156.事なかれ主義者は嬉しいけど恥ずかしい

 翌日の朝ご飯の時にもレヴィさんとドーラさんはいなかった。

 食事が終わり、ラオさんとルウさんを連れてファマリーのお世話のために出かける。

 地下室の転移陣から転移をすると、相変わらず白い毛玉がファマリーの根元に存在していた。

 その毛玉を避けてファマリーの幹に触れて加護を使う。


「魔力すべて持っていくのはやめてください。【生育】」


 ……うん、なんとか残存魔力が四分の一くらいで止める事ができた。だんだんコツを掴んできたかもしれない。

 そんな事を考えていると、いきなりユグドラシル方面のテント周辺が騒がしくなった。


「なにごと?」

「さぁな。こっち見てたエルフ共が騒いでるみてぇだな」

「加護を使う所を見れて光栄だー、とかそんな感じじゃないかしら? ちょっとあっち側は危なそうだから近づかないようにしましょ? お姉ちゃん、あっちに行きたいわ」


 ルウさんがドランの方に建てた居住区を指差す。

 僕もアッチのエルフたちには近寄るつもりはないから、そちらへと足を向けるが、途中で日向ぼっこをしていたドライアドたちがわらわらと集まってきて進めなくなった。


「人間さん、人間さんが会いたいって言ってたよ。伝えるようにって言われたのー」

「私も聞いたー」

「誰が言ってたっけ?」

「人間さんだよ」

「髪が赤い人間さんだった」

「青い人間さんも言ってたよ」

「緑の人間さんもいたー」

「なんかいっぱいいたー」


 ダメだこれ、収拾がつかない。

 青いバラのドライアドを探すけど、ちっこいドライアドしかいなかった。ユグドラシルの方でのんびり日向ぼっこをしている最中らしい。

 相手の名前を聞いても分からない。特徴を聞いてもあやふや。いつ言われたのか聞いても曖昧だった。

 ドライアドにとっては『個』という概念が薄いらしく、色が違うくらいしかなかなか覚えていられないらしい。

 だからエルフやドワーフは区別ができないんだとか。

 ただ、加護を持っていると流石に普通とは違う、というのが分かるから僕は判別できるらしい。ただ、名前は未だに覚えてもらえないけど。

 とりあえずドライアドたちに一人ひとりお礼を言うと、ドライアドたちは再び日光浴をするために散り散りになった。


「どうすんだ?」

「どうするって言われても、誰かも分かんないしどこでいつ会うかも言われてないから、とりあえず保留かな。レヴィさん探しに行こ」

「とりあえずベラちゃんとこに顔出してみる? それかラックさんのとこかしら」

「んー、冒険者ギルドからかな。レヴィさん探しとは別件だけど、奴隷たちとより関わりがあるのはアッチだろうし、たくさん人がやってきて皆がトラブルに巻き込まれていないか聞きたい」

「わかったわ。それじゃ、ベラちゃんに会いに行きましょ!」




 居住区では人通りが以前の倍以上になっていて、露天商たちが元気に呼び込みをしていた。

 歩き辛くなるかな、と思っていたらどこからともなく現れたジュリウスさんが周囲を見ると、人が左右に割れて道ができた。


「シズト様、どちらに向かいますか?」

「冒険者ギルド」

「かしこまりました」

「……ジュリウスさん、なんだか機嫌がいい?」

「分かりますか、流石はシズト様です。ユグドラシルから連れてきたエルフ共に現実を知らしめる事ができたので、少し浮かれてしまっていたようです。申し訳ございません。気を引き締めて護衛をさせていただきます」

「いや、別に謝られるような事はされてないんだけどね? 珍しいなぁ、って思っただけ」


 ジュリウスさんとお喋りをしながら歩いていると、冒険者ギルドにあっという間についた。

 ジュリウスさんの後に続いてギルドに入ると、中にいた人たちがサッと視線を逸らすところだった。

 ジュリウスさんが威圧したんだろう、きっと。睨まれると怖いもんね、分かる。戦闘訓練の時に慣れるためにと言われてやられたけどちょっとちびったのは内緒だ。

 イザベラさんの所で話を聞こうと思ったんだけど、肝心のイザベラさんがいなかった。


「あれ、この時間って受付してたよね?」

「基本的には受付で座って過ごしてる事が多いけど、いつもそうという訳じゃねぇな。そもそも、ギルドマスターが受付をする事だって普通はねぇよ」


 まあ、そうだよね。どうしてもイザベラさんを見ていると忘れがちになるけど、ギルドマスターって偉い人だしね。

 お昼に近い時間帯だから冒険者の数は少ないと思ったんだけど、いつもよりもたくさんいる。ここら辺も昨日の影響だろうか?


「おい、ボケッとしてないでアタシらから離れるなよ。余所者がたくさんいるから、お前の事も知らねぇ奴もいるだろうし、絡まれるぞ」

「そうね、ちょっと気を引き締めましょうか」

「やっぱり昨日の闘技大会目的で来た人が多いのかな?」

「それもあるだろうな。あとはここにやってきた商人たちの護衛として一時的にやってきたやつらもいるだろうな。ほら、依頼ボードの所に集まって話し合ってる奴らが何組かいるだろ? 拠点までどうやって戻るか話し合ってんだろうな」

「あっちでお酒を飲んでいる人たちは?」

「アレはここでしばらく過ごそうって思ってる奴らだろうな。アンデッドとはいえ、魔物に困る事はねぇし、ある程度実力があれば不毛の大地でやってく事はできるだろ。今は貸し出し用の魔道具が大量にギルドにあるしな」


 なるほどなー。

 あ、ラオさんの解説を聞いている間にジュリウスさんが用件を伝えてた。

 どうやらイザベラさんは三階のギルドマスター室にいるらしい。

 また出直そうかな、と思っていたら普通に通された。

 カウンターの内側を進み、奥にある階段を上って三階までそのままスイスイ進む。

 ギルドマスター室の大きな扉をノックしようと、扉の前に立つと、突然ルウさんが僕の体を引っ張ってギュッと抱きしめられた。

 それのすぐ後に、内側から扉を破壊して人が飛び出てきた。いや、飛ばされて出てきた、という感じか。


「相変わらずだな、ボビー」

「今度はなんて言ってベラちゃんを怒らせちゃったの?」


 飛ばされて出てきた人物は昨日実況をしていたボビーさんだった。

 ラオさんとルウさんは知り合いの様で、呆れた様子で彼を見ている。

 ……どうでもいいけど、ルウさんルウさん。離してください。お胸がですね? 後頭部にですね?

 ペチペチと腕をタップしたけど、ラオさんが気づいて僕からルウさんをベリッと剥がすまでずっとそのままだった。

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