161.事なかれ主義者は庇いきれなかった
結婚の申し込みは、結局全部お断りする事にした。
一通り目を通したからなんか言われてもきっと大丈夫。
レヴィさんとドーラさんは今日も長引いているようで、夕食の時間になっても帰ってきていなかった。
ゆっくりと食事をとりながら、既に食事が終わっているラオさんやルウさんにドラゴニア王国について話を聞いている。
「ドラゴニアの武力は申し分ねぇな。勇者を複数人擁していたエンジェリア帝国にも強気で出れるくらいだぞ? お前が普段のほほんと関わってる国王陛下も、あんな感じだが普通にアタシより強いだろうしな」
「それに、現国王陛下は強大な力があってもその力を振るう事はほとんどないのよね。民衆からの人気も高くて、民想いの優しい王様、って言う人が多いと思うわ」
「常備軍を他の国より多く抱えてるが、それを維持できているのはダンジョンをたくさん抱えているからってのもあるだろうな。世界樹関係の騒動もあるし、他の国はドラゴニア相手にはあんまり強く出れねぇんじゃねぇか? 政治はアタシには分かんねぇから、確かな事は言えねぇけど」
「後はいろんな種族の人が共存してるわ~。中には亜人たちを良く思っていない貴族もいるみたいだけど、住む場所さえ選べば比較的住みやすいと思うわ」
「そうですね、奴隷である私たちの扱いも人間と同様でした」
エミリーがルウさんに同意すると、パンを口の中に詰め込んでいたノエルが何とも言えない顔になった。
何か言いたげな様子なのでしばらく待っていると、ノエルは口をもぐもぐと動かし、ゴックンと飲み込んでから口を開いた。
「非公認の奴隷商はそうでもないっすよ。人間以外の亜人の扱いは酷い所もあるっす。ボクはどっちでもないからそこに売られてたら余計にやばかったと思うっすよ」
「まあ、どこにでも例外はあるだろ」
「そっすね」
ノエルは言いたい事を言い終えたのか、また夕食を口の中に詰め込んでいく。
魔道具を作る奴隷として新しくボルドが入ったおかげで、多少時間にゆとりができたはずだけど、いつも早食いで嵐のように部屋から去っていく。今日ももうすぐ出て行くんだろう。
「……じゃあ、レヴィさんと婚約すれば、無理矢理結婚を迫られる可能性は減るかな?」
「減るんじゃねぇか? 国内の貴族たちはレヴィアが両親から甘やかされて育っている、て思ってるくらいだし、実際そうみたいだしな。余計な事して国王の怒りは買わんだろ」
「なるほど……」
「何か悩んでいるのかしら?」
「んー……一足飛びに結婚、ていうのがちょっと。もうちょっと段階を踏んでですね……。恋人から始めて、そこからだんだんと、って感じでぇ……」
「平民同士ならそれもありだろうけどな。付き合ってたやつらが次の日には別れてる、とか普通にあるし」
「そうね、とりあえず婚約をしておく、という所が妥当かしら? そうしたら婚約をしているから、とある程度突っぱねる事はできると思うわ。婚約だったら何かあったら破棄もできるし、まだいいんじゃないかしら」
「だな。アタシらが相手になってもいいんだが、後ろ盾がねぇからやっぱレヴィアが適任だろうよ。人との交流が少なかったからか知らねぇけど暴走する時があるが、そこら辺は手綱をしっかりと握っとけば大丈夫だろ」
「ラオさん頑張って!」
「アタシはお前一人で手一杯だわ」
……なんかすみません。
ラオさんが呆れながら僕を見てくる中で、モシャモシャとサラダを口の中に詰め込んだ。
食事が終わり、お風呂も一人でのんびりと入った後、食堂でレヴィさんの帰りを待つ。
その僕の近くでは、安眠カバー付きの枕を大事そうに持っているホムラがいた。
「マスター、そろそろお休みの時間です」
「もうちょっと」
「夜更かしはお体に悪いです、マスター」
「レヴィさんたちが帰ってくるまで」
「明日お話すればいいではないですか、マスター。お布団に行きましょう」
「ダメだってば。エミリー、紅茶と軽くつまめるお菓子ってない?」
「ございます。少々お待ちくださいませ」
壁際付近で控えていたエミリーが食堂から出て行った。
食堂に残ったのは僕とホムラだけだ。
ユキはノエルとボルドの作った魔道具の回収をしに行ったらしい。
「それよりホムラ、ボルドってどんな感じ? 部屋に行くといつもいないんだよね」
「…………おそらくマスターが訪れた時にはいつも室内にいるかと思います、マスター」
「そうなの?」
「はい、マスター。人の気配がすると物陰に隠れますので。そうですか、マスターがわざわざ足を運んだというのにあの奴隷は隠れているのですか。立場という物を分かっていないようですね。これは上役であるノエルともども指導するべきでしょうか」
「指導は、しなくていいんじゃないかなぁ」
人に会いたくない時って誰にでもあるだろうし、きっと出てきてって言えば出てきてくれるよきっと。
なんか巻き添えになりそうなノエルも含めてフォローをしていると、ホムラは少し考えこむように視線を下げて黙った。
「ノルマを増やすだけに留めます、マスター」
「……そっか」
ごめん、ノエル。自由時間がちょっと減るだろうけど頑張って。
心の中でノエルに謝りつつ、エミリーが持ってきてくれたクッキーを食べながらのんびりとレヴィさんの帰りを待ち続けた。
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