第237話 何はともあれ、まずはもふる
人が人である以上どうしても避けられないことがある。
それは、信じる為に疑う事であったり。
平和を求めて戦う事であったり。
愛ゆえに傷つけあったり。
人が人であるが故……いや、それこそが人の証明であると言わんばかりに、人は矛盾した行動をとり続ける。
これらを人が完全ではないが故……愚か故の行動だと、したり顔で断じることは簡単だ。
しかし、俺はこう思う。
人は不完全だからこそ面白いのだと。
完全ではないからこそ矛盾し、失敗し、そして成長するのだと。
つまり何が言いたいかと言うとだ……んっはぁぁぁ、失敗してもうたーーーー!
帝国での会談……俺は頑張った。
超頑張った。
対面に座る皇帝さんの圧に負けず、覇王力を全力で振り絞り頑張った。
キリクのオーダーに従い、がっつり相手を煽りつつこちらの技術力や情報収集能力の高さを見せつけられたと思う。
うん……俺にしては、相当いい仕事をしたと思う。
思うのだけど……俺は一つ、やらなければならないことを全力で忘れていた。
……何を忘れたかと言うと、エリアス君だ。
帝国の切り札『至天』。その二十……何位かの英雄、エリアス君。
ソラキル王国に派遣され、うちとの戦争中にリーンフェリアにボッコにされて捕虜になったエリアス君……リズバーンに無条件でお返ししますよって伝えたのに……会談中にそれを正式に伝えることを、覇王がぽっくり忘れてしまったエリアス君……。
ほんとごめんね……?
いや、一応返還はしましたよ……?
ただ、俺達にあてがわれた控室に置きっぱなしにしてしまったというか……そのまま放置して返還したことにしたというか……なんせ俺達はあの会議場から出た後、真っ直ぐ飛行船まで戻ったのだ。当然エリアス君が待っていた控室になんか寄ってはいない。
それとなくキリクに彼の事を確認してみたけど……本当に素晴らしい限りです、と皮肉なのかしら?と思うようなお褒めの言葉を頂いた。
……よし、忘れよう。
覇王は細かい事は気にしない……失敗からの成長するのが人間だと言った気もするけど、同じシチュエーションは……いや、無いとも限らないな。次エリアス君を捕まえて返還する時は気をつけよう。
さてさて、そんな失敗もあったりなかったりしたけど……大仕事を終えた俺は無事にお家まで帰って来ていた。
いや、ほんと疲れたよ……肉体的には全然だけど、精神的には過去最高に疲れた。
展開的にはキリクの予定通りだったけど、会話の流れや言葉選び等は全部俺にお任せだったからね……いや、ほんとよく予定地点に降り立つことが出来たよね?
誰かに褒めて貰いたい……。
いや、キリクからはお礼を言われたし、絶賛してもらったけど……フェルズ様であれば容易い事だと思います的な信頼がひしひしと感じられるというか……。
いや、滅茶苦茶頑張った結果ですよ?褒めちぎられてもいいレベルだと思いますよ?
そう思いはするけど……うちの子達からは、尊敬とか崇拝的な感情がまず先にある感じなんだよねぇ。
ゲーム時代の記憶があるみたいだから……仕方ないとは思うんだけどね。
全てを読み切った差配で世界征服と邪神討伐を成し遂げた覇王様だからね……何周もしたシナリオだから相手の動きを読み切っていて当然なんだけど、うちの子達には周回の記憶はないみたいだからなぁ。
まぁ、それはさて置き……そんな疲れた心を癒す為、俺は二時間あまりの時間をかけて部屋でルミナをもふもふしたり、ルミナに舐められたり、ルミナとボール遊びをしたりして精神を回復させた。
そんなヒーリングタイムをしっかりと取った俺は、これからキリク達と今後についてのお話しタイムへと突入しなくてはならない。
覇王は勤勉なのだ……まだ遊び足りないといった様子のルミナに別れを告げ、俺はいつもの会議室に向かう。
今頃帝国では、会議やら戦争の準備やらでてんてこ舞いといった感じなんだろうね……それに比べるとエインヘリアは至っていつも通りといった感じだけど。
ウルル達外交官は相変わらず飛び回っているし、オトノハ達開発部も同様だ。
まぁ、戦闘部隊の子達が戦争も近いという事もあり、少し気合を入れて訓練をしているようだけど……それ以外は大体いつも通り。
のんびりした感じというわけではないけど、どちらかといえばほぼ日常といった感じだよね。少なくとも戦争前夜って感じは全く無い。
会議室へと向かう道すがら、俺は窓の外に見える王都の街並みを見下ろす。
「ドワーフやゴブリン達のお陰でかなり賑やかになってきたが、まだまだ王都と呼ぶには物足りないな」
「申し訳ありません……」
俺の呟きに、何故かリーンフェリアが謝る。
なんで?
「どうした?リーンフェリア」
「フェルズ様の偉大さを表す一端である王都の開発が遅々として進んでいないのは、開発部……いえ、我等臣下の怠慢と言えます」
言えませんよ!?
神妙な面持ちで頭を下げるリーンフェリアに心の中でツッコミつつ、俺はかぶりを振ってみせる。
「いや、何一つ問題はない。確かに、先日見た帝都の街並み、発展具合は素晴らしい物だと感じたが、今のエインヘリアにあれ程巨大な王都は必要ない。街とは権威を表す物ではなく、その街に住まう民達の物だ。それに確実に発展を続けていく王都の街並みは、まさにエインヘリアという国そのものを表しているようではないか」
物足りないと言ったのは数秒前の俺だけどね!
無論覇王は、そんな台詞を手首にスナップを利かせながら返しつつ、棚の上へと放り投げる。
「それに、帝都程広い城下町を作ったとしても、そこに住む民がいないからな。人の使っていない建物は老朽化が激しいというし、中身に見合った箱を作るべきだ」
「はっ……浅慮な発言でした」
リーンフェリアの謝罪が胸に刺さる……はい、浅慮な発言をしてすみませんでした。
「俺の為を思って言ってくれた言葉を咎めるつもりはない。皆が手を抜かず全力でエインヘリアの為に働いてくれている事は良く知っている。苦労を掛けている事は理解しているが、俺は深く皆に感謝している……無論、リーンフェリアお前にもだ」
「……あ、ありがたき幸せに!フェルズ様に仕える事こそ我等の喜びなれば、苦労など一切御座いません!フェルズ様の進む道、その礎になれるのであれば我等は本望にございます!」
何気なく言った王都の街並みの話から、物凄い重い想いを頂いてしまった……まぁ、リーンフェリアはうちの子達の中でも特に真面目って感じの子だから、仕方ないかもしれないけど。
「感謝の念は堪えないが……俺の進む道はお前たち全員と共に歩む道だ。俺の為にと自分を捨てて道を作るような真似はするなよ?」
「はっ!死んでもお傍に仕えさせていただきます!」
……それは憑りつかれるってことかしら。
リーンフェリアの勢いに、不謹慎にもそんなことを考えてしまった。
「その忠義、心強い限りだ」
俺はそう言ってリーンフェリアに小さく笑いかけた後、進行方向に顔を向ける。
「さて、そろそろ会議室に向かうとするか。キリク達が待ちくたびれてしまうからな」
「はっ!」
いつもの事だけど、会議室とかに最後に入室するとめっちゃ注目されるから苦手なんだよね……。
皆にそんなつもりが無いのは分かっているんだけど……おっせーんだよ!って言われているような気分になるし。
とは言え、俺が先に会場入りしたりすると、それはそれで面倒になるというか……他の子達がこれ以上ないくらい恐縮してしまうんだよね。
若干面倒だとは思うけど、逆の立場で考えてみれば確実に気を使ってしまうだろうし、仕方ない。
そんなことを考えつつ、なるべくゆっくりとした足取りでたっぷりと時間をかけて辿り着いた会議室には、当然の如く会議出席者たちが揃っていた。
「待たせたな」
「いえ、問題ありません」
俺が軽く一声かけると会議室にいた面々が頭を下げる。
以前は皆、立ったまま俺が来るのを待っていたのだが、そんなことをされなくても皆が敬服してくれているのは十分伝わっているからと止めさせたのだ。
俺は会議室の上座へと向かいゆっくりと腰を下ろした後、会議室にいる皆を一度見まわす。
今回の会議参加者は、キリク、イルミットを筆頭に、アランドール、オトノハ、エイシャ、カミラ、ウルル。それと珍しいところで、ジョウセンとサリアが護衛としてではなく会議参加者として席に座っている。リーンフェリアはいつも通り俺の斜め後ろで護衛として立っているけど……エインヘリア城で俺に護衛が必要とは思えないんだよね。
「それではキリク、始めてくれ」
「はっ!それでは初めに、今回帝国に仕掛けていた策の報告をさせていただきます」
いつも通り、キリクの言葉で会議が始まり、俺は余裕を持った態度を装いながら会議での発言を聞き漏らさないように全力で集中する。
まぁ、緊張感はあるけどここは俺が色々と考えて発言する場ではなく、皆の意見を聞いて最後にほぼ決定された結論を承認するといった場なので、皇帝との会談に比べればしんどくもなんともない。
昔はめっちゃこの会議でも緊張していたけど、最近は慣れたもんだ。
ふりじゃないよ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます