72.事なかれ主義者は疲れて寝た

「じゃあ、ユキで」

「わかったわ、ご主人様。これからユキと名乗るようにするわね」


 ホムラが起動させてしまった魔法生物の名前はユキにした。白い髪や、ホムラと対照的な見た目と雰囲気だったので何となくそれが浮かんだんだけど、特に異論がないようで安心した。

 ユキは何やら他の女性陣と話をする事があるらしく、今日のお世話係のドーラさんを残してみんな出て行ってしまった。


「何の話だろうね」

「シズトのお世話係の順番。機会は平等に」


 うん……まあ、それだよね。他にもいろいろとこの屋敷についてとか諸々教えてもいるんだろうけど、ホムラと同じホムンクルスであればいろいろと世話を焼こうとするだろうし。ドーラさんは良いのかな、って思ったけど後から教えてもらえればそれでいいんだとか。

 とりあえず食事にはもう少し時間がかかるから、ドーラさんに言われるがままいろいろ作ってみる。


「……嗅覚を遮断するマスクなんて何に使うの?」

「ゾンビが近づいても平気」

「こっちの毒とかに反応してなる鈴は?」

「匂いが分からないと危険な時もあるから」


 ああ、ガスとか匂いでわかるもんね。

 後は使ってしまった帰還の指輪をせっせと作っていく。

 そういえば、使い心地とか聞いてなかったな。


「ドーラさん、帰還の指輪使ってどうだった?」

「便利」

「そうだけど、気になった事とかこうした方がいい事ってないの?」

「……戦闘不能になった者を強制転移させるとか」

「確かに意識がないと使えないもんね。その間に殺されちゃったら大変だしそっちにした方がいいかな。そうなると魔石のランクを上げなきゃいけないみたいだけど、命には代えられないし、ちょっとホムラに聞いてみるね」


 丁度そこにホムラが戻ってきたのでCランク以上の魔石の調達をお願いすると、すでに売った代金で買い集めているんだとか。どうやら屋敷案内や物の使い方を説明するためにお風呂に入ってきたらしく、頬が上気している。


「マスターがいつご所望になるのかわかりませんでしたから」

「まあ、その影響で魔石不足になって魔石が高騰してるけどな」

「あ、やっぱり魔石の値段上がってるの僕が原因なんだ」

「シズトくんは気にしなくていいのよ?」

「そうは言っても今まで魔石を買って使っていた人たちが迷惑を被ってるんでしょ?」


 ラオさんとルウさんも部屋に入ってきて会話に加わる。お風呂上がりのラオさんは髪が濡れており、タンクトップにパンツ姿なのでいつも目のやり場に困る。ルウさんは髪をしっかりと乾かしており、部屋着を着ていた。


「ある程度は仕方ない。資源は有限」


 ドーラさんはさらりとそんな事を言うけどさ~。恨まれそうで嫌だなぁ。何か考えとかないと。




 結局解決案は思いつかず、食後にドーラさんと一緒にお風呂を入る。

 ドーラさんはスレンダーな体型で、華奢な手足に細い腰に目が行く。こんなほっそい体のどこからあんな力が湧いてくるのか。加護の力ってやっぱりファンタジーって感じだよね。めちゃくちゃ恩恵を受けているから今更だけど。

 ワンピースの様な湯浴み着を身に纏った彼女は、小さな手で僕の髪の毛をごしごしと洗う。もう最近はいろんな人に髪の毛を洗われるのは慣れてしまった。堂々と座りながら魔石について考える。


「泡、流す」


 シャワーを使って頭にこんもりと盛られた泡を流していくドーラさん。普段は真面目に護衛をしてるドーラさんだけど、最近新しく用意された泡立ちの良い石鹸で遊びがちだ。今日は見事なアフロだった。

 泡立て器とか作ったら目を爛々とさせて遊びそうだし今度作ってみよう。


「手、横に」


 お風呂の魔道具を充実させるのもいいよね。

 世界樹にたくさん魔力を使わなくて済んだし、家庭菜園くらいだったら余裕があるからちょっと電気風呂もどきでも作ってみようかしら?


「背中、流す」


 打たせ湯とかも作って見たかったから、ちょっと浴槽を増やしちゃうか。その都度作るのめんどいけど、木の端材で作れなくはないし、排水はその都度形を変えれば問題ないかも? 工事でしばらくお風呂に入れなくなったら嫌だし試してみる価値はあると思う。


「足、あげて」

「って、ちょっと待って?」

「?」


 前に回り込んでいたドーラさんがしゃがんだ姿勢のままきょとんとした表情で僕を見上げてくる。

 普通に手を洗ってもらってから気づくのもあれだけど、頭と背中だけの約束だったよね?

 ドーラさんはため息を吐いて立ち上がるとお湯加減を見に行った。

 セシリアさんのは彼女の仕事だからまだ我慢できたけど、同年代の女性が目の前で下半身を洗ってきたら流石にやばいと思うんですよ。ねえ、そうだよね。

 自分の股間を見下ろしながら自問自答するけど、答えは分かり切っていた。

 体を洗い終わって湯船に入ると、ドーラさんも一緒に入ってくる。

 慣れとは恐ろしいもので、お風呂ですぐ隣に同年代の女の子がいても特に何も思わない自分がいる。


「極楽」

「そうだね」




 王様と会ってだいぶ気疲れしてたんだろうか。

 気が付いたら脱衣所でドーラさんに膝枕をされていてとても驚いた。

 でも、とっても柔らかかったです。

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