第4話 開拓村
オッサンに肩を貸して進むこと小一時間。ようやく開拓村が見えて来た。道中の話によると、どうやら食料調達に来ていたらしい。開拓村の近くのモンスターは狩り尽くしてしまい、もはや遠出しなければまともに食料が得られないらしい。ダメじゃんこの地。そりゃ撤収を決めるわけだわ。
「あそこが開拓村だ。そういえば、レオは来たことがあるんだよな?」
「いや、初めてだ。どんな場所なのか楽しみだな」
「そうだったのか。開拓村に来る途中だったのか。この辺りには貴重な錬金術素材が見つかることがあるらしいからな。そういえば前に何度か錬金術師が来たことがあったな」
遠くを見つめ、思い出すかのようにそう言っているところを見ると、その錬金術師が来たのはずいぶんと昔のことのようである。それだけ訪れる人が少なかったとなると、どうやらその貴重な錬金術素材とやらは大したことはなさそうだ。
木の柵の間を抜けると、ヒゲもじゃのドワーフかと思わせるような人物がやってきた。一般的なドワーフよりも背が高いので、ドワーフではなく人間のようである。それにしてもそっくりだな。ドワーフと人間の間の子供かな?
「早かったな。もう戻って来たのか。ところで、その兄ちゃんは?」
豊かなアゴのヒゲをなでながら尋ねて来た。その声色から、あまり歓迎はされていないようである。
それもそうか。道中の話だと、食料に困りつつあるようだからな。これ以上の無駄な消費は避けたいのだろう。久しぶりの訪問者ともなれば、飲めや歌えのおもてなしが定番だからな。しかし、どうやらそれは期待できないようである。残念無念。
「ブラックベアーに襲われているところを助けてもらった錬金術師だ。この辺りに素材採集に来たらしい」
「ブラックベアーだと!? おい、その話は本当なのか?」
ヒゲもじゃに肩を揺すられたオッサンがふらついた。その足下がおぼつかない様子に、ヒゲもじゃの男がビクッとなった。普段はこの程度で足下がフラフラすることはないのだろう。
「そのくらいにした方がいい。貧血で倒れるぞ」
「どういうことだ? ケガをしているようには見えないが……もしかしてその服についている血はお前のか!?」
「そうだ。彼が回復ポーション++を使ってくれなければ助からなかったかも知れない」
「回復ポーション++!? すみませんが、詳しいお話を聞かせてもらってもよろしいですか?」
「もちろんだ」
ようやく目の前に偉大なる錬金術師がいることに気がついたようである。言葉遣いも丁寧なものへと変わっていた。そのまま俺たちは開拓村で一番大きな小屋へと連れて行かれる。
「私が村長です」
どうやらこのヒゲもじゃのドワーフのような男が村長のようである。どうやらこの開拓村では村長自らが見回りをしているようだ。
「旅の錬金術師をやっている。ここへは素材を集めに来た」
もちろんウソだが、バレなければそれは事実になる。こう言っておけば変な詮索をされないだろうというカビルンバの考えである。ブラックベアーが本当にいたことを示すべく、戦利品の「ブラックベアーの毛皮」を村長の目の前においた。
すぐにそれが何なのか分かったのだろう。カッと目が見開かれた。
「これは間違いなくブラックベアーの毛皮……これがここにあるということは、倒したのですか?」
「もちろんだ。ブラックベアーなど、私の敵ではない」
ゴクリ、と唾を飲み込む村長。お分かり頂けたかな? 村長よりも強いやつが目の前にいることに。先ほどの第一開拓村人と共に何があったのかを話した。村長はこの開拓村から一時間ほどの圏内にブラックベアーが生息していたことを聞いて青ざめている。どうやらこの村長の戦闘力はそれほど高くないようだ。
それもそうか。この第一開拓村人はそれなりの戦闘力を持つからこそ、開拓村の外に狩りに出かけていたのだ。その強者がボコボコのけちょんけちょんにされて帰って来たのだ。「もうこの開拓村はダメだ、おしまいだ」と思っていても、何ら不思議ではない。
「大事な村民を助けて頂き、ありがとうございます。なんとお礼を申し上げたら良いのか。この開拓村は近いうちに廃村になります。それまででよろしければ、ゆっくりしていって下さい」
村長、無念のリタイア宣言。どうやらブラックベアーによって完全に心が折れてしまったようである。村長がそれを村人に伝えると、村は少しだけ騒がしくなった。
村人を助けたお礼はなかった。だがその代わりに、村長の家の空き部屋に泊まらせてもらうことができた。
「思ってたのと違う」
「何を言っているんですか。屋根付きの家に泊まれるだけありがたいと思わないと」
「こんなことなら家から出るんじゃなかった」
「あそこに引きこもっていたら、いずれ栄養不足で体を痛めることになりますよ」
ダメだこの人、早く何とかしないと、みたいな感じで首を左右に振るカビルンバ。ちょっと傷ついたぞ。だがウジウジしていてもしょうがない。ここでできることをやらなくては。ウジウジするだけならイモムシでもできる。
「カビルンバ、これからどうする?」
「え、ボクに丸投げですか? そうですね、分かりました。レオ様に任せておいたら先に進みませんからね。むしろ後戻りすることになりかねない。……唇をかんでも無駄ですよ。事実ですから」
カビルンバがひどい。かと言って良い案もない。ここはカビルンバに一任しよう。一流の人ほど、部下から学ぶことができるのだ。
「この辺りには錬金術の素材があるという話でしたね。まずはそれを探してみましょう。それが使える素材なら、それを元に新しい錬金術アイテムを作る。ある程度商品ができあがったら、隣の町へ向かいましょう」
「隣の町まではここから三日日ほどかかるんだったな。食べ物足りるかな?」
「徒歩ではそうですが、空を飛んで行くのでしょう? それならその日のうちにつきますよ」
「それは朗報だ。……別にこの村に来る必要はなかったんじゃ?」
あ、カビルンバの目がつり上がっている。
「ボクが最初にそう言いましたよね? それを人に会う練習だとか言ってここに来ることを決めたのはどこのどなたでしたっけ?」
そっと目をそらせておいた。あまりにも自然な動作だったから、カビルンバも見逃してくれるはずだ。魔王にだってうっかりミスはあるんだ。
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