幕間の物語54.魔法生物はアタッカーを増やす

 シズトと別れたホムラは、都市国家ユグドラシルの中央にある禁足地に再び突入した。

 シズトを乗せていた時よりもさらに速度を上げて浮遊台車は進む。

 景色が一気に後方へと流れるのが面白いのか、ドライアドたちは歓声を上げながら、髪を楽し気にわさわさと動かしていた。


「おい、ムズムズするからやめろ」

「この子たちを連れてきちゃってよかったのかしら?」

「アタシが知るわけねぇだろ、勝手についてきたんだから」

「ルウ様、ラオ様。もうすぐ着きます」


 ホムラの言う通り、既にラオとルウでも気配を感じ取れるほど世界樹の根元に近づいていた。

 ドライアドたちは、二人に絡めていた髪を元に戻すと、どんどん飛び降りていく。

 ころころと転がってケラケラと笑っているドライアドを全く気にする事無く、ホムラたちは森を抜けた。

 三メートル以上の大きさの土の巨人が、丸くてボコボコと気味が悪く膨らんだ肉塊を両手で捕まえていた。

 突然の乱入者にエルフたちは特に反応を示さない。

 唯一、地面に手をついていたジュリウスが彼女らに声をかけた。


「シズト様は?」

「お待ちいただいております。サクッと片付けましょう」

「今、どういう状況だ? その肉団子みたいな気持ち悪いのが邪神の信奉者か?」

「そうですね。『呪躰』の加護を持っているようだ。おまけに高い魔法耐性と異常な再生能力がある。ぼこぼこと膨らんでいる部分に攻撃を加えると、そこが破裂して中から体液とか諸々が飛び出すから注意してくれ。周囲の被害を度外視すれば、塵一つ残さず殺せるが、世界樹の近くじゃ無理だ」

「だからああして動きを封じてるってわけか」

「拘束から逃れても転がって突進くらいしかしてこないから、どうやって殺すかだけが問題だ。ただ、厄介な事に、転がると瘤の様なものがその度破裂して体液をまき散らし、呪いを広げるからああしている」


 ゴーレムの手が形を変え、肉塊を閉じ込める檻になっていた。


「物理がダメなら私たち三人がいてもお役に立てる事が思いつかないわ」

「いえ、シズト様がご無事だと聞けただけで十分。さて、コレをどうしたものか」


 檻の中で転がり、壊そうとする肉塊を冷めた目で見るジュリウス。

 周囲を巻き込まない程度の威力の精霊魔法ではすぐに傷を修復されてしまっていた。

 水で体を穿ってもすぐに穴が塞がり、頭部を丸ごと氷漬けにして砕いても再生してしまう。

 アンデッドよりも理不尽な相手を前に、攻めあぐねていた時にホムラたちが来て今に至る。


「呪われるのを覚悟するなら、どうとでもできるけどよ」

「ラオちゃん!? シズトくんがホムラちゃんに言ってたの聞いてたでしょ? 私たちも無事に戻らないと、シズトくん怒るわよ?」

「でもそれくらいしかねぇだろ。アタシら三人共前衛なんだから」

「それなら手伝いは不要だ。やっぱり周囲の森が燃えようが、ここで……」

「ホムラちゃんからも何とか言って……って、何をしてるの、ホムラちゃん?」


 ホムラはアイテムバッグから魔石を取り出していた。

 それは、以前シズトがホムラと話をしながら付与した魔石の一つだ。


「確か、これだったと思いますが」


 ホムラが大量の魔力を追加で注ぎ込み、魔石を目の前に軽く放る。

 ホムラの胸くらいの高さで宙に浮いた状態で止まった魔石を中心に、いくつもの魔法陣が広がっていく。

 魔法陣それぞれが複雑に絡み合い、直径が人一人分くらいの球状になるとより一層光を放ち、思わず周囲にいた者たちは目を細めつつもそれを見た。

 そして、中から現れる一人の幼い体つきの少女。

 光が収まる前に、ホムラはアイテムバッグから予備のローブを取り出すと、その少女に纏わせる。

 青空の様な色の髪はぼさぼさとしている。


「めんどくさー。どうしてこんな時に使うの?」

「確かあなたを作った時に、シズト様が空間魔法の話をされていたので」

「確かに? あーしは? 使えますけど? 他の子も作ってたってホムホムーの記憶で知ってるんですけど!?」

「グダグダ言ってないでアレを手早く処理してください。説明は不要ですよね?」

「時間の無駄だし~。必要ないしー。はあ、めんどーくさー」


 夕日の様に綺麗な橙色の目をスゥッと細めて檻の中に入っている肉塊を見上げる。

 そして、彼女はその肉塊に向けて手を差し出し、パチンッと指を鳴らした。

 直後に肉塊のすぐそばに、小さな黒い球が発生したかと思えば、それが急激に膨らむ。

 真っ黒なそれは、土の檻を丸ごと飲み込むまで膨らむと、一気に収縮した。

 先程までそこにあった土の檻も、肉塊もすべて飲み込んで跡形もなくなったその空間を、エルフたちは何が起こったか理解できず、ただただ見上げていた。


「もうつかれた、一歩もあるけなーい。ホムホムー、おんぶして運んで」






 その様子を遥か遠く離れた場所で見ていた誰かが、つまらなさそうに独白する。


「やっぱりナレハテじゃ駄目だったかー。まあ、殺してくれって懇願する哀れなエルフを見れたからまあいいか。甚振られてて可哀想だったけど、僕の手を取らなかったからしょうがないよね。あの時、僕の手を取ってれば死ぬ前に加護をあげたし、こんな事にならなかったのに……可哀そうな名無しのエルフさん」

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