126.事なかれ主義者には話したい事がない
陽太たちが「会いたい」と伝えてきてから一週間が経った。
転移陣を使った日帰りお祈りツアーも慣れてきて、同じような日々が一週間続いている。
午前中に転移陣を使ったお祈りツアーを済ませて、午後はレヴィさんと一緒に菜園の手入れをする。
基本的にドライアドたちはファマリーの方の管理をお願いしているので、屋敷の家庭菜園は自分たちでやっている。
「やっぱりたい肥がある方が収穫量に差が出るようですわ」
「魔道具で作った水も影響があるように感じます」
「水もちょっと違うのかな?」
レヴィさんとセシリアさんの会話を聞きながら、魔法陣を刻んだじょうろで水やりをする。
このじょうろから出る水は、植物にとって栄養価が高いとか?
こういう感じの水を作りたい、って思えば作れる感じなのかな。
それなら久しぶりに炭酸水飲みたいんだけど……うん、閃いた。今日の夜は炭酸水が作れる魔道具を作ろう。
どうせなら企業が作ってるような炭酸ジュースとか作りたいんだけど……ダメですね。
ここら辺の差って何なんだろう?
暇な時に検証していくか。
「シズト、そろそろ屋敷に戻って明日の事を決めるのですわ」
「そうだね」
「片づけはお任せください」
「うん、よろしくね、ジュリーン」
ペコリ、と頭を下げるジュリーンに見送られて、レヴィさんたちと屋敷に戻る。
結局、陽太たちと会って話をする事にした。ただ、神聖エンジェリア帝国には行かない。何が待っているか分からないし。
神様が実際にいるこの世界で、神様の悪名が広がるような事をする国は少ないらしい。ただ、神様に関係ない悪い事をする国は普通にあるらしいし、気を付けないと。
「ノエルー、入るよー? って、まだ起きてたの?」
「当たり前じゃないっすか。寝てる暇なんてないっすよ。明日からはまたホムラ様かユキ様の寝かしつけなんすよ?」
「そんな無理するから寝かしつけさせてるんだよ」
「ご主人様がお望みなら、今からでも寝かしつけようかしら?」
「いや、一週間の約束だから今日は好きにさせておいてあげて?」
「わかったわ、ご主人様」
一階のノエルの部屋には、隈が酷いノエルがいた。
お風呂にもずっと入っていないのか、金色の髪はぼさぼさで手入れされた様子もない。服もずっと同じ服を着ているようだ。
彼女がこんな様子になってしまったのは僕のせいだろう。
アンジェラだけに何かご褒美あげると不公平だからと皆にも欲しい物を聞いてお金で買える物をあげていったんだけど、ノエルは「物よりも自由が欲しいっす!!」と床の上で駄々をこねた。それはもう、見事な駄々っ子だった。
その結果、彼女は一週間の自由を得たわけだが、寝食を忘れて一週間ずっと魔道具の解析をしている。
奴隷になる前はこのくらい普通にしていた、という事だったけど正直心配になるから、やっぱり彼女は管理した方が良いのかもしれない。
「明日使う魔道具はもういい?」
「あー、大丈夫っすよ。アイテムバッグにしまってあるっす。廉価版を作れるかもしれないから、他の人にはあげないでほしいっす」
「はいはい」
ノエルの様子も確認できたし、自分の部屋に戻るか。
と思ったけど、ノエルにもう一つ確認する事があった事を思い出す。
「ねぇ、ノエル」
「なんすか?」
「ノエルは勇者に会いたい?」
「勇者様っすか? 別に興味ないっすね。興味が出ても身近にいるっすし」
魔道具を解析していたのに、ノエルがチラッと僕の方に視線を向けた。けど、やっぱり時間が惜しいのかすぐに視線を元に戻してしまったけれど。
絵本や吟遊詩人の話を聞いて勇者に憧れる人が多いって聞いたから、希望があれば会わせてあげようと思ったんだけど、まあいいか。
自室に戻るとセシリアさんが紅茶を淹れてくれた。
レヴィさんと向かい合わせになるように用意されたその席に座って一息つく。
今日もレヴィさんは作業着の長袖長ズボンを身に付けていたけれど、相変わらずの見事な金色のツインドリルと端正な顔立ちだった。これって化粧してるのかな。
そんなどうでもいい事を考えていると、レヴィさんが僕の視線に気づいて微笑んだ。
「それで、明日の話し合いの道連れを増やせなかったシズトはどうするのですわ?」
「別に道連れを増やそうと思ったわけじゃないよ」
「本当ですわ?」
「……他の人がいたらあいつらの言いなりにならないかな、とか思ったよ。ちょっとだけね」
そう簡単に人は変わらない。
異世界転生をしても争いは嫌いだし、血は無理だ。
今までがそうだったように、これからもあいつらに良いように利用されるかもしれない。
そうならないために、少しでも周りに味方を引き連れて話し合いの場に挑もうと思ったけど、ノエルは興味がないみたいだった。
まあ、そもそも奴隷を同席させる事ができるのかは不明なんだけど。
「それにしても、明日の話し合いはこの屋敷でするって話だったと思うのですけれど、本当に良かったのですわ? シズトの拠点がばれてしまうのですわ」
「別にいいよ。どうせドランで聞き込みされたらバレるし。それに、冒険者ギルドだろうが、ドラン公爵の屋敷だろうが、勝手に魔道具を設置しまくるのはまずいでしょう?」
「公爵は頼めば快諾してくれそうですわ」
「僕もそう思うけど、快諾されても困るんだけどね。僕が危険な魔道具設置したらどうするんだろうね、ほんと」
レヴィさんと一緒に苦笑を浮かべて、紅茶を一口飲む。
話し合いたいならお前たちが来い、と返事をしたらとんとん拍子で話が進んでしまい、ドランで話し合う事になったのが数日前。
そこから場所を考えようと提案したけど、ラオさんとルウさんはこの屋敷でいいと考えていたようだ。
どこにどんな防衛用の魔道具があるのかを熟知しているから守りやすいんだとか。
ただ、それだけだと不安だったので、追加で加護を使えなくなる魔道具を作ったり、読心の魔道具を作ったりした。心を読む魔道具はレヴィさんが使うと主張したため、彼女に預けてある。悪用されないように回収する予定だけど、最近お世話になってるし、あげちゃってもいいかも?
「公爵はシズトを信頼しているのですわ。もちろん、私も」
「信頼され過ぎるのも困るなぁ」
「そんな事より、明日の事ですわ! 本当に私たちがずっと同席してもいいのですわ? 私たちに聞かれたくない内容を同郷の人と話すなら、席を外すのですわ」
「別に話す事はないからいいよ」
「そうならいいのですわ。それじゃ、明日の話の想定の最終チェックをするのですわ!」
一瞬、レヴィさんが心配そうな表情をしたけれど、すぐににっこりと笑って明日について確認していく。
心配され過ぎてるけど、別に本当に話す事ないんだけどなぁ。
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