95.事なかれ主義者は気絶しなかった

 獣人の尻尾はふわふわで、とても触り心地のいい物だった。翌朝になってもあの感触がふとした時に思い出せそうな気もする。

 流石に耳を触らせて、とはお願いする事は出来なかったけど尻尾も耳もいい物だ。

 ちょっと無心になって触り続けてたらエミリーとシンシーラの反応がエッチな感じになって慌ててお開きにしたんだけど、朝ご飯中にエミリーにめっちゃ見られてる。ジトーッて感じで、めちゃくちゃ見られてる。昨日触りすぎましたかね。

 気まずい思いをしながらもそもそと食べていると、既に食べ終わって魔力マシマシ飴を舐めていたラオさんが口を開いた。


「今日からまたファマリーのとこに行くんだったよな?」

「うん」

「アイテムバッグの存在を隠すのは今更だし、特に荷物必要ねぇよな?」

「んー、どうだろ? なんかいる物ってあるかな」

「シズトが寝ている間にジャガイモを植えたいのですわ!」

「不毛の大地でも育つのか実験するのはいいけど、僕たちがいない間は水やりとかどうするの? 向こうに誰か残るの?」

「近衛兵にでも命じておくのですわ」

「やめてあげて?」


 レヴィさん、なんか近衛兵の使い方間違ってる気がするんだけど。

 結局、水に関しては魔道具で水やり機を作る事にしてその話は終わった。自動散水システムとか言うのを思い出せてよかった。

 ついでにサッカーやりたくなってきたからボールを……何製なんだろ、あれ。革かな。革はなんか加工できないんだよなぁ。木でやったら痛そうだし。革製品を扱ってる所でボール作ってもらおうかな。

 スープを飲み干して口元を拭うとスッとエミリーが空になった食器を手に取った。それと共にモフッと僕の体に尻尾が当たったんだけど、わざと? いや、でも気づいた様子もないし……。


「それより、また皆で行くの? そんな大勢で行かなくてもいいと思うけど」

「私がいなかったら近衛兵がついて行く言い訳がなくなるから私は絶対行くのですわ!」

「そもそもエルフたちがいなくなってるみたいだし、近衛兵がついて来なくてもいいと思うんだけどなぁ」

「そんな事ないのですわ! いつまたエルフたちがやってくるか分からないのだから、精鋭が多くて困る事はないのですわ!」

「アタシとルウもついていくぞ。お前専属の護衛だからな」

「兵士さんたちはどうしてもレヴィちゃんを守ろうとしちゃう可能性があるから、お姉ちゃんたちがしっかり最優先で守ってあげるわ!」

「私は今回もお留守番かねぇ。……ホムラ、ちょっと店番代わってくれよ」

「拒否します」

「ホムラもユキと一緒に店番すればいいじゃん」

「アルヴィン様との交渉が控えていますので、ついて行くのは確定です、マスター。それとも、マスターが交渉されますか?」

「よーし、じゃあこの前と同じ面子で頑張って行こ―!」


 そうと決まればみんなお出かけの準備してね! え、アイテムバッグに入ってるから問題ない? ……そうですね。

 大人しくジャガイモの選別をしながら馬車が来るのを待とうかな。


「朝一でいらっしゃってシズト様を待ってます」

「モニカさんそういう事は朝一で教えてくれません!?」


 急いで朝ご飯を詰め込んだからか、喉に何か詰まって死ぬかと思った。




 数日かけてまたのんびりと馬車の旅を楽しみ、世界樹ファマリーに着いた。一週間ぶりくらいに見るファマリーはまだちょっと元気ないですって感じ。

 ホムラは出迎えてくれたアルヴィンさんと大きな天幕の中に入って行ってしまった。ドーラさんもそれについて行く。

 レヴィさんはセシリアさんと近衛兵を連れて聖域の中で畑を作ろうと奮闘している。近衛兵の誰もが嫌そうな表情を一切見せる事無く、指示されるとおりに魔道具を操っていく。それでいいのか近衛兵。


「もう魔動散水機とやらを取り付けんのか?」

「いや、今日はまだしないよ。畑もまだできてないからね。それに、ファマリーはこれでも全快ってわけじゃないから、今日はありったけの魔力を使おうかなって。とりあえずファマリーのそばまで行こっか」

「お姉ちゃんも一緒に行くわ~」

「ちょっと待って! テントの設営しなきゃなんだから、引っ張らないで!」


 ルウさんの柔らかくて温かくて大きな手の感触に注意が行き過ぎないように気を付けつつ、テントを設営する場所を決めてアイテムバッグから必要な物を出していくとラオさんとルウさんが慣れた様子でテキパキと動いてすぐに終わらせてしまった。


「ほら、シズトくん。次は世界樹ファマリーのお世話をしましょうね~」


 何でそんな積極的なんですかね?

 まあ、言われなくてもするつもりだからいいんだけど、何か気になる……。

 世界樹ファマリーの根元までたどり着くと、その大きな幹に触れる。

 前回は後ろにいた目撃者たちの事を考えてだいぶ離れた位置からやったんだけど、近くの方が加護を使いやすいし、魔力の消耗が少ない事に気づいてからは極力対象の植物に触れてするようにしている。

 数が多すぎて面倒な時は大雑把にするけど。


「とりあえず、元気になーれ【生育】」


 ……うん、魔力がぐんぐん吸われてだいぶだるいね!

 けど何とか意識を保ったまま加護を使うのをやめる事ができた。

 なんかルウさんが残念そうだったけど、何かあった?


「何でもないわ。シズトくんは気にしなくていいのよ。だるくない? そうだ、お姉ちゃんが抱っこしてあげる!」

「いや、だるいけど自分で歩けるから」

「そう……」


 やっぱりなんかしょんぼりしてないっすか?

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