213.事なかれ主義者は町をぶらぶらする

 ファマリアはずいぶんと拡張工事が進んでいて、世界樹ファマリーを中心にぐるりと建物が囲むほどになっていた。

 都市国家ユグドラシルやエンジェリア帝国方面の南の区画には、ドラン公爵が置いていった駐屯兵たちの兵舎があったり、大勢の兵士たちが同時に入浴できる公衆浴場があったりする。

 公衆浴場は男湯と女湯に分かれていて、奴隷たちは女湯に入っている。今の所、覗きの報告は来ていないし、無理だと思う。覗こうと思っても男女どちらもお風呂周辺に、いろいろ魔道具を設置しておいたから。足止めとか妨害とかメインだから死ぬ事はないだろうけど、今後も魔道具が発動しないといいな。

 兵舎の近くには、円形闘技場がある。今はドラン兵たちの訓練で使っているらしい。何かしら有効活用ができたらいいんだけど。


「……馬とかいっぱいいるし、レースとかさせてみるのもありかな? あ、浮遊台車でレースしてたんだっけ? それをこっちでしてもらうのもありか。後はジューロさんに協力してもらって車もどき作って二輪レースとか?」

「途中からよく分かんねぇけど……賭け事か、良い息抜きになるからいいんじゃねぇか?」

「ホムラ様が許可を出しておりませんから、この町には娼館もありませんからね。兵士たちはドランに戻った際にそういう事をしているそうです。息抜きとして有効活用するならば犯罪奴隷と魔物を戦わせるのも見世物としてありでしょう」


 うーん……ちっちゃい子たちの成長に悪影響になりそうな事はちょっと。ただでさえ安い奴隷を買い集めてたら、そうは思わないけど、見た目が良くなくて労働力にもならない幼い子たちもいるし。ああ、でもこっちの世界だとそういうのは身近だからいいのか?

 道行く小さな子どもたちを目で追いながら考え込んでいると、前を歩くジュリウスが僕の顔を見てから付け加えるように口を開く。


「ああ、あと犯罪奴隷ではなくとも、小集団の兵士や冒険者と魔物の戦いを見せる事もありかもしれません。この町の子どもたちは魔物の恐ろしさを知らずに成長しているので。フェンリルの事を無害な魔物と思い始めている者も少なからずいるでしょう」

「それに、シズトが作った魔道具のおかげで町の外のアンデッド共も楽に倒せるからなぁ……イザベラもどうするか悩んでだぞ」

「やっぱりぃ、魔物の恐ろしさはぁ、教える必要があると思いますぅ」


 僕と手を繋いだジューンさんが、すれ違った小さな子たちの集団を見ながらそう言った。


「……ちょっと、レヴィさんと相談しとく」

「シズトくん、キングオークの串焼き手に入ったわよ! お姉ちゃんと一緒に食べましょ!」


 ルウさんが近くの屋台で売っていた串焼きを大量に持ってきた。

 そんなにあっても食べきれないと思ったけど、ラオさんとルウさんが殆ど食べた。

 僕はジューンさんと一緒に一本だけ貰って、歩きながら食べる。

 キングオークのお肉、口の中で溶けてなくなったのかと思うほど美味しかった。

 ……奴隷の子たち相手に商売をしていると思ってたんだけど、違ったのかな?


「どうやらぁ、奴隷の子たちは皆でお金を出し合ってぇ、ちょっとずつ食べてるみたいですねぇ。仲が良いのはぁ、良い事ですねぇ」

「ああ、なるほど」

「後はお前がお小遣いとして金を与えすぎなだけだな」


 んー、でもまあ、お金が一カ所にとどまり続けると良くないかもしれないし。

 魔道具を作れば作るだけどんどん儲かるからな。

 ノエルたちが作るように特殊な液体を使ったり、機材を揃えたりして作っていないから材料費だけで済んでるのに。

 特に貴族相手の依頼は、レヴィさんが価格を吊り上げているんじゃないかと思うほどの値段になっている気がする。

 南区から東区に移動すると、プロス様の像が近いからか、鍛冶屋等の施設が多い。

 鍛冶屋を営んでいるドワーフだけではなく、木材を加工して机を作ったりしている人間やエルフも中にはいた。職人集団の区画みたいになっている。

 プロス様の教会は今日も金色に輝いていて、その外壁をドワーフたちがきれいに磨いていた。そんな事をしなくても汚れはつかないんだけど。

 木彫りの熊はなかったけど、家具をオーダーメイドしているお店もあった。こないだウェルランドに建てた魔道具店と全く同じ物を作ってもらった。

 店主のエルフが恭しく頭を下げる。


「棚は問題なく使う事ができていますか?」

「うん、寸法も完ぺきだったよ」

「それは良かったです。本日はどの様なご用件でしょうか?」

「たまたま寄っただけだけど、ちょっと時間がある時でいいからいろんな大きさや太さの車輪作っておいて。何かに使えるかもしれないから」

「かしこまりました」

「お金の事はホムラと相談してね」


 ちゃんと釘を刺しておかないと、この町にいるエルフは無償で働こうとするからなぁ。気を付けないと。

 その後もちょくちょく店先を覗きながら北区へと向かう。

 同じような建物がたくさんある奴隷たちの居住区だ。

 通りは美味しそうな匂いが立ち込めている。今日は仕事がお休みの奴隷たちは、遊んでいるのか走り回っていた。

 特に見る所はないのでそのまま西区の方に行こうとしたんだけど、途中で研修所見えてきたので寄る事にした。

 ちょっと覗いてみよう。皆しっかり勉強してるかなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る