第131話 ゴールデンボム、爆誕

 大手クランは最前線を走る団体同士階層更新で競争し合うことはよくあるが、協力して探索することは珍しい。なので無限の輪と金色の調べの共同探索は迷宮マニアの間で話題になり、新聞記者がすぐに食いついて記事にした。



「……ふーん」



 シルバービーストのロレーナはユニスが努にヒーラーの駄目出しをされ、手取り足取り教えられていたと書かれている記事を読み終えると白い兎耳をぴくぴくと動かした。別に努がユニスにヒーラーを教えていること自体に不満はない。だがユニスが魔石を投げつけているシーンも記事にはバッチリ写真付きで載せられていたので、ロレーナは不快そうにしていた。


 ちなみにアルドレットクロウの一軍ヒーラーであるステファニーはその記事を見て、持っていた指揮棒のような杖をへし折っている。その後何かブツブツと言いながらダンジョンに潜り、PTメンバーからは気を遣われていた。


 そんな記事が出回ってからシルバービーストもレベリングをしている無限の輪と六十八階層で合流したので、ロレーナは嬉々として努に何か教えてもらおうとした。だが努は困ったように笑いながら手を振った。



「いや、ロレーナさんに教えることはないですよ」

「えぇ!? 何でですか!?」

「そもそも僕たちより攻略進んでるじゃないですか。それに僕を越えるんでしたよね?」

「うぐぐぐぐ! 言った覚えがないよ!」

「その反応からして覚えているでしょう。それにロレーナさんの立ち回りは独自なものなので、自分じゃ教えられないですよ」

「うわーん!!」



 努より一歳年上なロレーナの泣き真似に努はげんなりとした顔でミシルを見る。相変わらず無精ひげを生やしっぱなしでだらしない彼は静かに首を振った。



「あれだ。多分ユニスに嫉妬してるだけだ。許せ」

「あれの何処に嫉妬してるんですかね……。今のところ僕が教えたヒーラーで最弱ですけど」

「その環境にだろ。あと若さか?」

「うるさい! おっさんに言われたくない!」



 泣き真似を止めたロレーナの言葉にミシルはどっと肩を落とす。もう三十を越えているミシルはまだ独身。そろそろ身を落ち着けたい年頃ではあるが、まだ浮いた話はない。努は沈んだ様子のミシルを気遣うように明るく声をかける。



「そういえば、マウントゴーレムは突破出来そうですか?」

「あー、なんとかな。あと何度か挑んで運が良ければ勝てそうではある」

「おー、凄いですね。頑張って下さい」

「最近それを商会が嗅ぎつけてきたみたいでな……。圧力半端ないわ」

「ですよねー。まぁでもアルドレットクロウよりはマシでしょう」

「だな。ったく、どうせならかわいこちゃんに圧力かけられたいところだぜ。むさい男しか寄ってこねぇ」



 二人は実感の篭った様子でうんうんと頷き合う。ミシルは実際にそう言った圧力を現在進行形で受けているし、努もゲームで生産職の者との取引で何度かそういった経験はある。流石にこの世界の商会ほどではないが、気持ちはある程度わかっていた。


 その後はシルバービーストとも一度共同探索をしてお互いの動きを見合った。といっても努はシルバービーストの動きをモニターで何度も見ているので、特に何か感じることはない。


 シルバービーストは全員のレベルもそこまで高くなく、個人を見ても珍しいジョブの冒険者を授かっていて高レベルであるミシルくらいしか名が知られていなかった。


 しかし大手クランすら凌ぐ圧倒的連携力で今やマウントゴーレムすら倒せる勢いで、観衆も既にミシル以外のPTメンバーを覚えている。七十レベルの一軍争いによりPT形成が成されるアルドレットクロウとは対の存在であるが、実力は負けていない。努から見ても非常に面白いPTだ。



「ではお先に失礼します。七十階層攻略頑張って下さい」

「あぁ。そっちもな」



 無限の輪はシルバービーストと別れた後もレベリングを続けた。そして六十九階層へと到達し、新種のモンスターを倒しつつ資金調達のための採掘も行う。



「ツトムさんツトムさん!」

「ん?」



 突然ダリルから嬉しそうな声が上がったので努は振り向くと、少し遠くにいる彼は鶴嘴つるはしを構えながら興奮したように尻尾を振っていた。



「金ですよ! 金! 金があります!」

「はぁ!? マジかよ!!」

「おぉ! 凄いっすね!!」

「あっ、ちょっと」



 ダリルがガツガツと掘っている壁には金色の何かが浮き出ている。それを見たアーミラは赤色の瞳を輝かせてダリルの元へ向かい、ハンナもすぐに飛んでいって採掘の手伝いをし始めた。そして努が気づいて止めようとした時、金色のなにかが輝き始めた。


 火山階層のレアモンスターである、ゴールデンボム。壁や床に埋まっていることが多いこのモンスターは、一定の体力が削られると自爆する。


 ダリルの引き当てたゴールデンボムはアーミラの乱暴な採掘作業によって衝撃を受け、自爆の体勢を整えた。ダリルとアーミラとハンナが不思議そうに光り輝くゴールデンボムを覗き込んだ時。


 ゴールデンボムは自爆。近くにいた三人はその爆発をもろに受けた。アーミラとハンナは即死。ダリルは咄嗟に腕で防いだものの、大きく吹き飛ばされて重傷を負った。


 少し遠くにいた努とディニエルも軽く吹き飛ばされたが、地面をごろごろと転がるだけで事なきを得た。しかし衝撃で飛んできた小石で二人はそれぞれ軽度の打撲を負っていた。



「いっ、てぇー。ハイヒール」



 努は痛みに顔を歪めながらすぐに自身の怪我を治した後、すぐ受身を取って爆発した先に弓を構えているディニエルもすぐに癒した。その後重鎧に焦げが見受けられるダリルもすぐにハイヒールで治療した。


 ただゴールデンボムは倒すと多めの経験値が貰えるため、見つけられたことはラッキーである。努はおろおろとしているダリルを安心させるように肩を叩いた後、レイズでハンナ、アーミラを蘇生させた。



(えーっと、装備どこだっけ)



 努は青ポーションを飲んで精神力を回復している間、民族衣装のような装備を着たハンナが先に蘇生された。それ以外の手足につけていたナックルや所持していたポーションは爆発によって遠くに吹き飛ばされ、中には溶岩の中に入って喪失してしまった物もあった。


 その後赤い革鎧の代わりに亜麻色の服を着せられ、鋼の大剣だけ背負った状態で復活したアーミラはガバっと起き上がった。



「あぁ!? 何だ!? 何が起きた!?」

「爆発したみたい」

「なんじゃそりゃあ!?」

「そういうものだったみたいだね」



 努は適当なことを言いながら自身のマジックバッグから二人の装備の予備を取り出す。ハンナはナックルやポーション瓶を受け取り、アーミラは恥じる様子もなく亜麻色の服を脱ぎ捨てた。黒い下着だけの姿になったアーミラは努から渡されたインナーと赤の革鎧を着込む。


 ダリルは大胆なアーミラの行動に顔を赤くしながらも、努から渡された予備の重鎧に装備を替える。努はもし戦闘中に二人以上のPTメンバーが死んだ時の立ち回りを考えてはいたが、実際に死なれたことは初めてだったので装備の準備に少し手間取った。



(もっとスムーズに出さなきゃな)



 たとえ味方を蘇生しても装備が整えられずにまたすぐ死んでしまえば意味はない。いかに蘇生後PTが安定するまでリカバリーするかもヒーラーの腕にかかっている。努は散らばったハンナとアーミラの装備で破損が少ない物を回収し、蘇生後のリカバリーについて考えながらレベリングを続けた。



 ――▽▽――



 レベリング作業を続けて三週間が経過した。努のレベリング計画通りに皆のレベルはどんどんと上昇し、PT平均レベル六十五を越えることが出来た。これで一先ずはマウントゴーレムに挑めるレベルにはなった。


 この三週間の間にシルバービーストはマウントゴーレムを突破し、商人の荒波に揉まれながら今は七十二階層を攻略している。だがシルバービーストが七十階層を攻略するのは時間の問題と思われていたので、今は三番目に七十階層を突破出来るクランは何処かと観衆たちの注目は高まっていた。


 現在一番攻略に近いところと言われているクランは金色の調べだ。戦闘に慣れてきたおかげかマウントゴーレムと一番戦いが出来ている。シルバービーストの時と同じように時間をかければいずれ攻略出来る雰囲気は、金色の調べが一番高い。


 二番目に上がるのは紅魔団である。土下座騒動以来姿を見せなかったアルマが一軍PTに復帰し、マウントゴーレムに挑んでいる。ただ黒杖はまだ封印しているのか使用しておらず、三種の役割も導入していないので依然厳しい戦いを強いられていた。ただ七十階層に挑んだ数は一番多く、ヴァイスが調子を上げてきているのでもしかしたら、という期待が観衆から寄せられている。


 そして三番目に上がるのが、無限の輪だ。ヒーラー三強に未だ入っている努に、弓術士トップと言われているディニエル、ガルムの弟子でビットマンも記事の中で褒めていたことで評判のダリル。その三人は特に迷宮マニアの間で高評価を受け、新聞記事にも何度か名前が出るほどだ。何かと話題に上がるクランではあるがしかし、ディニエル以外のレベルが低いためしばらくはレベリングをせざるを得なかった。


 なのでまだ七十階層へ一度も挑んでいないため、必然的に一番攻略が遅れている。迷宮マニアの中には努の初見火竜突破や、明らかに他より速いレベル上昇を見抜いてモンスター情報などを推測したりと注目されているが、大衆は金色の調べや紅魔団に注目していた。


 だが無限の輪もこの三週間という期間でレベリングだけをしていたわけではない。



「ストリームアロー」



 ディニエルはレベル七十四になり、ストリームアローの実戦投入も既にしている。ハンナとの連携も磨きがかかってきた様子で、動きの遅いモンスター相手ならばストリームアローを組み入れて絶大なダメージを叩き出せるようになっていた。


 ハンナは六十九レベルとなって新スキルであるカウントバスターを習得した。スキルコンボの数に応じてダメージが上がっていくそのスキルは、拳闘士主要スキルの一つである。まだ完璧に使いこなせるわけではないが、ハンナもその新スキルを取り入れていた。


 ダリルは六十五レベルになりVITは更に一段階上昇してA-になっている。更に新しいスキルも二つ習得したのでそれらを現在立ち回りに組み込んでいる途中だ。


 アーミラは五十九レベルまで上がった。彼女もダリル同様二つスキルを習得し、金色の調べの大剣士を参考に次々とスキルを試している。今までカミーユを手本としていたのでスキルはほとんどパワースラッシュしか使っていなかったが、他のアタッカーからいい刺激を受けたようだ。


 そんな中もはや一日のルーチンワークとなっているボルセイヤー討伐を終え、努が一息ついているとダリルが何やら騒いでいた。



「ツトムさん! 宝箱ですよ! しかも銀です!」

「お! 来たか!」



 レベリングの最中にもいくつか宝箱は出現していたが、お目当ての物は手に入らなかった。だがようやくボルセイヤーから宝箱がドロップしたので、努は目を輝かせながらダリルの方へ向かった。



「あ、僕が開けていい?」

「どーぞどーぞ」



 皆に許可を取った後に努は宝箱を開ける。その中に入っていたのは赤黒いゴツゴツとした見た目をしたローブだった。耐熱装備として優秀である灼岩のローブ。努がマウントゴーレム戦に向けて取っておきたいアイテムである。


 ゲームでもマウントゴーレムに挑む際はこの装備があると非常に楽になるため、努はこの装備を意地でも取っておきたかった。努はそのローブをマジックバッグにしまうとすぐにダンジョンから引き返した。

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