幕間の物語26.元加護持ち達は話し合った
ドラゴニア王国の南にある不毛の大地と隣接する場所にある都市国家ユグドラシル。
国の名前と同じく、ユグドラシルと呼ばれている世界樹が観光名所であり特産品でもあるエルフたちの国だった。
エルフのみに与えられたと言われている神樹、またの名を世界樹と呼ばれている巨大過ぎるその木は、古くからエルフたちの信仰の対象だった。
世界樹の使徒と呼ばれる者が国王として君臨し、世界樹を守り育んでいたが、ある日問題が起きた。
「なぜだ……なぜ、加護が発動しない!」
禁足地として指定されている、誰もいない大樹の側で狼狽しているエルフの男性がいた。
金色の髪に緑色の瞳の彼は、世界樹の太い幹を取り乱した様子で触っているが、どれだけ触っても彼の求める加護が発動する事はなかった。
男性はとても慌てていた。加護が使えなければ世界樹にどのような影響があるのか、まったく分からないからだ。
先祖代々、使徒の家系のみに受け継がれる『生育』の加護を絶えず世界樹に使うように、と伝えられていたが使えなかった時にどうなってしまうのか、伝わっていなかった。
男性は一日中試したが、結局その日、加護が発動する事はなかった。
それからしばらくして、世界樹に変化があった。
世界樹の素材の効果が落ちたのだ。世界樹の葉を素材として作られた万能薬は万能と言えるほどの効果は発揮せず、世界樹の枝を素材として作られた杖は以前と比べたら出力が落ちていた。
世界樹がある他の都市国家と貴重な魔道具を使ってやり取りをしていた男性だったが、どの都市国家でも似たような状況だった。
だが、誰も原因が分からない。
いや、世界樹の使徒と呼ばれていた者たちは分かっていたが、そもそも加護の力で世界樹が育っていると知っているのは世界樹の使徒と呼ばれている彼らだけだったので誰にも原因を伝えていなかった。
エルフの男性は魔道具に向かって叫ぶ。
「まさか加護がなくなるなんて……なぜいきなりこんな事に!」
『分からぬ。先祖から伝わっていた通り、加護の力を秘匿し世界樹を守ってきたが、神々から与えられた試練なのかもしれん』
『傍迷惑この上ないわね。言いつけ通りに世界樹を守ってきた私たち信徒に対して酷い裏切りだわ』
「この試練がいつまで続くかは分からんが、周辺国とは慎重な付き合いをせざるを得ないな」
『今の所、世界樹の問題は効果が落ちた事だが、今後何が起こるかわからん。問題が起きる前の素材に関しては念のため外に出さないようにするか』
『それがいいわ。人間共が何を言おうが知った事ではないわね。神々に選ばれ託された私たちのおこぼれにあずかっているだけの奴らなんて気にする必要はないわ』
魔道具を介して他の都市国家の面々と話をしていた男性だったが、結局対応策はいくつか出たが、解決策は出なかった。
どうして加護が失われてしまったのか。神々からの試練なのかは分からないが、彼は同じ国の者たちに相談する事ができず、一人で悩むしかなかった。
ただ、悩んでいる最中にも、状況は刻一刻と悪くなっていった。
だんだんと世界樹についている葉っぱが茶色に変色し、効果が完全になくなってしまった。
ただ、世界樹の葉が落ち始めた頃に、おかしな噂を聞いた。
「不毛の大地にいきなり世界樹が生えた!」
世界樹は独特な魔力を有している。
その魔力は、普段魔力を感じる事ができない者でも感じる事ができるほど独特な魔力で、間違いようがない。
情報の裏取りをするために暗部を向かわせたが、間違いなく世界樹が生えていて、何やら世界樹の周りに柵のようなものができている、と報告がされた。
(どこのエルフか分からんが、間違いなく『生育』の加護持ちだろう。誰よりも早く接触する必要がある)
そう考えてそのエルフにコンタクトを取ろうと自ら不毛の大地に向かった彼だったが、困惑した。
エルフがいなかったのだ。
遠くから魔道具を使って様子を探っていたが、明らかに加護を使っているのは黒髪の少年だった。
「どういう事だ? なぜ人間が……」
『我々の加護がなくなった事と関係があるのではないか?』
『ありえるのう。ただ、それよりも気になるのはなぜ世界樹がそこにあるのかじゃ。あの加護はあくまでも育てるだけだったはずじゃろう?』
「勝手に生えてくるわけがないしな。もしや世界樹の種ともいえるものがあるのでは……?」
『だとしたらどこで手に入れたのかが問題になるわけじゃが……』
「まさか、ユグドラシルから!?」
『いずれにせよ、その人間を捕らえる必要があるわ。世界樹の秘密を守るためにも、世界樹そのものを生き返らせるためにも』
『遥か彼方の場所ではあるが、何とかしてこちらの世界樹も助けてほしいものじゃ。もちろん、協力してくれるじゃろうな?』
「まずは盗人を捕まえてからだ。ただ面倒なのはドラゴニアの領土にいる事か」
『いっその事、世界樹の種が盗まれたから世界樹に異変が起きた、という事にしてはどうかしら? 事実がどうであれ、こぞって周辺国が手助けをしてくれるでしょう。手助けをしないなら、素材を交渉の道具として使えばいいだけの事ね』
『隣国に勇者が異世界からやってきたんじゃろう? 勇者はなぜかエルフに友好的じゃから、協力してくれるじゃろう。周辺国に盗まれた事を伝えるタイミングはそちらに任せる。できる限り早く解決してほしいものじゃな』
「言われなくともそのつもりだ」
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