幕間の物語80.勇者たちは南へ向かう
勇者と呼ばれていた金田陽太、黒川明、茶木姫花の三人は現在、冒険者として活動していた。
二ヶ月前にシズトと話し合いをして、エンジェリア帝国から逃げ出す事にした彼らは、ダンジョンで手に入れた事にしたアイテムバッグのおまけのおかげで無事に自由を手に入れていた。
姫花がオーダーメイドしたアイテムバッグの中には『国外追放刑の指輪』という名前を付けられた使い切りの魔道具が人数分入っていた。
エンジェリア帝国の庇護下から出て、外の世界を見る旅に出ると伝えた時には、想定通り皇帝は怒り狂ったが、その魔道具のおかげで捕まる事もなく、国外に逃げ出す事ができた。
逃げた当初は明は喜んでいたが、残りの二人はそうではなかった。
「あ~あ、こんな事になるんだったらもっと女を抱いておくんだった。あんな事やこんな事もしたかったってのに」
「娼婦に相手してもらえばいいじゃないですか。ハニートラップにはくれぐれも気を付けてくださいよ。ついて来るのは勝手ですけど、もう助けないですからね」
「うっせぇなぁ。そういうのは散々引っかかってきたから、もうだいたい雰囲気で分かるし引っかからねぇよ」
「そうだといいですね。姫花はいつまで財布の中身を見てるんですか」
「だってしょうがないじゃん! 結局アイテムバッグの代金を二人とも折半してくれないし! 中に入ってた魔道具を二人も使ったでしょ!? なんで姫花が全額負担しなきゃいけないの!」
「うっせぇなぁ。金なんか女たちにあげたプレゼント代で全部使っちまってねぇから仕方ねぇだろ」
「アイテムバッグの中身のおまけは、あくまでご厚意でつけてくれたものです。アイテムバッグの値段はあのくらい普通なんですから、普段使いするんだったら自分のお金から出すのは当たり前じゃないですか。これからどれだけお金があっても足りないくらいなんですから、節約して進みますよ」
そんな事を話しながら、元エンジェリア帝国の勇者三人組は、エンジェリア帝国の方面に背を向けて南下した。
昔の勇者たちが作ったニホンという名前の国があると聞いていたからだ。
アキラ、ヒメカ、ヨータという名前で冒険者登録した三人は、冒険者として日銭を稼ぎつつ、国を横断してどんどん南下していった。
途中、オークの集落を壊滅させて囚われていた人々を助けたり、調子に乗った陽太がドラゴンに挑んで逃げ帰る事になったり、ダンジョンを踏破したりと冒険を続け、気づいた時にはCランク冒険者になっていた。
そういう事を続けていると、期待のルーキーとして注目を集め始めていた。
そんな彼らにはいろいろな情報が入ってくる。
「シズトが龍の巣をして勝ったそうですよ」
「龍の巣ってなんだ?」
「ドラゴニアで行われる事が多い加護持ち同士の揉め事の解決手段だったと思います。命を落とす事はほとんどないですが、怪我は普通にある試合らしいです。僕も文献で読んだだけなのでアレですが、卵に見立てた物を壊すなり、自陣に運ぶなりしたら得点が入って、それを競うそうです。ただ、その試合で相手に何もさせずに勝利したそうですよ」
「「ふーん」」
興味なさそうに爪を弄りながら相槌を打つ姫花と、鼻をほじりながら聞いていた陽太。
明は説明した自分が愚かだったとため息をつくと、気持ちを切り替える。
路銀を稼ぎながら進んでいるが、想定よりもニホンという国に近づく事ができていない。
エンジェリア帝国が三人の勇者は旅立ったと宣言したと聞いたが、あの王の事だ。諦めていないだろう。
そう考えている明は、少しでもエンジェリア帝国から離れたかった。
「次の国はなんてとこだっけ?」
「ドタウィッチ王国という所ですね。魔法の研究が盛んで、有名な魔法学校があるそうですよ」
「学校! ちょっと行ってみようぜ!」
「ダメに決まってるでしょう。貴族や王族ばかりの場所ですよ。面倒事を起こす未来しか見えないです。それに、他国からの留学生がたくさんいる学校なんですから、エンジェリア関係者も絶対いますよ」
「また勉強するの嫌だし、姫花も行きたくなーい。陽太一人で行けばぁ?」
くだらない事を言い始めた陽太を放っておいて、明は姫花と並んで冒険者ギルドの依頼ボードを確認する。
小さな町の小さなギルドという事もあって、常設依頼が殆どだった。
「お金にはまだ余裕がありますし、次は国境付近の大きな街によりますか」
「やったー! 姫花、いい加減新しい服欲しかったんだー」
「俺もやりたい事があるから別行動しようぜ!」
「変な女に引っかからないでくださいよ。後、姫花は散財しすぎないようにしてくださいね。お金は何があっても貸さないので」
「明がケチだってのは知ってるから頼まないし」
「明もどうだ? 一皮むけて大人にならねぇか?」
「丁重にお断りさせていただきます」
加護もあるため、戦闘は頼りになる二人だったが、面倒事に巻き込まれそうだから早めに別行動をした方が良いかもしれない。
ただ、一人で冒険できる程、この世界は甘くはない。
ニホンという国に着くまでは、我慢するしかないか、と明はいつものようにため息をつくのだった。
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