第23話 恋愛学部純愛学科綾城教授のデート理論!!

 ロジハラされてテンパっちゃってるミラン。おどおどしながらも反論した。


「そもそもみんな勘違いしてるんだけど!リアルなお芝居のために実際に物事を経験する必要なんてないんだよ!!例えば宇宙飛行士の役があったとして!実際に役作りの為に宇宙に行ける人なんていると思うかい!いないだろう!!役者は自分自身の想像力でももって演技を組み立てればいいんだよ!!だから恋のお芝居に恋愛経験なんて別になくてもいいんだよ!!論破だから!これで論破だから!!経験なんて必要ないんだよ!ボクにはぁ!!!」


 早口でまくしたてる様は実に憐れだ。だがそこへ我らの屁理屈女王綾城センセーは無慈悲なる追撃を行う。


「でも実際あなたはそのお芝居が出来てないのよ。それはあなたの論理を拝借するのであれば、恋についての経験ではなく想像力が不足しているからでしょう?想像力の不足はあなたの努力不足でなくて?この童貞女どうていじょめ!」


「ぐはぁ!童貞?!ボクが童貞ぃ?!いやぁあああああ!!!」


 膝をつき、頭を抱えるミランちゃん(童貞女)。その嘆きには同情心しかわかない。


「あなたの男役がどことなく清楚な雰囲気を持っているのは、あなたが童貞臭いからだったのよ。童貞女!素晴らしい響きね!!ああ!」


 童貞女。なんともひどい言葉があるものだ。処女と違って価値が無さそうなのがすごい。俺なんかもそうじゃん?前の世界では経験人数一人だけだし、戻って来たから体は童貞だし。精神的にはセカンド童貞。体は真性童貞!なんか泣けてきたよ!


「綾城。そろそろフォローいれてあげて。俺もなんか泣けそうくらい憐れなんだ。救ってやってくれ」


「えー?もう少し弄ってやりたかったのにぃ。まあいいわ。美魁。あなたのお芝居には恋への想像力が根本的に足りない。だからあなたのお芝居は上手いのにつまらない。ならどうすればいいのかわかる?」


 ミランはふらりと真っ青な顔で立ち上がり。


「いますぐに処、じゃなかった童貞女を捨ててくるよ。常盤君…ヤるのはそこのトイレでいいかい?あは、あはは…芝居の為なら仕方がないんだ…!」


 虚ろな瞳でそう言うミランにますます俺の同情心が増していく。


「早まるのはやめなさいな。あなたが大切な童貞女を捨てずに済む方法ならちゃんとあるわ。宇宙飛行士の役をやるなら、飛行機で無重力飛行をやって無重力を経験すればお芝居に必要な想像力は生まれるでしょう。つまり疑似的な経験を積めばいいだけ。恋ならもっと簡単よ。美魁。あなた、常盤と今度の日曜にデートしなさい!」


 俺と楪とミランに衝撃が走る。言われてみればそうだ。別に恋をすればいいのではない、恋に近しい経験を積んでそこから感情を想像すればいいのだ。


「それいいアイディアですね!!わたし水族館に行きたいです!!王道しましょう王道!!」


 楪が実に楽しそうに言う。でもデートするのは君じゃないんだよなぁ!


「なるほど。それは素晴らしいアイディアだ!常盤君!お願いしてもいいかな!?」


 ミランは希望の糸口が見えたからか、瞳を輝かせている。かわいい。いいねこういう夢に向かって頑張ってる女の子って。


「まあ俺は構わないけど。綾城、デートの内容はどうするんだ?」


「そうね。まず一つ。心配だから当日は後ろからあたしと楪もついていくわ。童貞女はなんかデートだと緊張して硬くなりそうだからサポートはあった方がいいでしょう?…それに楽しそうだし」


 後ろが本音っぽいな。まあついてきてくれるのはありがたい。


「あとわたし海もみたいです!!砂浜を恋人と歩くのが夢なんです!!」


 だから楪よ!デートの相手は君ではない!!


「ふむ。水族館かつ海…確か江の島がその条件を満たすわね。そこにしましょう。何処回るかは常盤と美魁の二人で決めなさい。決まったら行動予定表のレポートをあたしに提出。それをあたしが添削してあげる」


「ええぇ。レポートって風情がないなぁ…!俺そんなものをデートとは呼びたくないよ!!」


 いくらここが大学だからってデートまで講義演習みたくするのはいかがなものか!!


「仕方ないでしょ。エモく仕上げないと演技に必要な想像力は得られないかも知れないわ。第三者の視点で可能な限りエモさを足してあげるから。それにレポート作成を男女二人でやって気がついたら付き合ってたって大学ではよくあることよ。その経験も演技の引き出しになるわ。男女に友情は存在しない。故に男女が共に何かをすればそれは必然的にデートとなるのよ」


「さすが屁理屈女王…!説得力が半端ない…!?」


 なんかだんだんと綾城の言ってることがガチで正しいのではないかと思ってきた。確かに個人的には男女2人で一緒にワイワイしながら授業のレポートとかやってみたい。ぶっちゃけ理系のレポートって定理や論理がガチガチだから誰かと一緒にやってもギスギスになりがちだしね。こういうデートプランとかいう曖昧なテーマはレポートの題材としては和気あいあいとできていいかも知れない。


「綾城教授!ボクは若輩な童貞女ですが、御指導ご鞭撻をよろしくお願いいたします!!」


 ミランはそれは見事な深い御辞儀を綾城に向かってした。


「ええ!まかせなさい!この皇都大学恋愛学部純愛学科教授の綾城姫和があんたを立派な非童貞女にしてあげるわ!!」


 気がついたら教授になってた。おかしいなぁこの間が入学式だったはずなのに!


「このわたし皇都大学恋愛学部現代ラブコメ学科助教の紅葉楪もついてますからね!!どんとまかせてください!!」


 最近は助手じゃなくて助教って言うらしいね。でもぶっちゃけ大学の先生の肩書の序列って謎だよね。特任教授と名誉教授と普通の教授の違いがよくわからない!ぶっちゃけ単位を甘くつけてくれるならなんでもいいけど!かくしてミランの演技の為のデートを行うことが決まったのである。




 そして演技の練習をしつつ、2人でデートのプランを考える日々が始まった。不思議なことにデートが決まってからミランの演技はすぐにほんの少しだけどよくなった。それをドヤ顔で綾城は、『デートへの期待感さえもまた恋の一部だからよ。その想像が演技に艶を与えたのよ』などとドヤってた。これはマジでデート後に演技が素晴らしいものになるかも知れない。綾城は本当に恋愛学の権威なのかもしれないな!まあそんな楽しい日々を送りつつすぐに週末の金曜日はやってきた。


「綾城のレポートの添削ガチなのマジでウケるんだけど」


 俺とミランの二人は夕飯を学食で食べながら、綾城教授(笑)から返って来たデートプランのレポートを読んでいた。


「でもなんか凄く格調高い文章だし、知識も本物っぽいよこれ。各種イベントで好感度を上げる方法論がちゃんと心理学とかの文献に裏付けられてるんだけど!」


「文献引用のルールがマジの科学論文っぽいのがすごい。あいつ本当に学部の一年生?じつは修士の一年とか博士の一年だったりしない?俺はあいつが院生でも全然驚かないぞ」


 まあ流石にそれはないないけど、あいつの教養はガチだ。勉強しか出来ない奴と違って、研究能力とかもすごく高そうだ。半端ない優秀さが伺える。


「明日は確か三人でミランのデート服を買いに行くんだっけ?」


「うん!そうなんだ!ボクさいきんはずっとズボンとかばっかだったからね。デートするなら女の子っぽくするって!楽しみだよ!ボク女の子同士できゃっきゃと買い物するの夢だったんだぁ!」


 ミランはワクワクと楽しそうな笑みを浮かべている。なお発言に若干の闇を感じるが、今はほじくるのやめよう。


「そっか!楽しみにしてる」


「えへへ!期待しててね!」


 お互いに微笑み合って期待感を確認し合うのはとても楽しいと思えた。それは多分幸せの雰囲気に近いところにあるのだと思う。だがそれを切り裂くような声が聞こえた。


「あれ?常盤君と、それに美魁?やっほー!なにやってるのぉ?」


 甘ったるい能天気な声がする方へ振り向くと、そこにテニスウェアを着た嫁がいた。その後ろには嫁のズットモダチのサバサバ系(俺は大嫌い)女と、いつぞやの学食での騒ぎの時に葉桐の傍にいた医学部の男子生徒たちがいた。みんなテニスウェアを着ている。俺は思わず自分が渋い顔になったことを自覚せざるを得なかったのだった。


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