115.事なかれ主義者の膝枕

 世界樹ユグドラシルに加護を使った後、トラブルはあったけど無事にみんな帰ってきた。

 怪我もなく、呪われている様子もない。

 エルフは大丈夫かな? と思った時には、ラオさんたちと一緒に森から出てきたエルフたちは、いなくなっていた。


「大丈夫よ、あの人たちも特に呪われている様子はなかったわ」

「一度呪われてる奴を間近で見て世話までしてたから、呪われてたら分かる。それに、ここならエリクサーの予備くらいあるだろうさ」

「そうですわね。今はまだ、たくさん素材があると思うのですわ。それよりもシズトの休む場所を確保するのですわ!」

「事前に手配をしております。馬車で移動しますので、シズト様とレヴィア様はお乗りください」


 セシリアさんに促されるままに馬車に乗って移動する。

 だいぶ都市の端っこの方に来た。


「ユグドラシルの観光客目当てで、街の端の方に宿泊所が多いのですわ。内側に行けば行くほど、この都市で暮らしているエルフたちの居住区になっていくのですわ」

「なるほど。生育を使ってみた感じ、だいぶ繰り返ししないと元通りにはならなさそうなんだよね。その間ずっとこっちで暮らす事になるだろうし、お風呂がある所だといいな」

「シズト様が異世界転移者である事は向こう側も知っているので、そこら辺は抜かりないかと。何でも、過去の勇者様の希望を聞いて建てた宿泊所だそうです」


 ああ、異世界転移者の風呂好きは有名らしいもんね。

 セシリアさんを交えながら三人で話をしていると、無事着いたらしい。

 外から扉が開けられて、レヴィさんの後に降りると二階建ての木造建築の建物が目の前に建っていた。

 周囲をぐるりと囲む木製の塀。塀も二階建ての建物も、どちらも屋根は黒っぽい瓦だった。

 玄関から中に入ると、エルフが跪いて頭を下げていた。


「お待ちしておりました。当館の女将をしてます、ジュリエットです。お連れ様は既に到着してお部屋でお待ちです」


 流石に着物は着てないか。

 そんな事を思いつつ、ジュリエットさんの後をついていく。


「やっぱりシズトは慣れてるのですわね。他所で靴を脱いで廊下を歩くのは経験ないのですわ」

「まあ、僕が育った場所は靴を脱ぐのが当たり前だったからね」


 そうして連れて来られたのは『世界樹の間』と名前が付けられた部屋だった。

 扉を開けてもらって中に入ると、畳が広がっていてびっくりした。

 無駄に広いその部屋の隅の方で、ホムラが新しい魔法生物のお世話をしていたようだ。

 ただ、僕に気が付くとそのお世話を止めて、僕の所に来た。


「お風呂になさいますか、マスター?」

「まだ部屋に来たばっかだから」


 ちょっと久しぶりの畳に寝転がりたい気分なんです。

 ……畳とか諸々作った過去の異世界転移者たちも、懐かしくてこういうの作ったんかなぁ。

 ただ、知識が曖昧だから所々変なんだろうけど。


「新しい子は? 大丈夫なの?」

「寝ております、マスター。魔法を使った事による魔力切れとかではなく、ただこういう性格のようです」


 なるほど。この子を作る時になんかそういう事考えてたのかな。だいぶ前の事だから記憶が曖昧だけど。

 邪神の信奉者との戦いについては、また後で時間がある時に聞く予定。

 何かサクッと終わったらしいからそんな話す事はない、とラオさんは謙遜してたけど。

 敷布団の上で行儀よく仰向けで眠っている新しい子の近くに座ると、起こしてしまったようで目を開いた。

 外の夕焼けの空に負けないくらい綺麗な橙色の目が、僕を捉えた。


「お兄ちゃん、なんか用? 寝てたいんだけどー」

「あ、ごめん。とりあえず名前つけようかな、って思ったんだけど」

「何でもいいよ、名前なんて。めんどーくさい」


 と、言いつつも真っすぐ僕を見る魔法生物。

 ……この子、女の子だよね? あれ、男の子?


「女です、マスター」

「よくよく考えたら、魔法生物女ばっかだな」


 何ですか、ラオさんその顔は。

 僕だって男の子なんだから、むさくるしいホムンクルスよりもかわいいホムンクルスに癒されたいんすよ。


「男の子だもの、仕方ないわよねー」

「ちょ! ルウさん、いきなり抱き着かないで!」

「いきなりじゃなければいいの?」

「良くない!」


 色々当たってやばいんです!


「お兄ちゃん、早くしてー。起きてるのめんどー」

「もう! ラオさんとルウさん向こう行ってて! ……ごめん、今から考える」


 何がいいかなぁ。

 んー……空のように青い髪に橙色の瞳か。

 あと、空間魔法を使うんだっけこの子。


「じゃあ、クーで」

「おっけー。そうだ、お兄ちゃん。あーし、けっこ―働いたと思うんだよねー。ホムホムーたちが手出しできなかった相手を倒したんだ」

「へー、そうなんだ。そこら辺詳しく聞いてなかったけど、やっぱり結構強かったの?」

「相性の問題だよ、お兄ちゃん。ホムホムーと相手の相性が悪くなかったら、めんどーだしあーしは見てるだけのつもりだったし。まあ、そういう訳で、めんどーだったけどあーし頑張ったから、ご褒美頂戴」

「ご褒美? 何か欲しい物でもあるの?」


 お金には余裕があるから相当高価な物じゃなければ何でも買ってこれるけど。


「いやー、そういうの良いから。めんどーだし。この枕合わないんだよね。ほら、ここに座って? ちょっと座り方はこうで……よし」

「えっと……何してるんすか?」

「膝枕だよ。それじゃ、あーしはもう寝るから、めんどーだけど動いちゃだめだよ、お兄ちゃん」


 ご飯の準備が整ったとジュリエットさんが伝えに来るまで頑張った。

 軽かったけど、ちょっと足痺れた。

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