ミキオの詩

「ヒズミ」川嶋 未来男


さめた目つきを おもいだす

つめたいこえを おもいだす

あたたかい手を おもいだす

この町を満たす、イズミ

ぼくの気持ちの、ヒズミ


始発が走る

レールが軋む 音 朝を告げ

町が目覚める

朝もやゆらゆら 空が薄化粧

照らし出された路地

歩く風は 五月のにおい

何処かで見たような

男の子と女の子

歌ううた おんなじ フレーズで 笑う

ぼくらを笑わせた

あの言葉(こと)は何でしょう?


なつかしいな

この町を歩いていると

においがたくさん踊っていて

目を閉じ 浮かべる

イメージ つくる

あの人のいちばん

好きなところはここでした




さめた目つきを おもいだす

つめたいこえを おもいだす

あたたかい手を おもいだす

この町を満たす、イズミ

ぼくの気持ちの、ヒズミ


ペンキが禿げてる

色を忘れた 記憶 おぼろげに

町ひとり歩き

輪郭をなぞる 凸凹した家路

すこし剥がれた かさぶたに口付け

たまに歯が当たって

でも何も言えなかった

くちびるに残るほろにがさ

ぼくらを笑わせた

あの味(こと)は何でしょう?


なつかしいな

この町を歩いていると

においがいつも垂れ込めていて

目を閉じ 浮かべる

イメージ つくる

あの人のいちばん

おいしいところはここでした


さめた目つきを おもいだす

つめたいこえを おもいだす

あたたかい手を おもいだす

この町を満たす、イズミ

ぼくの気持ちの、ヒズミ

春になると この町には桜が咲く

夏になると この町には潮風がやってくる

いつも この町には

きみが あふれていて

地球上でたったひとつ

たったひとり

それが好きだった理由

あのとき言えなかった


ありふれた丘の

ありふれた午後の

ありふれた陽射しの

ありふれたクローバー

ヨツバをもし見つけたら

まばたきなんてできなかった


ぼくらを笑わせた

あの未来(こと)は何でしょう?


なつかしいな

この町を歩いていると

においが強くこびりついていて

目を閉じ 浮かべる

イメージ つくる

一番楽しかった

あの日は ここでした


さめた目つきを おもいだす

つめたいこえを おもいだす

あたたかい手を おもいだす

この町を満たす、イズミ

ぼくの気持ちの、ヒズミ



雨が降っても

風が吹いても

時が経っても

君が消えても

決して消えない


この町を満たす、イズミ

人を好きになる、ヒズミ

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