第167話 それぞれの戦い
「では、話を始めましょうか。まずアーグル殿、そちらが求めているのはまずは一般的な交易品、次にドワーフ達の作る品々、そして最後にポーション。それらを可能であれば転移を使って輸送したい。そんなところでしょうか?」
普通の交易品とドワーフ製品、それからポーション……なるほど、まぁうち相手って考えればその辺が妥当だよね……あれ?アーグル殿はドワーフの件知らなかったんじゃ……いや、そうか、知らなかったとしてもドワーフを傘下に収めたと聞けば欲しくなって当然か。
「いやぁ……全部お見通しって感じですな」
「はははっ、他所から見て何が魅力的かは十分理解しておりますし、魅力的に映るように見せておりましたので」
見せていた、か……こちらが意図して流した情報って事を匂わせている感じかな。キリクのドSが早速顔を見せ始めたのかもしれない。
「一般的な流通品に関しては……こちらの資料に纏めてあります。品目と一ヵ月にこちらから出せる量ですね」
「拝見します……」
アーグル殿はキリクの出した資料を手に取り目を通し……次の瞬間少しだけ口元を引くつかせた。
まだ一般的な流通品らしいし、そんな鬼畜な事は書いてないと思うんだけど……。
「これだけの量を、毎月ですか……?」
「えぇ。アーグル商会であれば十分販売できる量だと思いますが、如何でしょう?」
「……」
非常ににこにことしながらキリクが尋ねるが、尋ねられたアーグル殿は硬直……いや、何やら考え込んでいるように見える。
「確かに……販売する事は可能ですが……」
「仕入れに関しては掛売りで構いませんよ。いきなりこれだけの量を現金で買い取るのは厳しいでしょう?」
掛売りってなんだっけ……現金以外で買うってこと?
「そうですね、そちらも問題ですが……それ以上に輸送の問題がありますな。これだけの量をエインヘリアから各地に輸送するとなると……私共の商会の輸送力では確実に容量オーバーですわ」
「輸送に関しては私共が力を貸しましょう」
「もしかして、転移を……?」
厳しそうな表情が一変、アーグル殿が目を輝かせながら言う。
「いえ、残念ながら転移をするには条件が満たされておりませんので。ですが、ゾ・ロッシュにあるアーグル商会の所有されている倉庫までは責任をもってお運びいたしましょう」
「では、輸送料に関しては、ここに書かれている金額に上乗せっちゅうことですね?」
「いえ、輸送料を別途頂くつもりはありません」
「しかし、ここに書かれとる金額は、安いなんてもんじゃありませんよ?」
そう言いながら、真剣な表情になったアーグル殿が見ていた資料を裏返し、テーブルへと置き背もたれに体を預けながら手を組む。
「怖いですなぁ。私共に何をさせる気ですの?」
「まず私達が望むのは情報です。そちらのロブ殿、そしてその部下の方々……」
「ははっ!キリク様、それはあきまへん。ロブとその部下はうちの要や。今ある店舗の全部を失ったとしても、手放すわけには行きません」
そう言って笑うアーグル殿の目は全く笑っていない。
人材こそ一番大事って事だろうけど、全部の店舗を失ってもか……人さえ残っていれば再起は容易いって言ってるわけで……凄い自信だね。
「えぇ、分かっていますよ。大丈夫です、貴方の片腕をもぎ取るつもりは更々ありません。私が欲しいのはロブ殿達の集めた情報です」
「あーなるほど……早とちりだったみたいですな。申し訳ない」
「いえ、少し紛らわしい言い回しでしたね。流石にこの程度の金額でロブ殿達を買えるだなんて考えてはいませんよ。それに、多分ロブ殿が最大効率で働くのは、アーグル殿の指示を受けた時でしょうしね」
そう言って肩を竦めるキリクに、少し目を丸くするアーグル殿。
「まぁ、何処を調べて欲しいというような依頼をすることはあるでしょうが、基本的にはアーグル商会が得ている情報を買うといった形になるでしょう」
「分かりました。その条件はひとまず了解しました……それで、先程『まず』とおっしゃられていましたよね?次の条件をお聞きしても?」
「次の条件をお話しする前に、一つ謝らなければならないことがあります……実は今回の取引、今すぐに始められるという訳ではないのですよ」
「そうなのですか?てっきり即日開始と言われるものと思うとりましたが……」
俺もそう思ってたけど……違うのん?
「えぇ。というのも……北の方が最近騒がしいですよね?」
「……あぁ、そういう事ですか」
北って言うと……あぁ、ソラキル王国か。
「新たな王も即位して、今は国内を一つに纏めている最中ですが、それが終われば次は新王による外征でしょうね」
「新王……中々面倒な王が即位したもんですな。元は継承順位第七位でしたな」
「えぇ。王子の中では一番順位の低い者でしたが、中々強かだったようですね」
ソラキル王国の新王か……キリクが以前予想していた通り、継承順位一位だった王子は第七王子に嵌められたらしい。
キリクの話によると第一位の王子は、王を暗殺したとして王位を継ぐ前に処刑されてしまったとの事。
当時の王は病床についておりその容体も重く、いつ死ぬともしれないと言われていたにも拘らず、第一位の王子が暗殺なんてわざわざするはずがないと思うけど……何をどうやったか知らないが、ばっちり暗殺の主犯は第一位の王子として発表され、即日処刑されたそうだ。
更に王が死んだことにより、その時点で継承順位の一番高い者……つまり第三位の王女が女王となるはずだったのだが……当の王女がこれを辞退。
何故か継承権を放棄せずに、第七位の王子を次の王に推したのだ。
キリクは第三位の王女の事を狸だと言っていたけど、流石にここに来て、俺も第三位の王女が色々と怪しく見えて来た。
この継承権争いを第七位の立場で考えた時、第一位も第三位もどちらか一方に手を出せばかなり面倒になると考えた……第一位の寝首を掻けば第三位に確実に狙われるし、逆に第三位に手を出せば第一位に反意があると教えるような物だからだ。
しかし結果は、第一位が嵌められて処刑され……第三位は身を引き第七位を推した。
第七位にしてみれば第三位を生かしておく必要はないだろう……にも拘らず第七位の王子は第三位を害さず、継承権すら残したままにしている。
新王が即位したというのに、わざわざ継承権を残したままにしている第三位の狙いは分からないけど……第三位と第七位の間には最初から繋がりがあったと考える方が自然だろう。
そんな感じで、結局ソラキル王国の王位継承争いはクレイジーサイコである継承順位第七位の王子が勝者となり、第三位の王女と第四位の王子を除き他は全員が死亡……ついでとばかりに王も崩御し、新王が即位する事と相成ったという訳だ。
「地盤を固めたら、今度は内外に強き王をアピールするための外征っちゅうわけですね。その場合狙うのは十中八九エインヘリア……お題目は……友好国であるユラン公国の解放ってとこですかね?」
「そうなるでしょうね。そして戦端が開くと同時に、クガルラン王国もエスト地方に向けて進軍開始といったところでしょう。まぁ、かの国の本心としては絶対に動きたくない筈ですがね」
「そらそうでしょ。クガルラン王国の南はルフェロン聖王国、北東にはギギル・ポー。今エインヘリアに進軍すれば南北から迫られかねない状況ですし、間違いなく碌な目にならんでしょ」
「かといって、動かなければ今度はソラキル王国に非難される……下手すればソラキル王国から軍を向けられることになる。右に倣えと付き従ってきたツケですね」
なんか凄くいい笑顔を見せながら二人が語っている。
付き従っているだけのクガルラン王国が若干可哀想になってきたけど、まぁ、今まで上手い事立ち回ってきた結果だし、やばくなりそうだからと言って手のひら返しなんてしてしまえば……それこそ色々な意味で終わりだ。
「……既にエインヘリアはソラキル・クガルランの連合軍と戦うつもりやったんですね?ってことは……俺らを通して、商協連盟と手を結ぶっちゅう腹積もりですか?」
「ん?」
アーグル殿の言葉にキリクが首を傾げる。
ここまで意見が一致しているように見えていたけど、着地地点はかなりズレてしまったようだ。
まぁ、アーグル殿からしてみれば、うちの戦力を正確に把握出来ていないわけだし、他所の勢力と手を結びたがっていると考えても仕方ないだろう。
ソラキル王国はかなりの強国らしいし、大国……とは違うけど、大勢力である商協連盟に繋ぎを作り力を借りようと考えるのが常道……まぁ、うちに普通はあまり通じないけど。
「あら?違いました?……えっと、すんません、少し整理させて貰っていいですか?」
そう言ってアーグル殿が口元に手を当てて思案するようなそぶりを見せ、数秒と経たない内に何かに気付いたような表情を見せる。
この一瞬で何に気付けたのか分からないけど……この人もめちゃくちゃ頭の回転が早いんだろうなぁ……。
「……うちの商会に軍事物資の供給を頼みたい……ってことでもあらしませんよね?」
「えぇ。そちらは全く問題ありません」
「ってことは……うわぁ、マジですか……次は商協連盟ってことですか」
次は商協連盟ってどういうことですか?え?ソラキルの次は西に向かって攻めていく系なの?
その計画、覇王知らなかったんですけども?
っていうかソラキルの話はもう終わりなの?
「まだ次と確定しているわけではありませんよ。ソラキルを潰すと次に動きそうな国が居ますしね」
「……ま、マジですかい?あそこともやるつもりだと……?いやいや、いくらなんでもそら無謀っちゅうもんですわ……」
一体何処とやるつもりですのん??
キリクとアーグル殿は何処を見ているのかしらん?覇王、周回遅れどころじゃないくらい置いてきぼりなんですが?
「ははっ、問題ありませんよ。例え何処が相手であろうと……いえ、全ての国を敵に回そうと我等は勝ちます。エインヘリアに敗北はあり得ません」
「……そら凄い自信ですが……」
アーグル殿が驚きというよりも呆れのような物を一瞬滲ませながら言う。
まぁ、今のキリクの台詞は、大言壮語甚だしいと思われても仕方ないだろうね。ここに来てアーグル殿に失望されたのかもしれない。
「えぇ、アーグル殿、何も強がりや慢心でこのようなことを言っている訳ではありませんよ。といっても、流石にいきなりこんなことを言われても、信じられないのは無理もないでしょう。いくらロブ殿から、彼女達や陛下の御力について聞いていたとしても」
「っ!?」
今までで一番分かりやすくアーグル殿の表情が変化する。
ロブって人に俺達の力を聞いていたって、どういうことだ?
……あぁ、そっか、さっきキリクが片腕がどうのこうのって言ってた時に、情報を集める云々って言ってたな。
察するにロブって人は情報収集担当とかそんな感じなのだろう。
恐らく俺やレンゲ、リーンフェリアの戦闘力を調べて報告していたってことだね。
レンゲは三国との戦争に出ていたからともかく、俺とリーンフェリアが戦ったのは……ルモリア王国を倒した後の魔物退治かギギル・ポーの採掘場くらいだな。
まさか最初のバンガゴンガの村って事は無いだろうしね。
しかし、こちらを調べていたとしてもルモリア王国での魔物退治は少し時期が早すぎる気がするし、俺達の強さを確認したのはギギル・ポーで?いや、もし俺達以外があの場にいたとしたらクーガーが教えてくれる筈……え?クーガーの索敵以上の隠密能力があるって事!?
「どうやっているのか、はっきりとは分かりませんでしたがね。サインの様なものはありませんでしたし……私の知らない魔法か何かでやり取りをしているとかでしょうか?」
「……」
んん?キリク先生は一体何の話をしてらっしゃるのでしょうか?
「この部屋に来てから、何度かアーグル殿が反応されていましたし……もしかしたらロブ殿から一方的に何かを受信する様な感じなのでしょうか……?実に面白い能力だと思いますよ?」
キリクはずっとにこやかな表情を変えずに話しているけど、なんかめっちゃ追い詰めてる感じがする。
もしかしたらキリクは今、アーグル殿にとってトップクラスの秘密を暴いているのかもしれないな。
「そう驚かないで下さい。アーグル殿が我々を探っていたように、私共もアーグル殿達の事を調べさせてもらっただけですよ。まぁ、調べていた時点では少し違和感がある程度だったのですが、今日この部屋でこうして会話させて貰ってようやく確信出来ました」
アーグル殿は表情を硬くして、キリクはとても上機嫌。そして覇王は疑問符でいっぱい。
え?つまりどういうことなん?
キリクとアーグル殿の戦いがキリク優勢で進む中、俺は俺で疑問を顔に出さず悠然とした様子を崩さないように覇王力を総動員して戦っていた。
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