずは名前を変えることを提案した。
「さすがに青春クラブは入りづらいっす」
姉にも同じ事を言ったら殴られたのだが、先輩は少し渋ったものの認めてくれた。
「正直ね。設立当初のメンバーは、スター性があるっていうか。物語の主人公みたいなひとだったからね。このメンバーだったら変えないとね」
オレは先輩のその言葉だけ言質を取って、部の名称を「地域活動部」に変更した。
変更後の名前は先輩に相談しなかったので、名前を知った先輩からは「なんで勝手に決めるの」と怒られた。
「もともと青春っぽいことがやりたいんですよね? となると、学校外での活動だったりをしないといけなくて、それをするなら理由をつけて近くに学習しにいくのが一番です」
「今まではそうじゃなかったから」
「設立当初は、お金持ちのメンバーがいて、別荘に合宿したりしていたみたいですけど、そんなことやれないじゃないですか」
そんな風に僕と先輩は衝突し合いながら、一緒に部活動を進めていった。
近くの資料館に学習の名目で休みの日にいったり、地域の祭りに参加したりするというのがオレが提案した内容だった。先輩も対抗意識を燃やして、夏休みの各部活動の試合を聞いて、一緒に行きやすくするということをしていった。
先輩が三年になった頃には、一年生も多く入ってきたし、周りの人にも同級生と一緒に遊びに行く口実になる部活として認識してもらえたので、青春を楽しむというもともとの活動に近い内容になってきた。話をすると、姉からも合格点をもらうことが出来た。
正直言って、先輩がいたことで面倒なことはかなり多かった。けれど、先輩がいなかったら、こんなに人は来ていなかっただろう。企画を考えるところはオレが先輩をフォローしたが、実際に実行するところは先輩にフォローしてもらうことが多かった。
先輩の卒業の日、最後の部室でオレと先輩は二人きりだった。
「思っていたのとは違ったけど、結局一番青春だった気がするね」
先輩はそんな風に言って笑う。その笑顔に見とれそうになる。
ここで告白したら最高に青春だな、とオレは思った。
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