ロマンス劇『ノーマ・ジーンに惚れた男』 その二

 青年はなんとかノーマ・ジーンに会いに行こうと一生懸命がんばります。


 そしてついに、彼女に会う約束を取り付けることができました。


 けれど、それは青年が望んでいた再会ではありませんでした。


 ガードマンに取り囲まれた黒塗りの車の中、そこが再会の場所でした。


 青年が望んでいたのは、ガードマンがいてもいいから、うつくしい夜景を眺めながら、おいしい食事のできるレストランを希望していたからです。


 ですが、文句は言えませんでした。このチャンスを逃せば、次にいつ彼女に会えるかわからないのです。


 青年は緊張した面持ちで、黒塗りの車のドアを開けました。はたして、中には泥酔したノーマ・ジーンがいました。


「なんてことになっているんだ? きみは一体、どうしてしまったのだ?」


 青年はそこで、彼女が好きでもない男と複数回結婚させられていたこと、本気で好きになった人には奥さんがいて、自分と一緒にはなれないことなどを嘆いて、泣いていました。


「ああ、ノーマ・ジーン。ぼくは、きみに笑って欲しくてこれまでがんばって働いてきたというのに」


 青年の言葉に、ノーマ・ジーンは激しい拒絶反応を示します。


「がんばるってなに!? あたしは、しあわせになろうと努力してきたの。がんばったのっ。でも、しあわせはいつもあたし以外の誰かのもので、決して手に入らないの。あんたなんかに、あたしのなにがわかるのよっ!? あんただって、他の男とおなじなんでしょう? たった一度、あたしをその腕で抱きしめることができたら箔がついて、そうしてもうあたしには見向きもしない。そうなんでしょう!?」


 ヒステリックに叫ぶ彼女に気づいたガードマンが、車のドアを開けて青年を放り出してしまいました。


「彼女は今とても不安定なのだ。本来ならお前のようなうす汚ないやからと会わせることはないのだが、彼女のたっての望みとあって会わせてやることになったんだ。もう満足しただろう? 帰れ。彼女はお前なんかの手には負えない」


 青年はがっかりして家に帰りました。幼い頃、他の子供より大人びているノーマ・ジーンのことが、毎日のように気になっていました。


 まるですべての不幸を背負ったように笑わない女の子。本ばかり読んで、友だちを作らない女の子。


 笑えばきっとかわいいのに。


 そうだ、ぼくが笑わせてあげよう!!


 あの時の自分との約束はなかったことになりました。青年では彼女を救えなかったのです。


 つづく

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