146.事なかれ主義者は試作してみた
アダマンタイト製の大剣が僕の目の前にある。
僕の背丈と同じくらいの大きさのそれは、煌びやかに輝いていて、太陽の光を反射している。
加工の加護を使うだけなので、何も危険はないはずだ。ただ、念には念を入れて外で作業をする事になった。
「ねぇ、ラオラオ。あーし、やっぱり要らない気がするんだけど~?」
「万が一の時のためだ。打ち合わせした通り、シズトを連れて安全な場所に転移しろよ?」
「べっつにラオラオに言われなくても、お兄ちゃんが危なかったらそうするしー」
寝ているところを起こしちゃったからか、先程からご機嫌斜めなクーが、僕と繋いでいる手をブンブンと動かす。
ラオさんはそんなクーを気にした様子もなく、アイテムバッグからアダマンタイト製の武具を引っ張り出していた。
色々考えたけど結局、ラオさんたちが見てる所で実験する事にした。
魔道具を使って筋力をカバーすれば出し入れにも危険はないだろうし、加護を使うのに魔力切れ以外で危ない事はないって感じていたので、本当に危ない事はないと思うんだけど、ラオさんが言うように万が一があるかもしれないし。
「ラオちゃん、私も手伝った方が良いかしら?」
「別に必要ねーよ。ルウはもしもの時のために今は何もすんな」
ルウさんは、僕以外に何か危険が迫ったら対処する役目らしい。
クーが僕の安全確保だけで手一杯だから、とか言ってたからそういう事になった。本心は面倒だからやりたくない、とかだろうけど。
手伝いを断られてしまったルウさんは、暇そうにつま先で地面に何か描いている。
レヴィさんは僕の隣で黙って立っている。何となく気まずい。
そう思っていると、レヴィさんの近くで控えていたセシリアさんがふと思い出したかのように声をあげた。
「そう言えば、ファマリアの視察はいつ行きますか?」
「視察?」
「はい。住民たちもある程度生活に慣れてきた様子ですし、以前どんな人が引っ越してくるのか気にされている様子が見受けられましたので。視察のついでに、神様たちの布教もしてはいかがでしょうか?」
「それは名案なのですわ! ファマリアの様子は私も気になってましたし、ファマリーへの祈りを終えた後にでも一緒に行くのですわ!」
「先に伝えておきます」
セシリアさんが屋敷へと戻っていく。
……先に伝えておくって、護衛とか諸々の相談とかあるんかな?
ファマリアに行くなら、ついでにラックさんに差し入れでもしよう。アイテムバッグの中にお腹に効くポーションがあればいいんだけど……なかったらやっぱりエリクサー?
「なんかまたどうでもいい事企ててそうな感じだけど大丈夫なのか、アレ?」
「今は分からないのですけれど、きっと大した事じゃない気がするのですわ」
ラオさん何気に失礼だよね、とそちらを見るとラオさんは肩をすくめた。
レヴィさんは、僕を止めた時に持っていた読心の魔道具を持っていなかった。嵌めていなかった指輪を今は嵌めていて、それをゆっくりとなぞるように触っている。
準備ができたみたいなので、アダマンタイトにも加護が使えるのか試す事にする。
僕がアダマンタイト製の武具に近づくと、クーが僕の手のひらをギュッと握ってきた。
僕を見守る皆も少し緊張した面持ちだ。
ただ、そこまで心配する事はないと思う。
加工の加護を与えられた時の説明では『金属や木材を自由に加工できる』と言っていた。
安く手に入るから鉄ばかり使ってるけど、銅やミスリルでも使えたし、きっとアダマンタイトだろうとその他の不思議金属だろうと問題ないだろう。……たぶん。
「……じゃあ、やるよ? 【加工】」
大剣に触れて魔力をいつも通り流してみるが、なかなか変化が訪れない。金属ごとによって必要な魔力量が異なるが、アダマンタイトはだいぶ魔力が必要なようだ。レヴィさんが懸念していた通り、魔力切れで倒れる事はあるかもしれないけど、そうなる前に止めれば問題ない。
そう思って魔力を流し続けていると、変化は突然訪れた。
「お?」
「まあ、こうなるよな」
「驚きはないのですわ」
「ん、想定通り」
「シズトくんすごいわ!」
「すごいのは僕じゃなくて加護だよ」
大剣から長い棒状の物へと形を変えてみたり、大きなサイコロにしてみたりと自由自在だ。
ある程度動かして鉄やミスリルと同じように扱える事を確認し終わると、コップや食器を作って余ったアダマンタイトはインゴットにした。
「……まあ、そういうの作るよな、お前は」
「シズトらしいですわ」
「実用的」
「さ、……錆びたりしないらしいから、いいと思うわ!」
え、あんまりウケが良くない?
来客用の食器がないから、あった方がいいって前に誰か言ってなかったっけ?
あ、装飾が殆どないから?
何か高そうな感じにした方が良い?
高級そうな食器って見た事がないからあんまりイメージ湧かないんだけど、蔦の装飾でも入れてみるか。
「ちげぇ、そこじゃねぇ」
「ちょっとまだ途中なんだけど!」
ラオさんにしまわれてしまって、結局一セット分しか装飾できなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます