第481話 Round.6
View of フィリア=フィンブル=スラージアン スラージアン帝国皇帝
フェルズに女性が!?
あのフェルズに!?
い、いや、立場を考えれば全然おかしくないけど……フェルズが女性関係で浮かれる?
ありえないでしょ!?
「フェルズ様に限って女性に現を抜かすなど、ありえないのでは?」
女狐の言葉に賛同するのは癪だけど、でもその言は正しい。
こういっては何だけど、ここにいる四人……それからエインヘリアの色々なタイプの美女たちから想いを寄せられても、全く響いた様子を見せないあのフェルズよ!?
私とリサラは同意するように頷いたけど、エファリアはかぶりを振ってみせる。
「現を抜かすと言う程ではありません。ですが、どことなく落ち着かないと言うか、フェルズ様らしからぬ態度が散見されます」
「だからと言ってそれが女性関係のものとは言えないのでは?」
「リサラの言う通りだ。いくらフェルズと言えど、何かしらに気をとられることもあるだろう?」
「そうですね。ですが、その何かが……私は女性関係だと睨んでいます」
エファリアが真剣な表情でそう口にするけど……流石にそう簡単には信じられない。
あれだけ美しい部下達に囲まれて……しかもあれ程好意を向けられているのに一切手を出さない様な男よ?
いえ、女性に興味が無いと言う訳でない事は……まぁ、目線とかから分かっているのだけど……それがいきなり?
これが女慣れしていないただの男であれば、変な女に騙されているのではと心配するところだが、あのフェルズに限ってそれはあり得ない。
フェルズ自身の能力もさることながら、フェルズの周りに控える者達をそう言った人物が突破出来るとは思えないしね。
うーん、やっぱりフェルズに女の影って無理があるんじゃないかしら?
「エファリア様、何か根拠のようなものがあるのでしょうか?」
「すみません……証拠となるようなものは一切なく、あくまで私の勘ということになります」
……勘。
これがエファリアの言葉でなければ一笑に付すところだけど、エファリアの勘と言われてしまうと……かなり信憑性が高い気がしてきたわね。
恐らくリサラも……ついでに女狐も同様の意見なのだろう、表情が険しいものになっている。
でも……あのフェルズが……?
「エイシャ達にも話を聞いたのですが、そのような怪しい人物は見られなかったという話でしたが……皆さんフェルズ様の様子がおかしい事には気付かれています」
「……」
それはもう決定的な気もするけど……果たして、エインヘリアの誰にも気づかれずにフェルズが城を抜け出し、どこぞの女と逢瀬を重ねるなんてことが可能かしら?
いえ、無理ね。
エインヘリアの諜報部は常軌を逸したレベル……いくらフェルズ自身が英雄並みに優れた人物といえども、彼らに一切関知されないと言うのはあり得ない。
可能性があるとしたら……。
「……相手はエインヘリアの誰か?」
「いえ、それだけは絶対にないとのことです」
私の思い付きは即座にエファリアに否定される。
それにしても絶対か……なんというか、エファリアってエインヘリアの重臣たちにもかなり信頼されている節がないかしら?
恐らく私ではエインヘリアの者達にそこまで信頼されることはないと思う。
例えこの先、私とフェルズの関係性が変わったとしても……エファリア程、受け容れられる自信は無いわね。
そういう意味では……エファリアが一番、エインヘリアの者達にフェルズの隣に立つ事を望まれているのかもしれない。
「エインヘリアの者ではなく、エインヘリアの外部の者でもない。フェルズ様がエインヘリアの諜報部から逃れて誰かと会った様子もない……」
「はい、私も荒唐無稽な事を言っている自覚はありますが、フェルズ様の周囲に怪しい女性は見当たりませんが、フェルズ様は私達の知らぬ誰かと逢瀬を重ねている……少なくとも私は間違いないと考えています」
本人も言っている通り、相当無理があるけど……エファリアの確信は信用に値するのも事実。
「他ならぬエファリア様のおっしゃることですから、間違っているとは思えませんが……」
「そうですね。それにエインヘリアの方々もフェルズ様の様子がおかしいと思っていらっしゃるのであれば、何かあるのはほぼ確実ですね」
リサラと女狐の言葉に、私は真剣に考える。
エインヘリアの規格外っぷりを考えれば、私達の常識に照らし合わせて考える事に恐らく意味は無い。
だから、フェルズが部下達に悟られない様に女性と逢瀬を重ねる方法を考えることに意味は無く、エファリアの勘を信じ、フェルズは何らかの方法で女性と会っている事を前提とする。
この場合問題なのは……フェルズがその女性に骨抜きにされるという事だが、フェルズに限ってまさかそんな……いや、そうじゃない。
歴史上、賢人や英傑と呼ばれた人物が色によって身持ちを崩した例は枚挙に暇がない。
ただの個人であれば本人の勝手だが、それが一国の王ともなればそれは国を揺るがす一事になりかねない……ましてやエインヘリアの王であるフェルズよ?
傾国どころでは済まない……傾世……この大陸そのものが滅びかねない話だと言えるわ。
フェルズであればと盲信して良い状況ではないわね。
勿論、フェルズが傾倒するだけあって素晴らしい女性であると言う可能性もあるのだけど……いや、こういった事は希望や楽観で動くべきじゃない……気付いた時には全てが手遅れ……そんなことになっては悔やむに悔やみきれない。
「これは、私達だけでに留めておくには危険かもしれないな」
「フィリア様……?」
私の発言にリサラが首を傾げるが、女狐は真剣な表情でこちらを見ている。
おそらく女狐も私と同じ考えに至ったのだろう……気に入らない女だけど、流石に頭は回る。
ただ……この状況を利用して自分を売り込もうとしそうで油断ならないのは確か、この女狐も監視対象ね。
「フェルズに限ってという思いはあるが、放置するには危険な話だ。私としては、エインヘリアの者達と連携をとってフェルズの相手について調べるべきだと思う」
「私も皇帝陛下の意見に賛同します。フェルズ様、そしてエインヘリアの影響力を考えれば、ただ女性の影が見えるというレベルで終わらせて良いものではありません。徹底的に調査し、場合によってはフェルズ様の御意向に背くことになろうとも排除を考えるべきです」
女狐の台詞は過激ではあるが大げさなものではない。
勿論、フェルズやエインヘリアに害をなすような相手であればという意味だ。
気に入らない相手だからと排除するようなことはしない……それが例え女狐であったとしても、フェルズが相手を制御出来るのであれば何も問題はない。
いや、私の気持ち的には色々と問題はあるが、その程度の事は分けて考えられる。
これはフェルズの好みが知りたいとか、ライバルを排除したいとか……そういう低俗な考えから来るものではなく、偏に未来を不安視しての行動。
そこに疚しいところはなく……寧ろ積極的に仕掛けていくべきね!
「お二人の考えは分かりましたわ。実はエイシャからも協力の打診を受けておりまして、皆さんにもそれぞれの立場からご協力いただけないかと……」
「無論、協力しよう」
「はい。フェルズ様の安寧の為にも、是非ご協力させてください」
エファリアの要請に私と女狐は二つ返事で協力を約束する。
「えっと……私は、あまりフェルズ様と接する機会が無いので……出来る限り協力致しますが、あまり御力にはなれないかと……」
「いえ、こういったものは視点の多さが物を言いますわ。ふとした瞬間、リサラだからこそ気付ける何かがあるかも知れません。私達は何も表立って調査活動をする訳ではありませんわ」
え……しないの?
「はい。フェルズ様の御友人として親しくさせてもらってはいますが、私達は所詮外部の者。フェルズ様の周りを嗅ぎ回るのは外聞も良くありませんし、何よりフェルズ様のご迷惑になります。私達は普段通りフェルズ様と接して、何か気付いたことがあれば情報を共有する……もどかしくはありますが、現状それ以上に出来ることはありません」
……で、ですよねぇ。
だ、大丈夫よ?
フィリア分かってた!
リズバーンとか……後隠密行動に長けたユーリカとか動かすつもりなんて全然無かったから!
「分かりました、そのくらいでしたら私でも協力できると思います」
「よろしくお願いしますわ、リサラ。私はとりあえず、普段通りフェルズ様にお逢いして、それとなく話を誘導できないか試してみますわ」
エファリアの誘導……政治的なやり取りならともかく、この手の話題では絶対にこの娘とは敵対したくないわね。
いえ、敵対したとみなされた時点でとんでもない目にあわされそうね……精神的に。
フェルズもとんでもない娘に目を付けられたわよね……気付いたら結婚させられてそう。
誰が相手でも堂々と立ち振る舞い、例えフェルズ相手でも淡々と調べると言ってのける……本当に豪胆な娘よねぇ。
それはそうと……。
「私も少しフェルズと話をしたい事があったし、それとなく確認してみよう」
「私も北方の件で少し報告がありますし、その時にでも」
「えっと……私は留学生関係で……何か話してみようと思います」
「皆さんよろしくお願いいたしますわ。エインヘリアからの物も含め、何かしら情報が分かり次第共有するという事で」
エファリアのその言葉を最後に、今回のお茶会は終わりを告げた。
フェルズと共有しておきたい話もあったし、丁度良い機会……近い内に会えるように予定を入れましょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます