49日目 友情は見返りを求めず
メキシコに住むCano君と仲良くなったのは、インターネットでの繋がりからだった。
僕は中学の頃に、マイナーなPCゲームにはまって、ブログに攻略情報を書き込んでいた。マイナーなゲームだが、コアなファンはいたようで、数こそ少なかったが世界中からコメントが来ていた。その当時は感想を言い合える人にも飢えていたので、数少ないコメントに対して翻訳ツールを使ってコメント返信をしていたのだった。
Cano君は英語ではなくスペイン語でコメントをくれていたので、すぐに名前を覚えてしまった。Cano君の方も、返信が来ることが意外だったのか、それからいくらか交流が始まった。
Cano君から、攻略に詰まっている箇所がある、というメールが来て、それに対して僕が攻略法を教えたこともあり、アメリカでそのゲームのグッズが出たのでそれを手に入れたCano君が国際便で僕に送ってくれたこともあった。
僕が大学生になった頃、ゲームの攻略動画を動画サイトに上がる文化が盛り上がってきたので、僕もその波に乗り始めた。Cano君はその頃には僕の良きアドバイザーになっていた。
僕が動画を上げると毎回コメントをくれるし、僕が相談すると長文で答えてくれた。その頃には、Cano君も日本語を習い始めていたし、僕もスペイン語を勉強し始めていた。けれど、どちらも片言だったので、難しい時にはお互い英語で話すことになった。
Cano君と僕の趣味は似通っていて、僕がブログに載せたゲームをCano君がやってくれることもあれば、Cano君がオススメのゲームを僕に教えてくれたこともあった。
大学生になって、Cano君と実際に会って遊んでみたい、と言う気持ちがふつふつと高まってきた。海外に行くなら大学生のうちが良さそうと考えて、思い切ってメールしてみると、歓迎するよ!、と返信があった。
Cano君はメキシコシティに住んでいるらしく、もし来るなら空港に迎えに行くし、住む場所だったりご飯は心配しなくても良いとのことだった。僕は修学旅行以外旅行をしたことは無かったのだが、夏休みまでバイトをしてメキシコへのチケットを取った。チケット代も払う、とCano君に言われたのだが、そこは自分で頑張ることにした。
たどり着いたメキシコで待っていたのは、ニコニコと思っていたような笑顔をしていたCano君だった。同い年だと聞いていたが、僕より年下にも見えるくらいだった。僕とCano君はお互い片言のスペイン語と日本語で挨拶を交わした。
メキシコシティは高層ビルが並んでいて、僕の地元よりは都会だ。Cano君の家はそんな街の中心部にあった。どこに連れて行かれるのかと思ったら、大豪邸の入口まで通されて、警備員が何人も経っているところを車が通っていった。
とんでもない場所に来てしまったぞ、と内心思いつつ僕はCano君に言った。
「すごい、お金持ちなんだね」
「僕の祖父がとてもお金持ちなんだ」
その時の表情で、なんとなくだが、Cano君が僕の事を見定めようとしているように思えた。僕は返事に困ったが、別に日本とメキシコに住んでいて、お金をもらおうとしているわけでもない。ただのゲーム友達なのだ。
「いいね。ゲーム専用部屋とかないの?」
「ふふっ。僕はゲームが並んでいるところ見ながら寝るのが好きだから、専用部屋は作ってないんだ」
それから、僕とCano君は外出もほとんどせずにゲームで遊び続けた。Cano君は友人と一緒にゲームという事をほとんどしたことがなかったらしい。なんてもったいないんだ、と言いながら、僕たちは二人プレイを楽しんだ。
途中の食事の際に、お祖父さんだという人と一緒になったので挨拶をしたが、Cano君は実にかわいがられているらしい。今後ともよろしく、困ったらなんでも言うと良い、なんてことを言われて僕は困ってしまった。
翌年にはCano君も日本にやって来たのだが、ボディガードがいないと一緒にいられないらしく、仕方なくCano君が止まっているホテルにゲーム機を持ち込んで遊ぶことにした。
社会人として就職した後も、僕は動画投稿を続けていて、Cano君との交流を続けていたのだが、ある時Cano君から真面目なメールが来た。
「具体的なことを言えないのが申し訳ないんだけど、僕のせいで君に迷惑がかかるんじゃないかと心配している。周りに気をつけて。もし可能なら、メキシコまで来てくれたら良いのだけど」
実際その頃、僕の周りにはおかしな事が起きることが増えていた。
深夜の道で周りに人がいないと思っていたら、急にすぐそばで喧嘩が始まったり、外国人に急に呼び止められたかと思ったら、近くから来た人がその人を捕まえていってしまったりなどだ。
僕は返事を迷っていると、急に部屋の電気が消えて、パソコンの電源も落ちた。そして、いつの間にか部屋にいたらしい誰かに、そのまま拘束され、目隠しをされてどこかに連れ去られた。
どの程度時間が経ったか分からない状態で連れ回されて、誘拐犯の顔も見えないまま数日を過ごした。そこから数日は今までの人生で味わったことがない波瀾万丈だった。まさか現代日本社会で銃撃戦を見ることになるとは思わなかったし、ヤクザに追い回されるのも映画の中だけのことかと思っていた。
そんな日々を過ごした後に解放される事になり、マフィアだという親切な男は僕に告げた。
「会社は退職したことになっているし、部屋の僕の私物は撤去されてるから。原状復帰するから、数日は適当に過ごしていてよ」
彼はそんな風に言って、現金の束をいくつか押しつけて去っていった。
僕はそのままタクシーを呼び止めて、家電量販店で高スペックのノートPCを買った。そのままネット喫茶でネットにつなげた。
僕はチャットソフトにログインしてフレンドになっているCano君に連絡すると、彼はすぐに連絡をくれた。
「大変な事になってしまって申し訳ない……」
彼が真面目な謝罪を言おうとした所を僕は遮った。
「確かに大変だったけどさ。まぁ、いいよ。そんなことよりゲームしようぜ!」
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