112.事なかれ主義者はエルフが心配
さて、ドライアドたちに連れられてユグドラシルの根元まで来たわけですけど、パパッとやる事やりましょうかねぇ。
「その前に、合図を送ってっと」
クイクイクイッとロープを引っ張ると、しばらくしてからロープが何度か引っ張られる。
無事向こうにも伝わっているようなので、加護を使う準備をしよう。
世界樹の幹を触るために根の上を歩いて行かなきゃいけないみたい。これはちょっと予定変更かなぁ。魔力切れで倒れたら転げ落ちるし。
世界樹からドライアドたちの方に視線を移すと、ウッドデッキの上で何やらわちゃわちゃしている。
その中心で、青いバラのドライアドが僕の視線に気づいた。
「人間さん、エルフさんはいつもここでしてたよー」
「こうして、ハーッて」
「「「ハーッ」」」
うん、分かったからちょっとどいててねー。
ドライアドの一人を抱き上げてどけたのが良くなかった。
私も私も! と、せがまれるままに抱き上げてはウッドデッキから下ろしていくんだけど、終わる気配がない。
「って、なんでまた乗ってんの?」
「つぎわたしー!」
一際小さなドライアドがピョンピョンと飛び跳ねているのを抱き上げて止めて、一度下ろした子は下りるように言うと皆下りた。……青いバラのドライアドを除いて。
「人間さん、私まだですー」
確かに君ずっと中央にいたもんね。
他のドライアドたちよりも大きいけれど、まだまだ小学生低学年くらいの大きさしかないから軽かった。
「さて、気を取り直してやりますか」
立ったまますると倒れた時怖いので、ウッドデッキで胡坐を組む。
正直、こんな枯れてしまったように見える世界樹に生育を使っても意味があるのか分かんないけど、ドライアドが眠ってるだけって言ってたし大丈夫なんだろう。
魔力が全部持ってかれないかだけ気を付けなきゃ。
「……魔力全部持ってかないでください【生育】!」
……無事、祈りながら加護を使う事ができているみたい。
こっちの思い通りに魔力を使う事ができるのは想定外だけど。
ファマリーは向こうが勝手に魔力を引っ張っていくから油断すると倒れるんだよなぁ。
とか、他の事を考えていても勝手に持っていかれる事はなかった。
ただ、世界樹がちょっと光ってるのはびっくりだけど。
こんな反応、ファマリーしてたかなぁ?
……よくよく考えたら魔力全部持ってかれないようにばかり意識して、世界樹の様子とかあんまり気にしてなかったわ。
魔力切れギリギリの、気だるさをめちゃくちゃ感じる状態になるまで魔力を使って祈りを止める。
ユグドラシルを見上げても、特に葉っぱが元通りになるとか目に見える変化はない。
「ユグちゃん起きたねー」
「おはよー」
「なんか変わってるの?」
「魔力で分かるよ。人間さんは分からないの?」
「なんでなんで?」
「さあ、魔力とか魔法とかない場所で育ったから? って、そんな引っ付かれると歩けないでしょ」
とりあえず向こうで待ってくれているホムラたちにロープを引っ張って合図をする。
無事終わった事を告げるために4回引っ張ると、向こう側からも引っ張られた。
さて、向こうの反応はどうなってるかちょっと不安だけど、戻りますか。
そう思ってウッドデッキから一歩踏み出して戻ろうとした時、視界の端に何かが映り込んだ。黒くて大きな丸っこい何か。
何だろう? と視線を向けようとしたと同時に、周囲が一斉に動いた。
ドライアドたちはいっせいに地面に手をつくと、何かと僕の間に緑の壁を生み出す。植物魔法、とでもいうものなのか。生育に似ているそれは、地面に生えていた雑草がいっきに背丈を超える程伸びた。それのせいで向こうに何がいるのか分からない。
それと、周囲の森から十人以上の人影が飛び出して、緑の壁の向こう側に行った。
「変な感じはアレかなぁ」
「「なんか違ーう」」
ドライアドたちが片手間に魔法を使って、何やら話し合っている。
とりあえず今のこの状況は緊急事態だろう、と思ってロープを思いっきり引き続けた。
帰還の指輪で今すぐ逃げた方がいいのか、それを使うほどの事じゃないのか判断がつかず、ドライアドたちの様子を見ていると森の奥から誰かが飛び出してきた。
「エルフさん、こんにちはー」
「こんにちはー」
「使徒様、彼らが時間を稼いでいるうちに私と一緒に来てください」
このエルフが味方なのか、ドライアドたちの様子だけで判断していいのか。
僕が悩んでいると、僕よりも小柄なエルフが焦れた様子で、僕の手を取って走り始めた。
ドライアドたちも僕の後ろをついてきていて、僕の視線を遮るように、植物を成長させて壁を作っていく。
「アレは見るだけでも良くないです。お役目を果たしてお疲れの使徒様がご覧になると猶更まずいモノです。アレが他にも潜んでいるかもしれません。あまり周囲を見ずに前だけ見て走ってください」
「あっちに残った人は大丈夫なの?」
「足止め程度なら問題ありません」
そうは言うけど、エルフの手はじっとりと汗ばんでいた。これは運動してかいた汗なのか、それとも僕と一緒で別の理由で汗をかいているのか、分からない。
ただ、加勢をするために向こうに戻っても、僕に何かできる事はないのは分かる。魔力はからっからだし、何より素材が何もないから。アイテムバッグぐらい持ってくるべきだった。
そう後悔していると、突然手が離され、エルフが真後ろに吹っ飛んでいった。
「ご無事ですか、マスター?」
「ちょっとホムラさん何してんの!?」
服がボロボロになったホムラがきょとんとした表情で首を傾げている。
……エルフさん、生きてるかな?
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