3-5
何となく流れでお茶をする運びになってしまった。
本日の紅茶はアールグレイだと言って、狩野さんは三人分のティーカップに均等に紅茶を注ぎ入れた。紅茶に関しては完全に門外漢だが、アールグレイくらいはわかる。お茶菓子にはトリュフチョコレートを用意してくれた。たしかに、立ちのぼってくるベルガモットの香りとよく合いそうだ。
「きゃーんおいしー。これ、どこのお店のですか?」
「近くのお店で製菓用のチョコレートが売っているので、温めた生クリームに溶かして冷やし固めただけです」
「手作り?えー、狩野さん神ぃ」
うっとりとした表情で、須璃ちゃんはまたひとつビターで濃厚なトリュフチョコを口に放りこむ。結構なペースでもうすでに五つ目だ。
俺も一粒だけ頂いて、甘さと苦さと濃厚さ、それにほんの少し洋酒の香りもして、確かにお店のものだと間違えてしまうほどのクオリティだと感じた。感じたが……俺ならば五つも口にしたら確実に胸やけを起こす自信があると辟易しながら紅茶を流しこんだ。
それにしても彼女はこの司書に気でもあるのか、俺に対する態度よりずいぶん甘ったるい声を出す。嫉妬とは違うけど何となく癪だ。少しもやもやとしていたら、須璃ちゃんは紅茶を飲み干したカップを置いて一息つくと、あのぉ、と声をあげた。
「わたしたち二人でちょーっと相談したいことがあるんで、狩野さんはここでゆっくりお茶飲んでてくれませんかぁ」
いやいや、提案がストレートすぎないか。俺はさっと血の気が引いて、背中に不快な汗を感じた。
「それでしたら、私が奥に参りましょう。お二人ともお茶を飲みながら、ごゆっくり相談なさってください」
「えっ、いいんですかぁ?」
「勿論」
「わぁい。じゃあお言葉に甘えさせていただきますぅ」
俺の心配をよそに狩野さんは微笑みのまま承諾し席を立つと、自分のティーカップをてきぱきと片づける。
「それでは。もしお帰りの際は、茶器はそのままで結構ですよ」
狩野さんは一礼して、ワゴンを手に書架通路へ戻っていった。
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