4-18
○
はたりと軽い音でノートが閉じられた。
汐世がノートをテーブルに置いたのに頼鷹が気づいて、読んでいた文庫本に栞を挟んだ。ノートを読むのに集中していて、頼鷹がいつの間にか読書をしていたのにも気づかなかった。
「ノート、ありがとう。想い出図書館のこと、館長さんたちのこと知れて良かった。千歳姫さんは自分の意思で館長になったわけじゃないの、可哀想だったな。神様だか何だかわからないけど、ひどいことするね」
「神様というものは理不尽なことをなさると、お話を聞いた時さすがの私も憤慨しました」
「頼鷹さんが怒るって想像できないな」
「私も怒ることはあります」
そう答えた頼鷹の表情は相変わらずにこやかだった。全く説得力がない。
「維央さんも館長を継ぐってすごい決断だよね。千歳姫さんと交流が始まってから一年なかったわけでしょ」
「お互いの気持ちを尊重した結果だとおっしゃっていましたから、最善の選択だったのでしょう」
「ふうん。色々と、あったんだろうね」
同情だけでない、友情かはたまた……と思案してカップにまだ残っていた紅茶を一口飲む。空になりそうなのを察して頼鷹が席を立ち、紅茶のおかわりを淹れ始める。
「どうでしょう、改めて想い出図書館の司書になることについて。お話を聞いて迷っていらっしゃいますでしょうか」
「頼鷹さん、そんなこと心配してたの?あたしの覚悟は決まってるって。なるに決まってるじゃん」
「汐世さんは、お強いですね」
頼鷹は噛みしめるようにつぶやく。しばらく待って茶葉の蒸らしが済み、カップに再び色鮮やかな紅茶が注がれる。ふわりと湯気とともにかぐわしい香りが立ち昇った。
「千歳姫さんは維央さんと別れてからどうなったんだろうね。もしかして、今も生きてたりして」
「そうでしたら素敵ですね。お会いしてみたいです」
「ねえ、それとずっと聞きたかったことがあるんだけど」
「何でしょう」
汐世は決意を固め、席に戻った頼鷹を真っ直ぐに見て言った。
「維央さんがどうして行方不明になったか……頼鷹さんは知ってるの」
「なんとなくは。私が司書になって、ひとりでも図書館を任せられるようになった頃、維央さんは時々理由を告げず出かけるようになって。その当時も候補地探しは帯屋さんがやってくれておりましたから、その関係でないのはわかっております」
「もしかして」
「千歳姫さんを探していたのかもしれません。そしてもう」
頼鷹は言葉を詰まらせた。
「いつも私のことを気にかけてくださっていましたから、何も告げずにいなくなってしまうことはないと信じたいのですが」
「もし再会できたらさ、一発殴ってやればいいよ」
汐世の言葉に頼鷹がぽかんとした表情になる。
「まあ、それは冗談として。会えたら、ひざをつき合わせて話し合いすればいいんじゃない?」
「汐世さんが言うと、どうにも冗談のように聞こえないのですが……そうですね、そうしましょう。何なら一発殴っても良いかもしれません」
「頼鷹さんこそ冗談に聞こえないって」
汐世が堪えきれずにほんの少し笑みをこぼした。
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