幕間の物語60.勇者たちは訪問する
ドラゴニア王国の南に位置するダンジョン都市ドランに、勇者たちがやってきた。
その噂はドラン中にすぐに広まり、勇者たちは歓迎を受ける事もなく、白い目で見られながらドラン公爵に挨拶をするために予定よりも早く彼が住む館を訪問した。
応接間に通された彼らは、長い間そこで待たされている。
苛立ちを隠そうともしない金色の髪の少年が、眉間に皺を寄せながら扉を睨みつけている。
「陽太。扉を睨んでも意味ないのでやめたらどうですか?」
「ア゛ァ゛?」
「待たされるのは想定内でしょう。一週間かけてくる道のりを、魔法で短縮したんですから」
陽太と呼ばれた少年を諫めるのは、中性的な顔立ちの少年だ。声が高く、見た目と声だけで女と思われたことが何回もある黒髪の少年は、隣に座ってイライラしている連れの態度に辟易としていた。
そんな彼に、陽太の向こう側に足を組んで座っていた少女が、爪の手入れをしながら文句を言う。
「言っとけばよかったんじゃね? 明の魔法で途中まで行くの決まってたし、こんな待たされなかったもしれないじゃん。姫花、早く帰って買い物の続きしたいんですけどー」
「事前に説明したと思いますけど、情報収集するために早く来たんですよ」
「まったくできなかったじゃねぇか」
「まさかここまで僕たちの評判が悪いとは思わなかったんですよ。間違っても問題起こさないでくださいね、二人とも。ほら、いつ入ってきても問題ないように、大人しく座っててください」
「わぁってるよ」
「うっさいなぁ」
陽太は大きくため息をついた後、深く息を吸い込み、また吐き出した。
姫花と呼ばれた少女は、手入れのために使っていた道具を鞄にしまう。
陽太たちが訪問して半日ほどが過ぎ、やっと部屋に男たちが入ってきた。
二人が入ってきた事に疑問を感じつつも、明は立ち上がって出迎えた。姫花と陽太も、明と同じような動作をして相手に敬意を表している。
ドカッと、三人の正面に座ったのは短く刈り上げた金髪が特徴的な中年の男性だ。眠たそうな目で三人を値踏みするかのようにじろじろと見る。
その隣に、同じように座ったのは金色の髪が肩のあたりまで伸ばされて、毛先が外側に巻かれている男だった。彼は三人の事など気にした素振りもなく、魔道具で紅茶を淹れ始める。
陽太たちは二人が座ったのを見て、椅子に腰かけた。
正面に座っている男性二人が、それにピクリと眉を動かして同時に反応したが、特に何も言わない。
最初に口を開いたのは、じろじろと三人を値踏みしていた男だった。
「エンジェリア帝国の特使殿、ずいぶん待たせたな。俺はラグナ・フォン・ドランだ。予定ではもっとかかるはずだったが、転移の魔法でも使ったか?」
「ファマリーの駐屯兵から報告が来ているから間違いないだろう。国境を越える魔法の使用は事前に承諾を得るのが常識だが、そちらの世界でも国境を勝手に越えてはいけないというルールぐらいなかったのか?」
「……申し訳ありません」
「良い。次からは気をつけよ。勇者殿は無知であるらしいからな。ある程度の粗相は見逃す事が暗黙の了解だ。ただ、お前たちを教育している国に文句は言うがな。余はリヴァイ・フォン・ドラゴニア。この国の王だ」
眉間に皺が寄りそうになるのを堪えつつ、明が頭を下げる。
ただ、隣に座っている陽太は明らかに不快感を顔に出してしまっていた。
それについて触れる事もなく、ドラン公爵が口を開く。
「それで、特使殿たちは俺たちの友であるシズトに会いに来たとか」
「はい、その通りです」
「そうか。それは、不安だな。……友である余の同席を、シズトに断られてしまったのは仕方ない。それが友の望みであるのだから。ただ、それでも心配なのだ。余の友が、傷ついてしまわないかとな」
ドラゴニア国王の目の色が、いつの間にか青から金色へと変色している。黒目も爬虫類の様に細長くなっていた。濃密な魔力が彼の体から発せられ、部屋全体を覆った。
「国王陛下、お戯れはそこまでにして頂けませんか? 勇者殿たちの顔が青くなってしまっていますから。彼らもきっと、陛下のご質問には正直に答えてくれるでしょう」
「……そうだな。余は気が短い。手短に特使殿たちの目的を話してもらおう」
話し合いが終わる頃には、日が暮れてしまっていた。
宿を取っていない彼らだったが、ドラン公爵の計らいでドランでも屈指の高級宿に泊まる事になった。
だが、明の顔色は優れない。
「辛気臭い顔してんじゃねぇよ、こっちまで気が滅入るだろうが」
「そんなにこの国の王様すごかったの?」
「ええ、少なくとも今の僕たちじゃ殺されちゃいますね。敵対するべきじゃないです」
「ふーん。まあ、いーや。静人の対応は明がやるって話だったし、姫花には関係ないし? ってか、静人と会う日まで自由時間でいい? 魔道具のオーダーメイドの進捗確認したいし、買い物もしたいし?」
「いいんじゃね? 俺は部屋でのんびりしてるわ。ここにいると気分が落ち込んじまうしな」
「勝手にしてください」
明に用意された個室から二人が出て行くと、魔法で鍵をかける明。
彼は大きなベッドに倒れ込み、ため息をつく。
「まったく、どうしてこんな面倒な事になったんでしょうね」
自分は言われたとおりに行動していただけなのに。
いや、魔法を過信して言われた事を疑いもせずに行動してしまったからか、と自虐的に笑う。
こんなに気分が落ち込んでいる時は何をしてもダメだ、と明は眼鏡を外し、魔法で着替えて早めに就寝した。
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