第2話 夢のような王都

私達の馬車は下級貴族といえ貴族専用の列からすんなり王都の中に入れた。見上げるような門を通り過ぎると、広場なのかと勘違いしてしまいそうな大通りが続いていた。


「ふあぁ~」


思わず声が出てしまう。恥ずかしくなりお母様達を見ると、優しい笑顔で私を見つめていた。

頬が熱くなるのを感じたけど、恥ずかしさより好奇心のほうが強くて、すぐに王都の街並みに視線を戻してしまう。


まず人の多さにビックリしたけど、馬車の種類の多さにも驚いた。ロンダでも見るような飾りのない箱馬車も見かけるけど、豪華な装飾のある馬車や商会などの名前が書かれている馬車も走っていた。


「お父様、私もあんな馬車に乗ってみたいですわ!」


真っ白でちょっと小さくて可愛らしい馬車を指差してお願いした。


「はははは、あれは王都内だけで移動するような馬車だよ。王都の屋敷に同じような馬車があったはずだよ」


お父様の返事を聞いて、私は指差した馬車に乗る自分の姿を想像して夢の世界にいるような気持になる。これから最低でも一年間は王都で暮らすことになるけど、そのことが本当に嬉しい。


馬車はさらに大通りを進み、通りの左右にある商店を眺めているだけでも大変だった。気付くと王都の中心にある広場に到着していた。


「ふ、ふあぁーーー!」


ロンダでは想像できないほどの光景に、気付くとまた声を出していた。


こ、この広場が二つあればロンダの町より広いかも!


もちろん自分でも大げさな表現だと分かっている。広場の真ん中ではたくさんの屋台が軒を連ね、これほどまとまった人波を始めて見て驚いていた。初めてみるその光景をうまく表現できなかったのだ。


広場だけでなく、広場を囲むように大きな商店があった。建物はどれもロンダでは見たこともないほど大きく、豪華な装飾がされていた。


絶対に遊びに行こう!


広場を通り過ぎながら心の中でそう考えていた。


すぐに馬車を降りて屋台など見て回りたい誘惑に落ち着かない気持ちになったけど、馬車は広場の外側を回り込むように奥へ進んでいく。


馬車が広場から奥の道に進むと、少し落ち着いた雰囲気になる。左右にあるお店の雰囲気も上品になり、お客も馬車で乗り付けるような上品な客が多いわ。


暫く進むと騎士の検問があり、問題なくそこを通過した。

検問所を過ぎると突然に雰囲気が変わる。歩いているのは騎士や兵士だけで人や馬車の数は少ない。商店などはなく、落ち着いた感じの家が多くなった。


もしかしたらここから貴族やお金持ちの住まいなのかしら?


奥に進めば進むほど家は立派になり、庭のあるようなお屋敷も少しずつ見かけようになる。そんなお屋敷を見て夢は膨らむ。


うちは下級貴族だから期待してはダメよね。


膨らみ過ぎる妄想を自分で戒める。下級貴族の我が家では、期待しても現実を見て落胆すると思ったからだ。

准男爵は領地持ち貴族としては最下級の爵位である。その上ロンダは王都から離れた辺境にあり、王都に毎年顔を出すだけでも大きな負担となっている。


しかし、予想に反して馬車はどんどんと奥に進んでいった。すでに周りは庭のあるような屋敷しか見かけないようになっている。


ダメよ、期待しちゃ! いくらなんでもこの辺は無理よ!


どう考えても上級貴族でもなければこの辺の屋敷は無理だと思っていた。それでも浮き立つ気持ちを必死に落ち着かせる。


もしかして王都の家に向かう前に、両親が王都の案内でもしてくれているのだと自分に言い聞かせる。


あっ、素敵なお屋敷!


左側に広い庭にそれほど大きくない屋敷といくつかの建物が敷地内にあり、屋敷や建物の全部が真っ白で目を引いたのだ。


こんなお屋敷でお茶会を開いたら素敵でしょうねぇ~!


はっ、ダメよ! 期待し過ぎたらその反動で──。


冷静になろうと首を振って妄想を振り払おうとする。しかし、顔を振り終えて顔を上げると、驚くことに馬車はその屋敷の敷地内に入っていく。

私は慌てて振り返って両親の顔を見る。するとお母さまが笑顔で話してくれた。


「ここは叔母様ドロテアが戦争で活躍した褒賞として、王家から下賜されたお屋敷よ。そこの建物が叔母様ドロテアのお家なのよ」


正面のお屋敷ではなく、横のシンプルな家が大叔母様ドロテアの家だと教えてくれた。


なぜ下賜された大叔母様ドロテアが一番大きなお屋敷に住んでいないのか不思議に感じたけど、なんとなく大叔母様ドロテアらしいとも考えていた。


「うちのような下級貴族には維持するのも大変だけどねぇ……」


お父様はどこか遠くを見つめるように呟いていた。


王家から下賜されたのなら、下級貴族に分不相応なお屋敷だとしても納得できる。でもお父様の言うように、維持するだけでも人手や経費がかかりそうだわ。


「あなた、維持費の大半は叔母様ドロテアが出してくれているのよ」


お母様に注意されて、お父様はバツの悪そうな表情をしていた。


私はそんなことよりも大叔母様ドロテアに感謝する気持ちが強くなる。国の英雄と言われる大叔母様ドロテアがいるからこそ、王都で理想的なお屋敷に滞在できるのである。


私は夢のようなお屋敷をウットリと見つめていた。



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