79.事なかれ主義者は途中セーブしたい
ホムラの頭をぐりぐりとした後、朝ごはんを食べて装備を整えたら転移陣を使って亡者の巣窟の入り口付近に転移をする。
第十階層までは日帰りで行けたが、沼地が広がる屋外タイプの第十階層よりも先は1階層進むだけで半日かかる事もあるそうだ。無理にショートカットをしようとして沼地に入ると底なし沼が点在しているし、何より沼自体が毒らしい。臭いもひどく、慣れている者じゃないと吐き気を催す程なのだがそこはクリアしているので問題はない。いや、家に戻ってきたらシンシーラとエミリーが大変な事になるんだけど。
マスクを装着した僕は、ルウさんを先頭に亡者の巣窟を進む。前回フロアボスを倒した先にあった帰還用の転移陣のすぐそばに魔道具を置いておいたのでそれを使って一気に第11階層へと続く階段のすぐそばまで転移した。ダンジョン内であれば転移が可能という事で作ったからわざわざ第一階層からやり直しをしなくて済んだ。
ただ、どこのダンジョンでも作らないように、とラオさんから釘を刺された。
「ここは基本的に他の奴らが来ないからいいが、他の冒険者がいるダンジョンで使ったら必ず実力に合わない所に行くやつが出て、ただでさえ高い駆け出し冒険者の死亡率が上がっちまうからな」
「他の街にあったダンジョンでは一度行った階層であれば、魔石を使って転移することができる場所があったけど、そこでもそういう事は起きてたものね。冒険者ギルドが管理していても、やっぱり必ずおバカさんは出てくるし」
「まあ、冒険者ってのは自己責任なのが当たり前だからそういう事で頭を悩ますのは上の方の連中なだけだけどな」
普通だったらいちいち第一階層からやり直しってのは面倒くさい。でも、ドランの冒険者たちはそれが当たり前らしいし、もしダンジョンに行く事が今後もあるなら慣れておいた方がいいのかもしれない。まあ、今回は楽するんだけどね。
第十一階層へと続く階段を下りきると、眼前に空間が広がっていた。背後を振り返ると崖がそびえたっている。その崖の一部に階段があるのがなんか奇妙に感じる。
空もあって、地平線も見えた。どんよりと曇り空で、辺り一面薄暗い印象があるのは、樹木が影を作っているからだろうか。
「……広すぎじゃない?」
「こんなもんだ。あと、天井は見えねぇが作り物の空だから高く跳びすぎると頭ぶつける事になるから気ぃ付けろよ」
「じゃあ空飛ぶ系の魔道具は避けた方がよさそうだね。近道できると思ったんだけど」
先頭のルウさんが進み始めたので僕たちもついて歩く。一見すると地面のように見えるが、中には底なし沼の可能性もあるので、ルウさんは自分の身長ぐらいある物干しざおをトントンと叩きつつ左右に振って安全確認をしている。
僕はその後ろを見ながら自動探知地図を開いて内容を見てみたが、本当に広大な沼地が広がっている事が分かった。僕たち以外の魔力反応は沼の周辺にたくさんあるが、沼の中で隠れているのかもしれない。それはそれで厄介だな、と思いつつ今日も被っているヘルメットの位置を調節する。ただ、沼の中からゾンビが足を引っ張ってきて、沼の底に引きずり込まれたりしたら光はゾンビに届くのだろうか?
明らかに沼っぽい所に視線を向けつつ考える。水が汚れていて透明度ゼロのそれだが果たしてどうなんだろう? っていうか水草とかわさわさ水面に広がっている所もあるのでああいう所は影になっちゃうかも。
そうなると沼の中に足を突っ込みたくないから慎重に進むしかなくなって、今みたいに棒で刺激を与えながら進むしかないのかな。
そう考えていたら近くの魔力反応がたくさんこっちに集まってきていた。数にすると十とちょっとだけど目視で確認すると沼の中や木の陰から現れたゾンビと、どこからか飛んできた空飛ぶスケスケの物体だった。
「レイスも来てる」
「レイスなら神聖ライトで倒せてたが、ダンジョン内の魔物だ。気を抜かずに慎重に削るぞ。ホムラ! シズトから離れんなよ!」
「言われるまでもない事です」
僕を中心にドーラさんが僕の右側で盾を構えつつ神聖ライトを構え、左側にホムラがメイスを背負ったまま神聖ライトを両手で持っている。
ルウさんとラオさんはそれぞれ全体を警戒しつつ彼女らの正面を相手する事になっていた。
僕? 変な事しないように釘を刺されていたので、とりあえず自動探知地図を見ながら空を警戒する。高すぎる所にいる者の魔力反応を検知できないみたいだから、上空から強襲されないか警戒する役だ。
戦闘自体はあっけなく終わり、僕たちの周辺に転がっている魔石を回収していくが、今回の戦闘の課題があった。
「あまり活躍できなかったわ~……」
「まあ、仕方ねぇだろ」
しょんぼりしているルウさんを慰めるラオさん。
ルウさんの自慢の足は、自由に走り回れないこの沼地では十全に活かす事ができなかった。ルウさん曰く、「本気を出せば水の上も走れるわ~」と言っていたので本当にやばい時はそれも検討しようという事になっている。ただ、切り札的なものなので今回みたいな雑魚相手には極力使いたくないらしいけど。
その後、結局何度も戦闘を繰り返す事になり、第十一階層を踏破する頃には四時間以上経過してしまっていた。
持ってきた時間を知らせる魔道具を確認したので間違いない。フロアボスまで残り八階層もある。フロアボスの先にある転移陣だけが置いてある部屋以外に転移陣を設置するのは危険なので、途中セーブもできる訳もなく地道にやってくしかない。
そう諦めた時、また魔力反応があった。第十二階層に入って早々の魔物との戦闘嫌だなぁ、とぷかぷか浮きながらレイスをボケーッと見ていて、ふと思った。
地面から浮いてれば底なし沼とか関係なくね?
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