第349話 囚われの蛮族王

 


 蛮族王……ラフジャスを捕縛し、その勢いのままラフジャスについて来ていた蛮族を撃破……しようとしたら完全に戦意を喪失していてあっさりと投降。


 そのまま兵を進め、三国同盟軍と対峙している蛮族軍の連中の退路を断つように召喚兵を布陣させる。


 丘に隠れるように配置しているので、同盟軍や対峙している蛮族たちから伏した召喚兵達は見えない。


 出番が無ければそれでよし、蛮族たちが逃げきれそうなら丘から姿を現して圧力をかける……恐らく数の差から言って、余程下手を撃たない限り同盟軍がやられることはないだろうし、援軍的に程よい感じで働いたってところを見せられるだろう。


 まぁ、敵総大将を倒したあたり、援軍としては出しゃばりすぎな気もするけど……流石に英雄の相手を同盟軍に任せるわけにはいかないし、そもそもラフジャスの相手は最初から俺達の役目だから援軍的にも全く問題ない。


 それにしても同盟軍の策は見事に決まったようだな……序盤でいきなりヤギン王国軍が崩れかけて焦ったけど、なんとかそれ以上傷を広げることなく対処出来たようなので俺達が出しゃばることはなかった。


 敵の動きを止め側面から騎兵突撃……激突より早く気付いた後方にいた蛮族たちが急ぎ逃げたが、この障害物の殆ど無い荒野では騎兵から逃げるのは難しいだろう。


 そう思って見ていたのだが、思った以上に逃げ足が速い。


 側面から突撃を受けた蛮族達も後方にいた連中から一気に逃げ出したし……こちらが想定していた以上に、シャラザ首長国の騎兵は蛮族達に警戒されていたってことかな?


 逃げた連中もいるけど、まだ前方に攻め続けている奴等もいる以上、すぐに騎兵達も追撃を仕掛けるとはいかないだろう。


 うん、ここは姿を見せて圧力をかけるとするか。


『向こうに姿を見せてやれ。足を止めず、こちらを避けて逃げるようであれば捕縛しろ。それ以外は同盟軍に任せればよい』


『『はっ!』』


 『鷹の声』を使いリオ達に指示を出した俺は、戦場から周囲の様子へと視点を変える。


 『鷹の目』で見る限り他に蛮族たちが動きを見せる様子もないし、クーガーからも特に伏兵の報告はない。


 まぁ、隠れて近づいてこられるような地形ではないし、そこまで警戒は必要じゃないだろうけどね。


 そんなことを考えながらしばしの間俯瞰視点で戦場および周辺を眺めていたが、程なく蛮族達は掃討され、三か月以上に渡る同盟軍の戦いは終わりを告げた。


 ……後は報告と残務処理……いや、これからが本番だな。






View of ラフジャス スティンプラーフ王 蛮族王






 頭が割れるようにいてぇ。


 なんだ……?


 こんなに頭がいてぇのは……生まれて初めて酒を飲んだ時以来……?


 鈍く続く頭痛に堪えながら、俺はゆっくりと目を開ける。


 ……参ったな、寝た時の記憶がないんだが……ここは何処だ?


 天幕っぽいが……見たことが無い造りだ。


 少なくとも俺達が何時も使っているような代物じゃない……だとするとここは……いや、そもそも俺は、寝る前に何をしていた?


 寝る前の事を思い出そうと記憶を辿ろうとした瞬間、頭……いや、眉間の辺りに凄まじい痛みが走り、全てを思い出した。


 負けた……のか。


 あの弓使い……いや弓聖といっていたか、名前は……シュヴァルツ。


 俺はアイツにこれ以上ない程簡単に、あっさりと負けたのだ。


 あの時俺が放った一撃……アレは間違いなく俺の最高の一撃だった。


 もう一度同じ一撃を放てと言われても恐らく無理だろう……自分でも信じられないくらいの集中と完璧なタイミングで放たれた一撃、それを正面から受け止めるどころか、事も無げに蹴り上げる始末。


 ぐうの音も出ない程の敗北だ。


 あの状況で、何故俺が生きているのかは分からない。


 状況は全く理解出来ないが……自分でも驚くくらいに冷静だな。


 負けたというのに妙に清々しい気分なのは……圧倒的な実力差を感じたこともあるが、まだまだ強者がいるという事実とあの一撃の手ごたえから成長の余地を感じたからだろう。


 まぁ、この後の展開次第で意味のない気付きとなるのだろうが。


 そんなことを考えつつ、俺は寝かされていた寝台から起き上がる。


 拘束されているわけではないし、逃げ出そうと思えばすぐに逃げることが出来る……そんな状態にも拘らず見張りの一人もいないってことは、逃げ出したところで確実に捕らえることが出来るということだろう。


 俺相手に大した自信だと思う反面、シュヴァルツやあの時後ろにいた二人がいれば、俺をどうとでも出来ると考えるのは当然とも思ってしまう。


 自嘲ではなく純粋にそう納得できる……そんな自分に苦笑していると、天幕の柱に背中を預け、腕を組んでいる黒づくめの男がいることに気付く。


 ……間違いなく先程まではいなかったはず。


 突然の出現に身構えようとした俺は、その人物が誰であるか悟り警戒を解く。


「シュヴァルツか」


「……目が覚めたようだな」


「待たせたか?随分と寝心地のいい寝台だったのでな」


「……わざわざ運んだかいがあったと言うものだ」


「それは世話をかけたようだな」


 俺は体をほぐす様に動かしながら、努めて普通にシュヴァルツへと返事をする。


 警戒しようがしまいが、シュヴァルツにとっては大した違いはない……ならば警戒するだけ無駄。こちらが疲れるだけというものだ。


「それで、こんなところに放り込んでおいて、俺に何か用か?」


「……これから我が主に会ってもらう」


「主……?」


「そう。無謬の楽土と謳われたエインヘリア。その全てを導き統べる、唯一の王……覇王フェルズ様だ」


 ……無謬の楽土がどういう意味か分からんが、なんか大層な事を言っているのは分かる。


 しかし、覇王フェルズか……俺の命は今そいつが握っているということだな。


「ふっ……この世、いや神界を含め、最も偉大な王に拝謁出来るのだ。感動に咽び泣いても良いが、フェルズ様の前ではあまり無様を晒すなよ?」


「咽び泣きはしないと思うが……俺に礼儀とかは期待するなよ?」


 戦いの中やその結果として死ぬのであれば納得も出来るが、礼儀がどうのと言った理由で首を刎ねられては死んでも死に切れん。


「そこについては最初から期待していないから安心しろ。お前はお前のまま振舞うが良い。フェルズ様はそんな些細な事は気にされない方だ」


「そいつは助かるな」


 そう言って肩を竦めた俺を鼻で笑ったシュヴァルツだったが、ついてこいと言わんばかりに顎で天幕の入り口を指した後、それ以上は語らずに天幕の外へと出て行く。


「さて……どうなるかね」


 あれ程の実力を持ち……これ以上ないくらい不遜な男が忠誠を誓う王か。


 興味深くはあるが、同時に恐ろしくもある。


 恐らく戦場で感じたあの悪寒……ついぞ姿を見せなかった人物。


 ただの勘でしかないが、シュヴァルツの言う主……フェルズという王がその人物であるという確信がある。


 しかし理解出来ないのは、俺に何の用があるのかってことだが……まぁその答えはすぐに分かるだろう。


 俺はシュヴァルツの後を追って天幕の外へと出るが、そこにはシュヴァルツの姿が無く……いや、いたな。


 天幕から少し離れた位置で、こちらに背を向けながら長い服の裾をはためかせているシュヴァルツを見つける。


 俺が近づくと、こちらに目を向けることなく進みだしたシュヴァルツついて歩くことしばし……俺の目の前には野外に置かれた一つの椅子があった。


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