ロマンス劇『ノーマ・ジーンに惚れた男』 その三

 青年がノーマ・ジーンと再会して数日経ちました。


 青年はいつものように額に汗を流して働いています。こうして体を動かしていたら、彼女のことだって忘れられると信じていたからです。


 悪い夢を見ていただけだ。そう思うことでしか、救いはありませんでした。


 そこへ、なに食わぬ顔をしてノーマ・ジーンが会いに来ました。まるでふらりと立ちよったかのように手ぶらです。


「きみ……。一体どうしたんだい?」


 青年は、それでもやさしく問いかけます。


「あたしの初恋は、本当はあなただったことに気がついたの。幼い頃、気づけばいつも目があっていた。いじめっ子からいつもあたしのことを助けてくれていた。いつもひとりだと思っていたけど、あなたは勇気を出して会いに来てくれた。なのにあたしは邪険にして。ごめんなさい」


 そう言うと、ノーマ・ジーンは深々と頭を下げます。


「やっと気づいたの。あたしはあなたのことが好き。あなたのことを想うと、心がとてもおだやかで、やさしくなれるの。だから、全部捨ててきちゃった」


 彼女は本当になにも持っていませんでした。青年は、そんなノーマ・ジーンに触れる前に、畑仕事で汚れた自分の体をはたき落とします。彼女には泥は似合わない。そう思ったからです。


「泥なんて、どうでもいいのよ」


 そう言うと、ノーマ・ジーンは青年の胸に飛び込みました。あたたかい。そして、彼女の心はそれでもうつくしいままでした。


「ああ、かわいい人。でも、ぼくの側にいたのでは贅沢はできないよ?」

「好きな人の側にいることこそが最高の贅沢よ」


 二人は強く抱きしめあいました。


 そうして二人は、誰も知らない土地に行って、お爺さんとお婆さんになるまでしあわせに暮らしましたとさ。


 めでたし、めでたし


〈以上を持ちまして、ロマンス劇『ノーマ・ジーンに恋をした男』は閉演となります。ご観劇いただき、誠にありがとうございました。また、お帰りの際はお忘れ物のなきよう、足元にお気をつけてお帰りください〉


 終演ブザー


 閉幕


 ☆☆☆


 つづく

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