寸劇 『アランとお姫様』
〈キャスト〉
※アラン……山口 努
※お姫様……空野 響
※乳母……陸田 瞬
※語り部……海原 薫
〈ただいまより、寸劇『アランとお姫様』を上演いたします。最後までごゆっくりご観覧ください〉
※開演ブザー
※語り部の話にあわせて、演者が芝居をする。
☆☆☆
アランは家庭の都合でお城に下働きに来ていました。
ある肌寒い春の日、アランがいつものように馬の世話をしていたところ、お城のお姫様と出会いました。
出会った瞬間から燃えるような激しい恋に落ちてしまった二人ですが、このことが王様にばれて、アランは城内で執拗な暴行を受け、ついには死んでしまいました。
悲嘆にくれたお姫様は、毎日泣き暮れておりました。
ところが、話はこれで終わりではありませんでした。
悲嘆にくれるお姫様の元に、暴行の一部始終を見学していた乳母がやってきます。
アランは苦しみの中で、乳母に伝言を残しました。
もし自分が死んでも、どうか悲しまないで欲しい。あなたの悲しみは、ぼくの悲しみだから。あなたが笑っているのならば、ぼくも一緒に笑える。生きていた間は、会うことがあんなに大変だったのに、今ではこうして魂がひとつとなり、常にあなたと共にいられる。むしろ感謝したいほどだ。だからどうか泣かないで。精一杯生きた後で、また次の世界で共に生きよう。それまで、魂はおなじ場所にある。あなたの魂とおなじところに。
乳母からその話を聞いたお姫様は、それからよく笑うようになり、最後の最後の瞬間まで、微笑んでいたのでした。
ところで、このお話にはまだひとつだけ秘密がありました。
それはお姫様とアランのことを王様に告げ口したのは乳母だったのです。
まだほんの小さな子供の頃にお城に売られてきたアランは満足に読み書きをすることができず、また言葉にも少しなまりがありました。
乳母は、それでも最後までお姫様に自分の気持ちを伝えて欲しいと必死になって言葉をつむぐアランに対して、そしてお姫様に対しても後悔の念で押しつぶされそうになりました。
だから、アランが残した言葉は、ほんの少しだけ乳母がアレンジを加えていたのです。お姫様はそのことにすぐ気がつきましたが、乳母を責めることなく、仲良く暮らしていました。
そうしてお姫様は独身のまま、九十歳まで生き延び、幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし
〈以上を持ちまして、寸劇『アランとお姫様』は閉演となります。ご観覧ありがとうございました。また、お帰りの際はお忘れ物のなきよう、足元にお気をつけてお帰りください〉
※閉演ブザー
☆☆☆
つづく
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