第2章 露天商をさせて生きていこう

15.事なかれ主義者は、値付けで悩む

 報酬をドーラさんと分けて、ホムラと僕のお金として手元に残ったのは、金貨八枚とその他細かいのが数枚。

 ドーラさんが受け取りを拒否しようとしたが「同じパーティーなんだから」と無理やり押し付けて残ったお金だったが、これだけでしばらくは自堕落な生活をしても問題ないくらいの資金になってしまった。

 本格的に、物を作る方向で行こうかな。

 ダンジョン怖いし。

 二日前の記憶はまだ鮮明に覚えていて、今日もまた安眠カバーのお世話になっていた。

 いろいろ考えていたらドアが勝手に開いて、ラオさんが入ってくる。


「ちょ、ちょっと、勝手に入ってこないで下さいよ!!」


 こっちはまだ寝間着姿なんだけど!

 抗議をしてもラオさんは特に応える事はなく、布団にくるまっていた僕を布団から引っぺがして無理矢理立たせた。

 引き寄せられてラオさんに支えられると、いい匂いがしてくる。

 くんくん。

 石鹸か何かの香りなんですかね、これ。


「いつまでもごろごろしてんじゃねぇよ。飯の時間だからさっさと着替えて下に行くぞ。それとも、着替え手伝ってやろうか?」

「着替えるから出て行って!」


 匂いをかいでる場合じゃなかった!

 ラオさんを追い出してドアを荒々しく閉める。

 ……ていうか、鍵って閉めてなかったっけ?




「あ? 宿の人に合い鍵貰ってんだよ」


 当たり前の事のようにラオさんが答えた。

 朝食は座って五分も経たずに食べ終わり、今は僕から奪った魔力マシマシ飴を舐めながら胸に乗っかった食べかすを払っていた。


「プライバシーって知ってる?」

「んなもん、護衛対象のお前にねぇよ。万が一の時はドアを蹴破るが、些細な事で蹴破るわけにはいかねぇだろ? 安心しろよ、気配でだいたい動きは分かるから変なタイミングで入る事はしねぇよ。そんな事より、今日はどうするよ」

「はぁ……ホムラに露天商を任せてみようかな、って」

「売り物は準備できたのか?」

「とりあえず、鉄製の武器とか、防具かなぁ」

「……いくらで売るんだ?」

「えー……お店で売ってる剣より少し安いくらいの値段? 銀貨八枚かな。物によるけど」


 一本でも売れれば一週間分の宿代にはなるね!

 そんな事を考えていたら、売り物を出すように言われたのでとりあえず片手剣を出す。


「ダメだな」

「なんで! ちゃんと見て作ったんだけど!?」

「いや、出来はいいさ。むしろ良すぎだな。重さのバランスとかも良いし、装飾も細かく丁寧。これは売れるだろうよ」

「だったら――」

「職人ギルドや鍛冶師どもがいい顔しねぇだろうけど、いいのか?」


 それは、ちょっとなぁ……。

 使わなくなった端材をくれたり、鉄くずを譲ってくれた人たちが脳裏をよぎる。

 うん、波風立てたくない。


「売るなら高値だ。安くすんな。ていうか、なんで安くしようとすんだよ」

「だって、作るの楽だったし」

「ならめっちゃ時間使って作られたものがなまくらでも高値がついちまう事になるだろうが。この品質なら二倍の値段付けとけ」


 そんなので売れるのかなぁ。

 そんな事を考えながらポトフみたいなのを食べ終えると、食器が入れ替えられておかわりポトフ。

 食器を変えたルンさんを見上げると、にっこりといい笑顔で「たくさん食べましょうね」なんてことを言われる。

 ――今日も台車移動になった。




 王都に続く北門の付近にあるマーケットでは、王都からやってきた行商人が品物を広げている。

 所狭しと並んでいて、場所がなかった。

 ただ、もともと狙っていたのは北門よりもだいぶ中央に近い宿がいっぱいある地帯のマーケットでとりあえずお試しで露天商をやる予定だ。

 マーケットを仕切っていた商人ギルドの人に場所代をとりあえず二日分で銅貨二枚。

 ホムラのドッグタグに何か細工をしたのか、ギルド職員がハンコみたいなのをかざすと淡く光って元に戻った。


「それじゃ、とりあえず敷物を敷いて」

「はい、マスター」

「売り物は前の方に置いといたほうがいいかな」

「はい、マス――」

「いや、食べ物なら見た目で呼び寄せてぇからそうするとこが多いが、お前は食べ物じゃねぇだろ。座る場所の後ろか、横だ。目を離したすきに持ってかれる可能性もないとは言い切れねぇからな」

「そっか。じゃ、これ後ろに置いといて」

「はい、マスター」


 武器を乱雑に突っ込んだ箱を縦に置いてもらう。

 他に売り物になりそうなの何かあったかな。

 もう、使わないだろうしこれでも売ろうかな。

 そう思ってアイテムバックの中から自動探知地図と、浮遊ランプを取り出す。


「まて」


 ラオさんに止められた。

 顔を手で覆ってため息をつかれた。


「それも売るのか?」

「うん、売るよ?」

「いくらでだ」

「え?うーん……銀貨――」

「ちなみに、魔道具は物にもよるが、魔石が必要ない物は金貨数枚からが普通だからな。魔石が必要なものでも金貨一枚は普通にするから」

「そんなに!?」

「そんなにするのが普通なんだよ。そもそも、数がたくさんあるわけでもねぇしな」


 あれ、それなら浮遊台車結構安く買い叩かれてるのでは??


「ちなみに、浮遊台車の代金はアタシが護衛する事もあって安くなってんだよ」


 そういうものか。

 まあ、そうだよね。Bランク冒険者が専属で護衛してくれてる、ってすごいんだな。

 でもなー。自動探知地図はもっと普及したらあんな目にあう冒険者が減るだろうし。

 浮遊ランプもあの薄暗い中で手で灯りを持って移動するの面倒だし、たくさん買ってもらって快適に冒険してほしいし……。

 はあ、とラオさんがため息をついて、頭をぼりぼりと乱雑に掻きむしる。


「……まあ、どうしても安く売りたいってんなら、なんか欠点を付けるとかすればいいんじゃねぇか。知らんけど」


 ……なるほど??

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