139.事なかれ主義者は何か貰うらしい
作った魔剣のテストをしてから一週間が経った。
未だにドフリックさんの持ってきた剣に付与をしていないのに、ミスリルの武器が増えていく。ドフリックさんが毎日やってきては置いていくから。
最初の剣の次は槍。その次は大槌。背丈以上の大剣に、ちょっと短い一対の剣。
武器以外にも盾とかガントレット……魔剣を作る予定だったはずなのに、魔道具を作る感じになってたのと、ちょっと持って来過ぎなので止めた。
「なかなか作らんから、ワシの作った武器が気に入らんのかと思ったんじゃ。リヴァイからシズトが争いを好まないと聞いてな。それなら防具なら、と思ったんじゃが」
「どんな魔剣を作るか悩んでただけですー」
作るって言ったからにはちゃんと作るけど、やらかさないように周りの反応を見て精査してる所なんですー!
ホムラが参考用に、とダンジョン産の魔剣を買ってきたからそれも含めて検証中。
だから今は一休みして、世界樹の世話をメインでやりつつ、空いた時間でどんな魔剣……というか魔武器と魔防具を作るか考え中だ。
世界樹ユグドラシルのお世話をするために転移してユグドラシルの根元に着くと、ドライアドたちがのんびりと日向ぼっこしていた。
「あ、人間さん来たー」
「来たー」
そういうと、トコトコとどこかに駆けて行ってしまう。
楽し気な様子だから機嫌を損ねてしまったわけではなさそうだけど……なんだろう?
何か気になるけど、ドライアドたちは皆どこかに行ってしまったので、とりあえず世界樹のお世話をする事にした。
ユグドラシルを見上げると、葉っぱがだいぶ生えてきて、見ただけでも元気になってきてるのが分かる。
ウッドデッキに上がって、胡坐をかいて座ると、いつも通り目を瞑って祈る。
「【生育】」
こっちの世界樹は魔力を勝手に持っていかないので、自分の都合で生育を使うのを止める事ができる。今日は魔剣を一本作るかもしれないので、いつもよりも魔力を多めに残してやめる。
目を開けると、世界樹を包んでいた光が消える間際だった。
見上げると、先程よりも葉っぱが増えて、一枚一枚大きくなっているような気もするけど、気のせいかも。
用事は済んだし、さっさと帰ろう、と振り返るとお面を付けた人が二人、僕に向かって跪いていた。ドライアドたちが僕の足元にわらわらと集まってきて「呼んできたよー」と口々に言ってくるけど、呼んでないっすよ!?
「えーっと……ドライアドたちがなんか連れてきてごめんなさい。僕は特に呼んでない、です」
「いえ、お話をするべき事が我々の方にあり、ドライアドたちにシズト様がいらしたら知らせるように伝えておいたのです」
話をする間もずっと顔を伏せている二人。
え、もしかしてこのままずっとその体勢で話すの?
「ちょっと跪かれていると居心地悪いから、ほら立って!」
「シズト様がそうおっしゃるのであれば」
立ち上がった二人は、どちらも癖のない金色の髪に木で作られたお面を付けていた。顔をすっぽりと覆うそのお面の穴が開いている部分から、二人の緑色の瞳が見える。耳が長く尖っている事や、場所的にエルフだろう。
エルフはみんな金色の髪に緑色の目なんだろうか、なんてどうでもいい事が頭をよぎる。
ほとんど使った事がない小屋で話そうか、それともここで立ち話でいいのか悩んでいると、背が高い方のエルフが口を開いた。
「この禁足地の番人のジュリウスです。ご挨拶が遅れてしまい申し訳ございません」
「いえ……番人って事は、前の変なのから逃げる時に助けてくれた人ですか?」
「確かに、あの中におりましたが」
「あの時は助けていただきありがとうございます。もしかして隣の小さい人は、あの時引っ張ってくれたエルフさん?」
「我々は職務を全うしただけです。こちらはジュリーニです」
「あの時は使徒様のお手に触れてしまい、申し訳ありませんでした」
「……え? 謝られるような事されてないよ? むしろあの時引っ張ってくれてありがと。助かったよ」
初めて会った人に触れるのは良くないとか、そういう文化でもあるのかな。
エルフと初めて会う時は握手をしないようにしとくか。
「それで、話したい事ってなに?」
「シズト様への詫びの品の準備が整いましたので、ご報告をと思いまして」
「詫びの品……ああ、そういうのもあったね」
ドフリックさんと魔剣の事でちょっと忘れてた。
身の潔白を証明してくれるだけでもいいんだけど。
そんな事を思うが、読心の魔道具を持っているわけがないので、僕の思いが彼らに伝わる事はない。
「いずれ、すべてシズト様の物になるので、周辺諸国に向けたパフォーマンスの意味合いが強いですが、宝物庫にあった物です。売るだけでもそれ相応の価格になるかと思いますので、必要なかったら売ってしまっても構いません。一週間後には届くかと思います」
転移陣を使って運べばいいのに、と思ったけどジュリウスさんが言うように、周りの人にちゃんとお詫びの品を送ってますよ、って見せる事も大事なんだろう。
伝える事は伝えたから、と森の中に消えていった二人を見送ってからふと思う。
……すべて、ってどういう意味?
「知らなーい」
まあ、君たちも知らないよね。次会った時に覚えてたら聞いてみよう。
僕も帰って魔剣でも作ろう。ドライアドたちに別れを告げてその場を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます