第29話 畑を作った

 食事が終わって畑作りを始めた。

「日当たりを考慮して、家に近いこの一画で作りたい」

 棒きれを使って地面に線を引いた。最初は上手くいくかわからない。一部屋程度の広さにした。事前に借りてきた道具をライマインさんに渡した。


「土を掘り起こすことしかできないが平気か」

「芽が出るくらいに、土が軟らかければ大丈夫よ。肥料は魔法で用意した。育て方は試しながら頑張ってみる」


 魔物退治と違って命を落とすわけではない。知らないことを体験するのも、イロハ様の世界を楽しむことに繋がる。

「アイの魔法は何でもありだ。そのうち野菜自体を作れるかもしれない」

「万能ではないよ。それに作る楽しみは奪いたくない」


「アイと一緒に行く依頼は楽しめそうだ。そろそろ土を掘り起こす」

 ライマインさんが土を耕してくれた。終わった場所から、私のほうで固まっている土をほぐしていった。プレシャスも器用に手伝ってくれた。


 思ったよりも早めに畑の基礎ができた。

「土が軟らかくて助かった。普段と異なる筋肉を使った。次はどうするつもりだ」

「肥料をまく。私のほうでするから、ライマインさんは少し休んでいて」

「せっかくだから休ませてもらう」

「アイ様、肥料袋は重たいです。わたしがお持ちします」


「プレシャスには無理よ。私なら大丈夫」

 猫ほどの大きさであるプレシャスには持たせられない。

「巨大化しますから平気です」

 膨らむようにプレシャスの体が大きくなった。大型犬ほどの大きさで止まった。


「初めて見た。どの程度まで大きくなれるの?」

「不明です。アイ様が背中に乗れるくらいの大きさは問題ないです」

「私が背中に乗っても平気なの?」

「構いません。ただ普段は自分の足で歩いたほうが、この世界を楽しめます」


「緊急な場合はお願いするね」

 プレシャスが頷くと、肥料袋を取りに歩き出した。

「アイの使い魔は凄いな。猫ほどの大きさから馬ほどにはなれるのか。二段階の巨大化は可能みたいだ。三段階できるのなら、国から呼ばれるほどだ」


「私が凄いわけではないよ。プレシャスが凄いだけ」

「俺は異国を見たくなった」

「ごめんね。戻る方法は大変困難なのよ」

 本当は戻り方を知らない。イロハ様に頼めば精神だけでも戻れるかもしれない。でも人間としての復活はできないはず。


「もしかして悪いことを聞いてしまったか」

「平気よ。それに今の生活も好き。今の目標は私が知らないことの発見ね。魔物退治もその一つ。この世界を楽しみたい。プレシャスが戻ってきた」

 器用に肥料袋をくわえていた。


「プレシャスがいて助かった。肥料は私がまく」

 中に入れておいた器を取り出した。器に肥料を盛って、遠くへ飛ばすようにまいた。均一となるように注意して作業を進めた。周囲がまき終わると、プレシャスが肥料袋を移動してくれた。何度か繰り返すうちに肥料まきが終わった。


「赤色の肥料は初めて見た。普通の肥料と異なるのか?」

「一緒だと思う。土に栄養を与えてくれる」

「アイといると常識がわからなくなってくる。野菜の種や苗も魔法で作ったのか?」

「種や苗は街で買ってきたよ」


「魔法もそこまで万能ではないか。何を育てるつもりだ」

「キュウリ、トマト、ジャガイモ、それにニンジンよ」

 残りの作業に取りかかった。種まきや苗植えはライマインさんも手伝ってくれた。木の札で種類がわかるようにした。肥料有無での育ち方も確認したい。一部の場所には肥料をまかなかった。


「一通り終わったようだ。あとは何を手伝う?」

「魔法で水をまけば終わりよ。料理や飲料水と同じくミネラル成分を豊富にしたい。雫オパール」

 必要な成分を思い浮かべながら呪文を唱える。この方法で水を出現させると料理が美味しくなった。硬水や軟水も作れるのか試してみたい。


「畑が無事に完成ね。ライマインさんのおかげで早く終わった」

「俺も気晴らしになった。野菜ができたら、また異国の料理をご馳走してくれ」

「そのときはギルドメンバーも呼ぶね。食事は人が多いと楽しい」

「楽しみができた。俺はこのあとハンターギルドに顔を出すが、アイはどうする?」

「まだ日も高いから私も行く」

 後片付けをしてから街に向かった。

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