死んだはずの親友がVTuberになってた話

異世界新海

#1

 夜。自宅にて。私の部屋に置かれているパソコンの前に座り、VTuberの配信を観ている。


『えっ、へっ? 牛、死んだ……ちょっと、えっ、待って、目の前で、ちょっ、え、牛とスノーマンさ、目の前で、死んだんだけど。ちょッちょッちょッ』


 落雷により、拠点にて柵に囲まれ閉じ込められていた牛とスノーマン、それから、彼女の操るアレックスが、燃え尽きて死んだのは、マインクラフトの世界の中での出来事であって。


 このわざとらしい配信実況スタイルは、間違いなく、すぐ媚びて謝っちゃう小見川詩音おみがわしおんちゃんの声から成り立っていた。


 死んだはずの、詩音ちゃんが――


 ――人気ライバー『仄白ほのじろほのか』として、マインクラフトの配信をしている。


 詩音ちゃんのことを大好きだった私だから、彼女の声質であると断定できる。


 大手Vtuber事務所『ナナイロウバイ』に所属する、仄白ほのかちゃん。


 き間違えるはずがない。たまたまタップした配信動画。


『なんか教会』と、マインクラフト内で建築した教会の屋根に落雷したと同時に豪雨が晴れたシーンに、ゲラゲラと素の笑い声を漏らしたあとすぐ、また元の媚びるような声質を取り戻して騒ぎ出す。


『えっ、教会、えっ、ちょっと、燃えてるん、なんか燃えてるんだけど、え、待ってちょっ、屋根燃えてるんだけど、教会の屋根燃えてるんだけど!』


 と、Live2Dで出力されたガワの目が細くなる。にやける口も三日月の形になり、たとえるならまるで足湯に浸かった瞬間のような、恍惚こうこつの表情を見せる。


「詩音ちゃん……」


 あからさまにわざとらしく「自分いま世間一般的に慌てふためいていると解釈されるよう振る舞っていますよアピール」なんかしながら言い直されちゃうと……。


 駄目だよ。


 ますます詩音ちゃんが、本当に生き返ったんだと錯覚しちゃう。


 目頭が熱くなって、今すぐにでもいたくなっちゃう。

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