第43話 終演後

 山田は泣きながら拍手をしてくれている。本当にこんなふざけた『オズの魔法使い』でよかったのかな?


 人生最後の芝居だぜ? 山田が観たかったのは、もっとちゃんとしたやつじゃなかったのかな?


「おもしろかった!! ドロシーはその国でしあわせに暮らせたんだな。しあわせなら、どこでもおんなじだ。カンザスなんか帰らなくったって……、くっ」


 言葉尻は涙がにじむ。


「おれ、劇場部のこと、ナメてたかもしれない。こんなおもしろいアレンジしてくれるって知ってたら、毎日部室に顔出してたよ」


 唇を噛みながら無理に笑顔を作る。


「ああ。たのしかったか? これでよかったのか?」


 今にも山田に駆け寄りそうなおれの手を、糸子さんがきつくつかんでいる。おれは、生きなきゃな。山田が見ることのできなかった景色を、おれが代わりに見なきゃならないから。だから。


「すごくたのしかった。ありがとう、山口。おれ、先に行ってるわ」


 そうして、山田はいつのまにかできていた川のせせらぎの方に歩いて行った。


「大丈夫です。山田様にはきっと、閻魔大王様からの粋な計らいがあるはずですから」


 糸子さん。やさしいな。


 そうして緑の壁を抜けて、現実世界に帰ってきたおれたちは、ずぶ濡れだった。


「雨、やまないな」


 おれはしばらく傘もささずに、その場所でたたずんでいた。


 つづく

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