第210話 本題に入ろう
うん、無しだわ。
っていうか、そもそもレブラントを呼び出したのはこんな話をしたかったからじゃねぇ!
「くくくっ……レブラントは女性の扱いに随分と手慣れているようだな」
「そら、女性のお客さんは多いですし」
「ほぅ?客だけか?」
「あははっ……いやいや」
「ふむ、随分と女性を泣かせているようだな」
レブラントは中々イケメン……スラッとした爽やかな見た目に、会話も軽妙だ。
さぞモテる事だろう……妬ましい!
「いやいや、そんなことは……」
「ロブに確認してみるか」
「……あかん、完全に藪蛇や」
「くくくっ……中々面白い話が聞けそうだな?」
苦虫を嚙み潰したような顔をしながらレブラントが頭を掻く。
「……陛下も忙しいと思いますし、そろそろお仕事の話しません?」
「部下の事を把握するのも、俺の大事な仕事なのだがな?」
「すんません、調子に乗りました。堪忍したって下さい」
そう言って座ったまま深々と頭を下げるレブラント。
まぁ、おどけた様子だし本気で嫌がっているわけではないだろうが、この辺にしておこう。
会話も変えることが出来そうだしな……レブラントが乗ってくれた気もするが。
「ならば、先に話を終わらせるとするか。今日呼んだのは大帝国……スラージアン帝国について話を聞きたくてな」
「スラージアン帝国についてですか?」
「あぁ。勿論キリクや外交官達からの報告は受けているが、色々な視点から情報が欲しくてな」
戦力的には先程レブラントが言った通りこちらに分がある。
軍自体の能力もこちらに分があるが、大帝国の切り札である『至天』とかいう英雄達が二十人強、さらにその下に予備軍みたいなのがいるとしても……こちらには『至天』の三倍近い戦闘部隊の将がいる。
『至天』予備軍の方が『至天』より強かったら面倒だけど、普通に考えてそれはない。
以前リーンフェリアがぶっ飛ばした英雄を基準に考えれば、数こそ分からないが予備軍自体はあまり脅威とは言えないだろう。
しかし、直接的な戦闘以外の戦いというのは色々とある。
勿論そういった事はキリクやイルミットが対処してくれるだろうけど、だからと言って俺が何も考えずいて良いというわけではない。
キリク達には及ばずとも、俺は俺で考えておかねば彼らの上に立つ資格はないだろう。
そんな考えから、エインヘリアに所属して日が浅く、商人として広い見識をもつレブラントに話を聞こうと思ったのだ。
「わかりました。私で良ければ話させて貰いますわ」
「助かる。まず疑問なのだが……商協連盟は俺達と大帝国が確実にぶつかると見ているようだが、今代の皇帝は外征をしていないのだろう?そして我々エインヘリアは先制攻撃をした事は無い」
俺達としては、大帝国がこちらに手を出してくるという確信がある。
女帝さんにその気が無かったとしても、必ずキリクがそうせざるを得ない状況を作るからだ。
だが、商協連盟から見た場合はそうではない……状況から見て戦争が起こってもおかしくはないが……起こらない可能性も十分あるように思える。
「今代の皇帝は外征を全くしていないという訳ではないですよ。先代や先々代のように相手国を滅亡させるほど追い込むことはしませんが、敵対的な国とは何度か戦争をしとります。それに内乱を収めた時は迅速かつ苛烈な戦ぶりを見せていたそうで、動くときはためらいなく動く……商協のお偉いさんらはそう今代の皇帝の事を評価しとるんです」
「ふむ……因みにレブラントは皇帝に会った事があるのか?」
「いえ、ありません。それなりに商会も大きくなってきとりましたが、流石に大帝国の中枢とやり取りできる程やありませんでしたから。まぁ、あと数年もあったら多少は顔が利くようになっとったと思いますが」
アーグル商会はまだまだこれからって感じの商会だったからな……以前の会議でキリクが冗談っぽく言ってたけど、アレは恐らく掛け値なしの言葉だったんだろうな。
レブラントが直接皇帝にあってくれていたら、色々女帝さんについて聞けたんだが……まぁ他国の商人がそう簡単に会えるような相手ではないか。
「キリク殿から同じ話を聞いとるかもしれませんが、噂程度で良ければ話しましょか?」
「ふむ、キリクは不確かな話は好まないからな。確証の無い噂は俺の所まで上がってこないな」
キリクが俺に報告するとしたら、外交官達に調べさせてしっかりと裏をとれた物だけだろう。
「あー、止めといたほうがいいです?」
「いや、噂を基に行動を決めることはしないが、市井でどのように評価されているのかは興味がある。聞かせて貰えるか?」
「わかりました。では基本的な所から行きます。フィリア=フィンブル=スラージアン。スラージアン帝国現皇帝で在位十一年。確か今年で二十八歳やったと思います」
二十八で在位十一年……思ってたよりかなり若いな、女帝さん。
「先帝である父親に比べ領土をあまり広げておらず、即位直後に各地で内乱が勃発した所から、口さがない連中から弱帝と呼ばれたりもしとります」
前回の会議でキリクも他国に侮られているって言ってたけど……弱帝ね……俺が受けている印象とは真逆の呼び名だな。
「外側から眺めているだけやと、分かりやすい成果がないんですよね。まぁ、眺めるんじゃなく、国の内情をちゃんと見ればとんでもない成果を上げとるんですけど。ただの民にそれを理解しろと言うても無理ありますが」
そう言って苦笑するレブラントに俺も軽く頷く。
流石に、そういう教育を受けていない民に国の事を理解しろと言っても無理があるから、当然と言えば当然だな。
でもキリクの話では他国からもそんな評価って話だったし……その国大丈夫か?
「先々代から続く外征での領土拡大。それによって荒れた国内、不満が溜まりに溜まり内乱が勃発……その状況から国を分裂すらさせずに十一年で以前よりも強固な国にした……そんな弱帝が居てたまるかといったところだがな」
「外征で領土を増やすことに比べたら、見た目の派手さがありませんからね。まぁ、当然商協連盟のお偉いさんたちは、先帝と同じかそれ以上に現皇帝を警戒しとりますがね」
「当然だな」
寧ろ俺達からしたら先帝の方がやりやすい相手だと思う。
「現皇帝については嘘かホントか、こんな話があります。先帝がまだ健在の頃、まだ十歳にも満たない娘にこう告げたそうです『お前が男であれば良かった』と。それに対する答えが『私が女であることが何か問題でも?少なくとも私は、父上よりも上手く帝国を治める自信がありますが?』だそうです」
めっちゃ気が強いね……その返答。
しかも年齢的に今のエファリアよりも幼い頃か……いや、とんでもないね。
帝王学とかそういう奴の賜物か?それ、どこで教えて貰えるんですかね?誰かこっそり俺に教えてくれませんかね?
「それを聞いた先帝は娘を皇太子に据え、その後一切子を儲けなかったそうですわ」
そしてその先代皇帝も剛毅だね……娘の優秀さを認めたとしても、万が一に備えて後継者の保険は必要だと思う。
ましてや当時の大帝国は外征をガンガン行って、国内も荒れ荒れ……常に暗殺と隣り合わせって感じだっただろうし、そこに成人すらしていない女の子を後継者として指名……いやぁ、独裁だねぇ。
「まぁ、先帝の頭がおかしいところは……そうやって皇太子に幼い娘を据えときながら、二人揃って戦争に出てたことですわ。下手したら一発で色々終わり……スリルでも楽しんどったんですかねぇ?」
「それはどうだろうな?案外、自分の傍が一番安全って考えだったかもな」
「……なるほど、そういう考え方もありますな。確かにあの時期の大帝国は内外に敵だらけ……結果戦場の方が安全とは、恐ろしい話ですわ」
いや、ほんと恐ろしいね……少なくとも俺は自分の家だけは何があっても安全であって欲しいと思うよ……。
「そんな戦帝とも呼ばれた先帝は、結局病で戦場に出られなくなるまで外征を繰り返し、内外に不和の種を残したまま没しました。先帝が死んだことで国内外各勢力が蜂起……それを瞬く間に鎮圧……特に国内の反乱に対しての対応は相当苛烈だったそうですわ。国内において、今代の皇帝が先帝以上に恐れられ取る所以です」
苛烈さと広大な土地を治めるだけの手腕を持った女帝か……なんか弱点とか欠点とか無いのかしら?
いや、まぁ、そんな情報が市井に流れるはずもないけどさ……。
「『至天』については何か知っているか?」
「流石にあの英雄連中についての情報はありませんが……その下の英雄予備軍についてなら少しだけ知っとる事があります」
「ふむ?」
「うちのロブ。あれは元々スラージアン帝国の英雄育成機関の出で、英雄予備軍だったんですわ」
「ほう?」
「まぁ、本人は戦闘能力やなくって、自分の持つ特殊能力故にその機関に入れられたと言うとりましたが……実際アレの戦闘能力は常人の比ではありません。まぁ、陛下達には勿論、『至天』の下位の連中にも勝てないとは本人の談ですが」
ロブは帝国出身……しかも英雄予備軍だったのか。
頭の中で会話が出来るという特殊能力持ちとは聞いていたけど……戦闘力もそこそこあったんだね。
「先日の会議でキリク殿が言うとりましたが、育成機関では帝国全土から集められた優秀な人材を英雄たち自らが鍛え次代の英雄を育てる……そんな感じのコンセプトらしいんですが……まぁ、内情はドロドロしとるらしいですわ」
英雄って我が強そうだし……その予備軍達もめんどくさそうなのが多そうだよね……まぁ、普通の人もいるのかもしれないけど、八歳だかで戸籍登録してその時に才能ある奴を探すってことだし……子供時代の環境って人格に影響するよねぇ……。
エリート故の上昇志向とか足の引っ張り合いとか……なまじ武力に秀でてる連中だから、普通に人死にとかも出てそうだ……。
「しかし、そんなところにいたロブが何故ゾ・ロッシュの商会に?」
「あー、細かい事は省きますが……なんや任務で下手こいたとかで……死にかけとるロブを俺が拾ったんですわ」
すげぇ王道な出会いだな……レブラントも主人公属性持ちか?いや、つらい過去を持つロブの方かもしれん……。
そんなアホな事を考えていると、レブラントが苦笑する。
「元々帝国から足抜けしたかったみたいで、なんやかんやで一緒に仕事をするようになったんです。私もその頃は小さい店を一軒構えるだけの木っ端商人やったんですが、私とロブと今のアーグル商会の会頭……三人で色々危ない橋を渡りつつ、商会をでっかくしてきたんですわ」
「……すまんな。そんな商会を辞めさせることになって」
「いやいや、これはこれでめっちゃ楽しんどりますから。気にせんといてください。ロブの奴も結構張り切っとるみたいやし、詳しく聞いた事は無いんですが、大帝国相手には色々思う所があるみたいですわ」
「そうか……お前達の働きには期待している。まぁ、任せているのは商協連盟の相手だが」
「はっはっは!それは言わんといて下さい!」
そう言って朗らかに笑うレブラントには、何の含みもなさそうだ。
まぁ、レブラントが腹に一物抱えていた場合、俺じゃ絶対見抜けないだろうけどね……。
「今日は助かった。また今度話を聞かせて貰いたい」
「陛下が望まれるのでしたらいつでも。ネタは色々仕入れときますんで」
「楽しみにしておく」
俺がそう言って立ち上がると、レブラントも同時に立ち上がり深く頭を下げる。
そのまま俺が部屋の外に出ようと歩き出そうとした所、予想外の人物に声をかけられ俺は足を止めた。
「フェルズ様、申し訳ありません。少々時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
「構わない」
声をかけて来たのは、護衛として俺の傍にずっと立っていたリーンフェリアだ。
リーンフェリアがこういった状況で声をかけて来るのは非常に珍しい……どうしたのだろうか?
一瞬そんな風に考えはしたが、とやかく言わずに俺が頷いて見せると、リーンフェリアは俺に一礼した後レブラントに話しかける。
「アーグル殿。貴殿に少々聞きたい事があるのだが……後日時間を作ってもらっても良いだろうか?」
「えぇ、勿論構いませんが……どのようなお話でしょうか?」
「……それはその時に話す。すまないな、日程については追って連絡させてもらう」
「畏まりました」
どうやら俺ではなくレブラントに用事があったようだけど……本当に珍しいな。
どうしたのだろうか……?
いや、もしかしたらプライベートなことかもしれないし……気軽にどうしたの?とは聞きにくいよね。
「申し訳ございません、フェルズ様」
「問題ない。要件はそれだけで良いのか?」
「はっ」
「では行くとするか、次の予定は何だったか?」
「次は、ルフェロン聖王国の聖王殿が相談したい事があると言う事で……」
俺は好奇心を押さえつつ、次の仕事へと向かって行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます