120.事なかれ主義者は一人でお風呂に入った
クーをリビングのソファー寝かせておいて、外に出る。
「ガンガン耕すのですわー!」
「耕すのですわー」
「ですわですわ~」
レヴィさんが魔動耕耘機を使って耕している。
いつも通りの長袖長ズボンで、元気よく走り回っていた。
その後ろをドライアドたちが楽しそうに追いかけている。
普段はセシリアさんが後を追いかけてたけど、今は魔動耕耘機で耕された場所に植える予定の物を整理しているようだ。
「ラオさんたちは?」
「こちらにはフェンリルがいますから、離れても大丈夫だろうと判断して、体を動かしに行ってます。ドーラ様は駐屯兵の所に行って情報共有等をしに行ってます。ホムラ様は魔道具の点検と共に、駐屯兵たちに対して商売をしに行きました。シズト様はどうしますか?」
「とりあえずファマリーに加護を使って……その後は暇になると思うし、種まき手伝うよ」
「ありがとうございます。お待ちしてますね」
まあ、僕が加護を使った後も無事だったらだけど。
世界樹の根元に歩いて行くと、大きな白い毛玉が動いた。
大きな口がこっちに向けられるとやっぱり怖い。
でも、向こうでのトラブルの際に助けに駆けつけてくれたんだし、危害を加えようとは思ってないのはちょっと分かってきた。ただ考え方が違いすぎるから、こっちに合わせてもらわなきゃだけど。
「もし僕が魔力切れで倒れた時はセシリアさん呼んでね。あ、念話でだよ?」
『分かっておる』
いきなり吠えられたらびっくりするからね。
フェンリルに釘を刺し、世界樹ファマリーを見上げる。
またちょっと大きくなったかも?
まあ、まだまだユグドラシルよりもちっちゃいけどね。
「魔力全部は持ってかないでください。『生育』」
どっと魔力が持ってかれる。
ユグドラシルの時はこんな事はなかった。こっちが渡したいだけすんなり受け取ってくれるような感じ。
でも、ファマリーはまだ大きくなってる途中だからなのか、あればあるだけよこせ! って感じでガンガン吸い取ってしまう。
魔力に余裕がある間に加護の使用をやめて目を開くと、変わらず世界樹が目の前に聳え立っていた。
「これでよし、と」
さてと、レヴィさんがどんどん土を柔らかくしてっちゃうから、頑張って種植えていくか。
「育てるの得意だから任せて~」
「まかせて~」
種をまく魔道具を作って楽しようかな、と考えていたら、レヴィさんを追いかけていたはずのドライアドたちがやってしまった。
さて、夕方までやる事がなくなってしまったけど、どうしようか。
そう言えば、男湯作ってもらったんだっけ。確認するついでに一人でお風呂入ろっかな。
他の人がいる時は結局一緒に入る事になって男湯に入ってなかったし。
そうと決まれば急いで支度をする。
皆が帰ってくる前に終わらなければ!
住居に戻ると、一階に作ってもらった男湯に直行する。
浴室は一人分だったら十分の広さだ。
蛇口や浴槽は既に細工をしていて、魔道具化してある。
浴槽は空っぽだったので、栓をして魔石を所定の位置に置く。
浴槽の底に刻まれていた魔法陣が淡く光ると、そこからどんどんとお湯が溢れてくる。
脱衣所に戻り、服を脱いで浴室に戻ると既にお湯が溜まっていた。
久しぶりに自分で髪を洗い、体もさっさと洗ってお湯に浸かる。
「はー……いい感じ。入浴魔石入れるべきだったかな? ……ま、いっか」
最近ずっと、皆でお風呂に入ってたからかな。
静かな浴室はなんだか落ち着かなかった。
お風呂から上がって脱衣所でのんびりと過ごす。
埃吸い吸い箱を応用して、冷風が出るようにした冷風箱のおかげで脱衣所は涼しかった。
火照った体を冷まし、脱衣所から出てリビングに戻るとクーがソファーに寝転がりながらこっちを見ていた。
「起きたの?」
「あーしはずっと起きてるよ、お兄ちゃん」
クーのすぐ近くに座って彼女の頭を撫でると、猫のように目を細めて少しの間されるがままだったけど、ずりずりと移動して僕の太ももに頭を乗せると再び目を瞑った。
「寝てんじゃん」
まあ、いいかとサラサラの髪を弄ったり、柔らかい頬をぷにぷにしたりしたりして遊びながら、のんびりと皆の帰りを待つ。
全員戻ってくる頃にはもう日が暮れていた。
一番最後に戻ってきたドーラさんが、晩御飯を食べながら口を開く。
「周りに住みたいって人がいる。どうする?」
「どうするって……聖域の中は止めた方がいいと思うよ?」
レヴィさんとセシリアさんが殆ど畑にしちゃったみたいだし。
ドライアドたちが一生懸命種をまいて、明日からお世話をするそうだ。
「分かってる。住むのは外側」
「それこそ止めておいた方がいいと思うけどなぁ」
いつどこからにょきっとゾンビの手が生えるか分からないし。
っていうか、仮に住むとしてもなんでわざわざ僕に言うんだろ?
「不毛の大地はシズトの土地」
「ああ~、なんかそういう話になってたっけ」
「そうなのですわ。まあ、国の直轄地ではありますけれど、不毛の大地一帯の土地はシズトに与えられた場所なのですわ。だから、ここに何か建物を建てるってなったら、シズトから土地を借りるか買い取る必要があるのですわ」
「ゾンビはどうするの?」
「聖域の魔道具を使って対応する。聖域を破るほどのアンデッドは今の所出てない」
「どのくらいお金を取るかは要相談なのですわ。ただ、遅かれ早かれ世界樹周辺は都市化する予定だったはずですし、お父様に言えば国主体で移住者を募る事になると思うのですわ。あくまでシズトは一人の住人として過ごす事になるかもしれないですけれど、望めば領主にだってなれるのですわ!」
「うーん……移住については別に好きにしていいよ。世界樹を育てられたら正直何でもいいし。周りに誰かが住んでくれた方が、神様を広めやすいだろうし。領主はいろいろ面倒な事あるだろうから、いいかな」
どうしても誰かがならなきゃいけないなら、ホムンクルスでも作ってやらせよっと。
食事を終えて、さっさと寝ようと思ったらレヴィさんに肩を掴まれた。
「まだお風呂に入ってないのですわ?」
「え? ……あー、お昼に入ったから今日はいいや」
「今日は私の番なのですわ」
「そうだけど、もう入っちゃったし」
「私の……番……」
……しょんぼりとして顔を伏せるレヴィさんには勝てなかったよ。
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