第193話 王として
View of プルト=ロッセ クガルラン王国侯爵 クガルラン王国将軍
「な、ば、ば、馬鹿な事を申すな!そんなことがあってたまるか!ソラキル王国だぞ!?そこらの小国ではないのだ!あの強大な国が一ヵ月やそこらで敗北したりするものか!」
呆然自失となっていた陛下が、動揺しながらも叫び声をあげる。
その声を聞いて会議室に居た者達も意識を取り戻したように動き始める。
「冗談や間違いでは済まされぬ話だぞ!?間違いないのか!?」
「間違いございません。使者として派遣されたボーイン様、そして私自身もこの目で確認しております。間違いなくソラキル王国は降伏を宣言しエインヘリアへと降りました!」
「ば、馬鹿な……」
滅多な事では取り乱すことのない宰相が、顔色を青くしながら伝令へと問いかけるが、その答えが変わる事は無い。
「そ、そのような事がある訳が無い!流言……いや、その伝令はエインヘリアの間者だ!即刻捕えよ!」
「陛下!お待ちください!その者は私も知っております!間違いなくソラキル王国に使者として派遣したボーイン殿につけていた伝令です!間者などではありません!」
「ならば宰相はソラキル王国が本当に滅んだと言うのか!?ありえぬだろう!?」
「確かに信じがたい話ではありますが……ボーイン殿も誠実で真面目な人物です。この情報が間違いである可能性は低いでしょう」
「そんな……そんな馬鹿な!?ならば誰が敵軍を追い返してくれると言うのだ!」
「「……」」
顔色を真っ青にしながら陛下が叫ぶ。しかし、それに答えられるものは誰もいない。
これは……最悪の話ではあるが、和睦の件を進めるにはまたとないチャンスだ。
「陛下、繰り言になりますがお聞きください。和睦の使者を送るべきです。もはやソラキル王国の助けは得られません。これ以上の戦いは無意味……犠牲を出さぬためにも和睦を進めるべきです」
「だ、駄目だ!ロッセ将軍、お前は和睦和睦というが、国の半分を取られているのだぞ?この状況で和睦など……実質降伏と同じではないか!」
「……」
確かに陛下の言うように、和睦というよりも降伏と言った方が正しいかもしれない。
だが、それでもクガルラン王国と言う形を残すには、この戦を早期に終わらせなければならない。
「……陛下のおっしゃる通り、この状況での和睦の申し入れは実質降伏に近い形となりましょう。ですが、先に仕掛けたのはこちらなのです。それ相応の代償が必要となりましょう」
「既にエインヘリアはソラキル王国を滅ぼしているではないか!もはや十分過ぎる程の成果ではないか!」
「陛下、それを決めるのは我々ではありません!ですが、迅速に動かねば……ソラキル王国同様、我等クガルラン王国も亡国の憂き目にあいますぞ!」
どこまでもズレた事を言う陛下に私は声を荒げる。
国を残しこれ以上被害を出さない事を優先するならば、ここは和睦の申し入れをする以外ありえない。
今ならば制圧された集落を全てをエインヘリアに渡したとしても、国の西側の一部と東側は無事だ。
当然国力は落ちるし、今までと同じようにとはいかない。
それにソラキル王国が滅び、後ろ盾を失った我が国は外交上も大きく後退している。
例えここで国を残したとしても、行く先は先細りしていく未来しかないかもしれない……それでもここで未来に繋がなければ、その先を見る事すら出来ないのだ。
「陛下……クガルラン王国の未来の為、どうかご決断を」
私だけではなく、会議室にいる者達全てが陛下に深く頭を下げる。
「……だ、駄目だ!降伏なぞ、出来るはずが無いだろう!?」
もはや駄々っ子のように叫ぶ陛下の姿は……とても王に相応しい態度とは言えず、会議室にいる全ての者が表情を苦々しいものに変える。
「ロッセ将軍!お前の言うクガルラン王国の未来……そこには私が存在しない筈だ!」
「……それはどういう?」
陛下の言葉に私が首をかしげると、次の瞬間、顔を青褪めさせていた陛下の顔が真っ赤に染まる。
「先ほどの伝令の話を聞いていなかったのか!?ソラキルの王は処刑されたのだぞ!?しかも降伏した上でだ!それを知ってなお降伏しろとお前達は言うのか!?私の首を差し出して、お前達が助かる為だけに、私に死ねと!そう言うのだな!?」
「へ、陛下……私共にそのようなつもりは一切御座いません。条件交渉の際は必ず陛下の身の安全を確約させますので……」
「信じられるか!そうか……貴様等共謀しておるな!?国の為、未来の為と宣っておるが、結局のところ、私を生贄にして自分達だけ助かるつもりなのだろう!?」
ソラキル王国の王が処刑されたと言う情報が入った今、陛下がそう考えられるのは無理もない事だが……しかし、これ以上民に犠牲を強いる意味は無い。
無論我等とて陛下御一人に責任を擦り付けるつもりは無いが……さりとて、今陛下を納得させられるだけの材料が無い事も事実。
「くそ……何故今なのだ、何故私なのだ……あと十年もすれば私は退位して国を譲り何不自由ない人生を歩めたというのに……」
悔し気な陛下の独白が静まり返った会議室に小さく響く。
「これというのも、全てソラキルの愚王のせいではないか……ヤツの要請に従った結果、私が道連れだと!?馬鹿な!そんな理不尽認められるものか!?」
陛下が机に拳を叩きつけながら絶叫し……その音を最後に会議室の中は静まり返る。
これ以上和睦……いや、降伏の申し入れを陛下に求めることは不可能だ……。
責任を他所に押し付け、現実を見ない……周りから見れば子供が駄々をこねているようにしか見えないが、本人は至って本気で自分に責任はないと考えているのだ。
しかし……派兵を決めたのは陛下自身であるし、ソラキル王国の要請に唯々諾々と従ってきたのも陛下自身の判断だ。
無論、我等臣下に責任が無いと言うつもりは無い。
ソラキル王国に付き従うというのが国の方針であるという、ただそれだけで盲目的に従った我等は陛下と同等の責任がある。
だが、盲目的に動いた結果……その失敗を民達に擦り付けるわけにはいかないのだ。
民達を生かし、また民達に生かしてもらっている我等は、上に立ち民を導く責務と共に道を誤った時は率先して責任を取らなければならないのだから。
しかし、今の状態の陛下にそれを求めたところで強く反発されるだけ……既に和睦の為の草案は纏めてあるが、それを切り出せる状況ではない。
だが、民の為には一刻も早く停戦を求めなければ……。
「陛下、けして……我等は決して我等は陛下のみに責任を押し付ける様な事は致しません。どうか受け入れてはいただけませんか?」
「……」
私が声をかけるも、陛下は俯いたまま反応を見せない。そんな陛下を見つつ、私は言葉を重ねる。
「この場にいる我々には民を導き、民を守る責任があります。これ以上、民に犠牲を強いたところで状況は悪化する一方です。絶対に、陛下を御守りいたしますので……どうか、受け入れてはいただけませんか?」
再び、一同揃って陛下に頭を下げる。
もはや、道はこれしかないのだ……手をこまねいていたとしても状況は絶対に良くならない。
「……らん」
陛下の声が聞こえたがその声はあまりにも小さく、静まり返った部屋の中でさえ聞き取ることが出来なかった。
私が聞きとれなかったことを謝り、もう一度話して頂こうと考え頭を上げた瞬間、陛下が叫び声をあげる。
「ならん!民がどうだとかお前達の責任がどうだとか知った事か!私は王だぞ!私こそがクガルラン王国なのだぞ!?貴様等は私を守る事が責務であろうが!?兵の、民の最後の一人となるまで私の盾となり、私を守る事こそが貴様らの生きる意味であろうが!何故私を守らぬ!何故私に責任を押し付ける!私を犠牲にした先にクガルラン王国がある訳が無いだろうが!」
陛下の叫びに私のみならず会議室に居た全員が唖然としてしまう。
凡そ王としての言葉とは思えないそれは、陛下の……一個人としての本音が全て詰まっているように聞こえた。
「この無能共が!貴様らに……貴様等如きに任せていたせいでこのありさまだ!いいか、役に立たないお前たちに至極簡単な命を下してやる!民が滅びようと構わん!最後の一人となるまでその役に立たない体を使って私を守れ!ただ壁になるくらい、能無しの貴様等でも出来るだろう!?」
椅子を蹴り飛ばす様に立ち上がった陛下は喚き散らした後、肩で息をしながら会議室から逃げ去るように出て行く。
残されたのは……目を瞑り天を見上げるように椅子にもたれかかる者、頭を抱え机に伏すようにする者、悔し気に歯を食いしばる者……。
私はそんな彼等の姿を見ながら……決意を固め口を開いた。
View of フェルズ 部下が優秀過ぎて色々な意味で震える覇王
「クーデター?」
執務室で書類を確認しつつ、遂に一ヵ月の魔石収入が一億を突破したことに内心小躍りしていた俺の下にキリクがやって来て、とんでもない爆弾を少々堅い様子で渡してきた。
え?クーデター?エインヘリアで?嘘でしょ?
「はい。クガルラン王国で本日、国の上層部の者達が結託し王に対して反旗を翻しました」
うちじゃなかった!……あぁ、よかった。
いや、うちでそんな事が起きてたらキリクだってもっと慌てるよね?
「上層部のほぼ全ての者が参加しており、近衛騎士達も合流……一時間と経たずに王族は全て捕縛され、宰相と将軍を中心とした臨時政権が発足。それと同時に、カミラ、アランドール率いるそれぞれの軍に停戦の使者が送られました。恐らく三日程でカミラ達の所までたどり着くことでしょう」
遥か遠くの地で起こったクーデターを当然の如く把握し、俺に伝えて来るキリク。
それ自体は別に驚くほどの事ではあるけど驚きはしない。多分ya〇ooニュースとかでチェックしたのだろう。
今問題はそこじゃない。
俺は内心ドキドキしながら、キリクに向かって口を開く。
「そうか、予定通りだな?」
「いえ、申し訳ありません……」
そう言ってキリクが深々と頭を下げる。
お、おぉ。
キリクが画策したことじゃなかったのか……流石のキリクもそこまで手は伸ばしてなかったってことだね……まぁ、予想くらいはしてたかもしれないけど。
そんな風に俺が胸をなでおろしていると、キリクが言葉を続ける。
「予定では昨日の段階でこうなるはずだったのですが……計画に遅れが生じ、汗顔の至り。誠に申し訳ございません」
やっぱりキリクの計画通りだったーーー!!
え?それ謝る所!?
納期遅れてすみません的なヤツなの!?
い、いや、待て、おちちゅく……もとい、おちちゅきゅんだ、あれ?
「……問題ない。今回の計画は一日の遅れが傷となるようなものでは無かろう?次から気をつけてくれれば不問とする」
俺は適当かましつつ、そんな風にキリクに伝える。
いや、一応根拠はあるよ?
もしこの一日の遅れが致命的な物であるなら、キリクはもっと早く俺に報告を上げているだろうし、今よりも深刻にしているに違いないからね!
「寛大なお心遣い感謝いたします。二度とこのような事が無いように精進いたします」
「あぁ。だが、キリク。今回のお前の計画……実に見事な物だった。お前ならば全てを任せられる、そう確信出来るものだ。そのお前が言うのだから、一日読み間違えたのは事実なのだろう。だが、けして気に病むな。お前の働き、俺は心の底から満足している」
「っ勿体なきお言葉……」
キリクが一瞬言葉を詰まらせながら再び頭を下げる。
そんなキリクを見つつ俺は立ち上がり、机の前で頭を下げるキリクの下に歩み寄る。
「ありがとう、キリク。これからもよろしく頼む」
感謝の言葉と共に、キリクの肩を軽く叩く。
すると、一瞬身震いのように体を震わせたキリクが、ものすごい勢いで片膝をつく。
「この命に代えましても!」
いや……そこまでしてくれなくてもいいよ?現代日本ならともかく、この世界での一日のずれって誤差程度だと思うしね?
俺は水属性が得意なキリクの背後にめらめらと燃える炎を幻視しながら、クガルラン王国の今後についてどう動いたらいいのかキリクに尋ねたいんだけどなぁ、と若干途方に暮れた。
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