第331話 帰ってきた外交官
「ただいま!お兄ちゃん!」
「ご苦労だった、シャイナ。問題は無かったか?」
数日前、パールディア皇国を含む大陸南西部の三国に向かったシャイナが、本日エインヘリアに帰還した。
にこにこと笑っている様子を見る限り、万事抜かりなくやって来たんだろう。
まぁ、シャイナは見た目が完全に子供だし、俺に対しても子供っぽい態度で接してくるけど……外交官としてはめっちゃ優秀だし、どんな仕事でも完璧にやってのける人材だ。
というか、色々と癖の強い外交官の中で、一番普通の意味での『外交』を得意としているらしい。
……普通じゃない意味の外交ってなんだろうな……?
まぁ、それはいいか。
今回は至って普通の外交……支援物資の提供と援軍派遣の提案だしね。
援軍派遣の条件は……ちょっとあくどい感じではあるかな?と思わないでも無かったりしないでもない……。
「パールディア皇国とシャラザ首長国の二国には支援物資を届けて、今はそれぞれ飛行船を一艘ずつ使って各地に物資を配って回っています!両国とも最初は困惑していましたが、最終的に善意での支援であるという言葉を受け入れていました!」
「そうか。それは何よりだ」
元気よく報告を始めるシャイナに、俺は頷いて見せる。
いきなり交流すらなかった国から支援物資……しかも国一つを支えられるだけの量の物資を渡されても、普通は信じられないからね。
どんな裏があるのか……そう考えるのが当然だし、無邪気に喜ばれても逆にこっちが不安になるよね。
「でも二国とも貸与という形になりました。無償提供は流石に心苦しいって」
「国内がボロボロになっているのだから気にせず受けてくれて構わないんだがな。条件は無利子無期限を提示したか?」
「うん!」
ある時払い利息無しなら、そこまで負担にはならないかな?
「それと、援軍派遣の条件を提示した所、パールディア皇国は即座に快諾。シャラザ首長国も条件を伝えてから、翌日には条件を受け入れるとの返答を頂きました!」
「ほう。中々素早い判断だが、パールディア皇国は即座にあの条件を飲んだのか?魔力収集装置の機能は説明したのだろう?」
「はい!ですが、会談の前に皇女様と皇王様はお話をされて、先んじてこちらの提示する条件……それにエインヘリアについて確認していたみたいです!」
「なるほど、そういうことか」
皇女さんはしっかりと役目を果たしてくれたようだ。
うむ……流石覇王、これを見越して皇女さんを国に戻したわけだが、完璧ではないか!
全て計画通り!
「それとヤギン王国は、お兄ちゃんの読み通りだったかな?二国への支援の件や援軍の条件を伝えたら、すぐにこちらの意図を理解してました!」
ふむ……随分と長いスパンで計略を考えるタイプだったようだから、情報を与えればこちらの言いたい事もすぐに察すると思ったのだが、予想通りだったみたいだ。
「条件を伝えた後は予定通りシャラザ首長国に向かって、そっちで話を纏めてから戻ったら……すぐに条件を受け入れるってさー」
「自国とスティンプラーフ、そしてこちらの戦力をある程度正確に計ることが出来たからこそ受け入れたのだろうな。強引に策を進める可能性もあったが、そこまで愚かではなかったか」
「多分ヤギン王国の王様は、パールディア皇国の皇王様と正反対って感じかな?」
「ふむ?」
「ヤギン王国の王様は自分である程度考えられる人だけど、周りを使うのが下手。パールディア皇国の皇王様は自分ではあまり考えるのが得意じゃないけど、周りを使うのが上手」
「なるほどな。為政者としてはどちらも間違ってはいない。まぁ、一番良いのはその両方を兼ね備えている事だがな」
フィリアとかエファリアはしっかりと兼ね備えているよね……本人の優秀さも周りの優秀さも。
「あはは、お兄ちゃんは両方とも完璧だね!」
「くくっ……そんなことはない。俺は皆に助けられてばかりだからな」
「えー、そうかなぁ?」
「現に、こうしてシャイナに助けてもらっているだろう?俺自身は何もしていない」
「うーん、今回もお兄ちゃんの読み通り進んで行ってるんだから何もしてないってのは違うような……」
今回も……?
いや、この世界に来て最初の頃は一生懸命色々考えて動いてましたが……最近は気付いたら領土が十か国分以上も増えた我覇王よ?
はっきり言って寝耳に水どころか、寝耳に高圧洗浄機って感じでしたよ?
まぁ、キリクやイルミットが頼りになり過ぎるからな……最初の頃はご飯を食べる事すらあれだったのに……。
懐かしい事を思い出し、思わず俺は笑みを浮かべてしまった。
「……」
「どうした?」
そんな俺の事を呆けた様にシャイナが見つめているのに気付き、俺は首を傾げる。
「あ、いやいや、何でも無いよ!ごちそうさまでした!」
何が?
俺の顔から何を食ったの?
「……シャイナ、続きを頼む」
「あ、ごめんなさい!ヤギン王国に関しては、王様はもうエインヘリアの支配下に入る事を受け入れている感じだけど、家臣や王太子は納得してない感じです!それとパールディア皇国の王様とシャラザ首長国の首長さんは、お兄ちゃんに直接お会いしたいって言ってました!特にパールディア皇国の王様は、近い内に必ずエインヘリアに来て直接御礼を言いたいって言ってます!」
直接会うのは嫌だなぁと思うけど……もはや俺の立場はそんなこと言っていられないものだからなぁ。
毎度のことではあるし……いい加減慣れないとな。
……フィリアとの初顔合わせに比べれば、なんてことはないとは思うけどね。
それよりも今は、ヤギン王国だな。
「パールディア皇国とシャラザ首長国については分かった。ヤギン王国は……王によるワンマン体制だったはずだが、家臣との間に亀裂が入った感じか?」
「うん。今まで王様のやり方に唯々諾々と従っていたのは、自分達が最大限利益を享受できていたから。でも今回王様がエインヘリアの下に着くと判断したことで、自分達の利権の全てが奪われると思ったんだね」
「なんとも忠誠心の無い話だ。ヤギン王はワンマンというよりも、孤軍奮闘という表現の方が正しいかもな」
蛮族と内通して他国を食い物とするような計画を立てるような王ではあるけど、自国の事を最優先するのは王として当然の考え方だ。
他国にまで優しく出来るような王は……余程国力に余裕がある阿呆か、裏があるかのどちらかだろう。
因みに俺は国力に余裕のある阿呆です。
「まぁ、ヤギン王国の王様にも問題はあると思うよー。あれじゃぁ人材も忠誠心も育たないしね!後はー大臣や他の重役が世襲制なのも問題だね!」
「ん?ヤギン王国は大臣が世襲制なのか?」
「うん、そうだよ!あ、三国に関する報告書は纏めてあるから確認しておいてください!そこに書いてあるんだけど、ヤギン王国は各大臣や役人の上役の方は世襲制なんだ!」
「……それは、能力的に不安があっても重役に就くのか?」
「うん!今代の上層部は残念な感じの人達しかいないかなー?基本的に次代を育成するのは自分達の家で、仕事に必要な物だけを学ぶから専門職と言えば聞こえはいいけどー」
「それは何とも恐ろしい話だな。大臣に必要な知識が各家で独占されていると……しかも、まともに育たなければ知識が失伝する可能性が高い。大臣が急逝しようものなら目も当てられないな」
「一応大臣の予備で副大臣の家もあるみたいだけどー」
「なるほどな」
若干苦笑しながらそういうシャイナの様子から、大臣と副大臣のドロドロギスギスした関係が容易に想像できる。
そりゃまともな大臣なんか育たんわな……。
あー、なんか色々ヤギン王国というか、ヤギン王の考えが読めて来たような気がする。
国力を高めたい、でも政治を担う大臣は無能揃い。
次代を育てようにも仕事のノウハウは各家が独占。
更に国の傍に蛮族が幅を利かせていて、略奪が横行している。
そりゃ蛮族と通じて他の国を生贄にするわ……。
「しかし……先に報告書を読んでからシャイナの話を聞くべきだったか」
「あー、ごめんなさい。シャイナが帰ってきてすぐお兄ちゃんの所に来たからー」
そういってバツが悪そうな顔をするシャイナに近づき、頭をぽんぽんと撫でる。
「気にするな。いち早く報告をしてくれるのは助かるからな」
「……」
俺がそう声をかけるが……シャイナはでろっでろに溶かしたような表情を浮かべながら黙っている。
「……シャイナ?」
「はい!ごちそうさまです!」
また何か食べた?
「えっと……後は援軍の件を報告します!三国同盟の侵攻軍は合わせて四万五千です!内訳はパールディア皇国が五千、シャラザ首長国が一万五千、ヤギン王国が二万五千です!援軍という立場上、各国の軍よりもエインヘリアの兵数が多いのは良くないとお兄ちゃんが言っていたので、四千を出すと伝えてあります!ただ、戦況によって追加の軍を出す事は問題ない事も伝えました!」
「同盟軍の兵数は大体予想通りだが、五万弱で三十万と言われている蛮族と戦うのは……うちはともかく、同盟軍としては厳しいなんてものじゃないだろう?三国はうちが出すのは四千で納得したのか?」
「もっと出して欲しそうだったけどー、英雄を最低でも四人は派遣するって言ったら納得してくれたよ!」
「なるほど」
うちが出すのは四千……援軍という立場上、俺達の方が彼等より多くの兵を率いるのはよくないからね。
まぁ、同盟軍には一人もいない英雄を四人は出すって言ってる時点で戦力バランスは明らかにうちに傾いて入るけど……分かりやすい数って言うのはやっぱり大事だからね。
今後の統治を考えても、エインヘリアがばりばりメインで戦ってましたってのは……戦場での働きはともかく、記録の上では避けたい。
俺としては、大陸南西部は三国同盟で仲良く治めて貰いたいからね。エインヘリアが主導してしまったらその辺の統治がゆらいでしまう。
でも……三国ともそれぞれ不安はあるよねぇ。
パールディア皇国とシャラザ首長国はボロボロにされた国力が。ヤギン王国は上層部のボロボロ具合と……暗躍の件だな。
二国に関しては、支援をすれば何とかなるとは思うけど……問題はヤギン王国だね。
介入して上層部を総入れ替えとかしないといけなさそうな雰囲気があるけど、出来ればそれは避けたい。
でも、ヤギン王国と蛮族は繋がっていたって話が捕虜からでも出てくる様な事になれば……そのままヤギン王国とも戦う事になりそうだ。
まぁ、それはそれで色々スッキリするかもだけど……どうかなぁ。
「侵攻開始は一ヵ月後、パールディア皇国側からスティンプラーフ領土内に入って南下、蛮族王が住んでる街を目指して侵攻していく予定だそうです!」
いきなり蛮族王を狙っていいのだろうか?
王を失えば蛮族は統率を失って、それこそあちこちで暴れまわることにならないかな?
いや、まぁ……今回俺達は援軍であって戦を主導する訳じゃないからね。
戦場には俺も行くつもりだけど、そこまで出しゃばるつもりはない。
勿論、ある程度は自由に動くつもりではあるけど……それでも指揮官の指示には従うことになる。
自分以外の指揮で戦う戦争か……どうなることかねぇ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます