第9話 アーリンお姉ちゃん

お風呂から上がり応接室に戻ってくると、マルゴット姫は今にも寝てしまいそうに目を擦りながらうつらうつらとしていた。


「今日は迎賓館で泊っていく?」


マルゴット姫の頭を撫でながら尋ねると、彼女は眠そうな表情で頷いた。


「ちょっと何を考えているのよ?」


シャル王女は驚いた顔で聞いてきた。


「あなただってよく泊まっていくでしょ。マルちゃんもすごく眠そうだから泊まってもらうの。別に問題ないでしょ?」


「マルちゃん!?」


あわあわと焦るシャル姫達を無視して、眠そうなマル姫の手を引いて寝室に向かう。歩きながらメイドにマル姫の従者にも部屋を用意するように指示する。


うふふふ、偽ピョン吉マルゴットひめと一緒に寝るのよ!


もっちりとしたマル姫の手を握りながら、自分の寝室に連れて行くのであった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



翌朝、気持ちよく目を覚ますとマル姫はまだ眠っていた。

お互いに抱き合いながら眠っていたようで、マル姫のプニプニの体はやはりピョン吉と似ており、昨日の色々な疲れが癒されて、気持ちの良い目覚めであった。


マル姫のほっぺたを触っているとマル姫は目を覚ましてしまう。

彼女は寝起きが悪いようで、クリアで寝汗や顔をきれいにしても寝惚けたままで、朝食を食べにダイニングに移動して、目の前に朝食が置かれてようやく意識がハッキリしたみたいだ。


「ほらほら、もっとゆっくりと食べなさい!」


マル姫は王族と思えないような勢いで朝食を食べていた。サラダやベーコン、スクランブルエッグなどを頬が膨らむほど一気に口の中に入れて、ドレッシングやスープが口から垂れているのをフキンで拭いてあげながら注意する。


妹みたいで可愛いわぁ~。


「しゅまにゅにゃ!」


「マルゴット姫、口にものを入れた状態で話すのは行儀が悪いですわ」


結局シャル王女も迎賓館に泊まり、一緒に朝食をとりながらマル姫の行儀を注意している。


「ングゥ、土棲ドワーフ族は人族みたいに上品ではないのだ。それにここの料理は王宮より美味しいから仕方ないではないか!」


「うふふふ、確かに迎賓館の料理は王宮より美味しいわねぇ~」


マル姫の主張に笑顔で答えたのは、シャル王女と同じく最近はよく泊まりに来る王妃である。


迎賓館の客室は王妃やシャル王女達の専用になりつつある。朝食を一緒に食べるのも当たり前のような感じになっていた。


私は気になっていたことを食べながらマル姫に尋ねる。


「私も土棲ドワーフ一族の話を聞いたことがあるけど、そちらの従者の二人のように背は低いけど筋肉質で鍛冶を得意にしていると聞いていたわ。でも王族のマルちゃんは鍛冶をしないからこんなにぷにゅぷにゅで可愛いのかしら?」


「か、可愛い……」


マル姫は照れたのか頬を赤くしながら呟いていた。そしてすぐに私の質問に答えてくれる。


土棲ドワーフ族は男女問わず、生まれたときに鍛冶が得意な者と付与魔術が得意な者に分かれるのだ。私のように付与魔術が得意だと、か、可愛くなるのだ……」


なるほどぉ。


付与魔術が得意な土棲ドワーフ族はマル姫のようにぽっちゃりタイプになるみたい。


朝食を終えると応接室に移動して、お茶を飲みながら改めて話し合いを始める。


「それでお願いとは何なのかしら?」


私は率直にマル姫に尋ねた。横にはシャル王女だけでなく王妃も一緒に話し合いに参加している。


マル姫に昨日の勢いはなく、戸惑ったように話し始める。


「実はテックスの知識は土棲ドワーフ族の秘伝を盗んだのではないかと疑っていたのだ……」


予想外の話に私だけでなく王妃やシャル王女も驚く。


それからマル姫はなぜそう思ったのか詳しく説明をしてくれた。


土棲ドワーフ族には鍛冶や付与魔術だけでなく、魔力量を増やす方法が秘伝として伝えられてきた。

その方法は古の勇者と共に魔王と戦った土棲ドワーフ族が、勇者から教えてもらったそうで、広めると悪用するやからが出る可能性もあるため秘伝としたようだ。


テックスが『知識の部屋』に登録した知識は許可をもらわないと閲覧することができず、土棲ドワーフ族から盗まれたことを確認することができない。

でも同じ知識である可能性が高いので、それを確認するために直接テックスに確認するためにマル姫が派遣されてきたのだ。


「しかし、盗まれたのではなく、テックス殿の知識は土棲ドワーフ族の秘伝以上の可能性がある……」


「「姫様!」」


マル姫の発言に従者の二人が驚いて声を上げる。


「まあ待て。お主たちはこの迎賓館を見て気付いているはずだ。土棲ドワーフ族である我々にも分からない建築方法。驚くほどの芸術性と私にも理解できない付与効果。我々の知らない魔道具もそこら中にある。それらは土棲ドワーフ族から盗まれた知識や技術ではない!」


従者二人も心当たりがあったのか黙って俯いてしまった。マル姫はそれを確認すると私を見て改めてお願いをしてきた。


「私はテックス殿への疑いはない! だが王族として確証もなく国に帰るわけにはいかないのだ。どうかテックス殿に知識の閲覧許可をもらえないだろうか?」


「そのことは国王陛下が断ったはずですわ。ヴィンチザート王国民以外には許可が出せません」


王妃は申し訳なさそうにマル姫に話した。シャル王女達は頷いていてけど、マル姫は目に涙を浮かべて悲しそうな表情をしていた。


「私から先生に確認しましょうか?」


テンマ先生はヴィンチザート王国だけに知識を広げようしたわけではない。私はそのことを知っていた。

テンマ先生はヴィンチザート王国の国王と話して、ヴィンチザート王国内に関しての契約を国王としただけである。


「アーリン殿、本当か!?」


「ダメよ!」


「にゃんで?」


マル姫が目を輝かして尋ねてきた。


しかし、私はマル姫の顔を両手で挟み込むようにして即答する。マル姫は顔が潰されたようになりながら再び尋ねてきた。


「アーリンお姉ちゃんと呼ばないと、先生に確認しないわ!」


王妃やシャル王女からジト目で睨まれているけど、これだけは妥協できない!


「アーリン……お姉ちゃん、お願い!」


「お姉ちゃんに任せなさい! すぐに確認するわ」


マル姫の頭を撫でながら返事すると、すぐに文字念話でテンマ先生に連絡をしたのである。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る