第23話 ハンターギルドの踊り子

 ライマインさんとピミテテさんのところへ戻った。

「準備が整ったよ。あまり期待しないでね」

「アイの歌なら何でも歓迎だ。こちらの空いている場所を使ってほしい」

 受付横の場所を指さした。酒場から離れているから人目は平気そう。知らない人の前で踊るのは慣れていない。恥ずかしさはあった。他の人が気づいてなくてよかった。


「今回は音楽に合わせて踊る。同時に歌うには息が続かない」

「音楽と踊りだけでも充分だ。魔法も使うのか」

 ライマインさんの質問に頷いた。


「楽器と衣装を魔法で作る。始めるね。音色トルマリン。煌めきトルマリン」

 体が青色の光で包まれた。光が晴れると踊り子の衣装に変わった。横にはハープが浮いていた。揺れながら小さな音符が漂っている。宝石魔図鑑はハープの近くに配置した。楽譜の雰囲気を出してみた。


 ピミテテさんとライマインさんが驚いた表情を見せていた。

「私の大好きな歌、~花びら踊る街で~。オン」

 ハープから音色が聞こえた。音符が浮かんだ。今でも鮮明に覚えている曲だった。歌詞も踊りも忘れていない。自然と体が動いた。


 目の前にはピミテテさんとライマインさんがいる。でも不思議な気分だった。目では認識しているけれど別世界にいる感じだった。

 歌が心に染み込んだ。合わせるように手足が動いた。髪の毛から光が舞って周囲が青色に輝いた。まるで本物のアイ様が私を祝福したみたい。心と体が温かくなった。


 いつの間にか音楽が鳴り止んでいた。体の動きも止まっていた。興奮しているのか疲れは感じない。ピミテテさんとライマインさんと視線が合った。思い出したようにお辞儀した。拍手が起こった。


「異国の歌は独特だったが心に染みた。アイには驚かされるばかりだ」

「音楽に合わせて動くアイさんは、本物の踊り子と思いました」

「気に入ってくれてよかった。久しぶりの歌と踊りで私も心地よかった」

 よくみると人が集まっていた。驚いたけれど、みんな笑顔だった。楽しんでくれたみたい。踊ってよかった。


「何の騒ぎですか」

 ギルドマスターのコララレさんだった。いつの間にか来ていた。

「アイの魔法だ。音楽と踊りはまさに幻想的だった」

「探究心をくすぐります。ですが今は手が離せません。アイの魔法はあとで見せてもらいます。大聖女様をお連れしました。ピミテテは私と来てください」


 人垣が左右に分かれた。

「アイは踊れるの? 今度、見てみたいの」

 マユメメイだった。後ろにはタイタリッカさんとキキミシャさんもいた。

「いつでも平気よ。マユメメイが遊びに来たら踊ってみせるね」

 周囲がざわついた。コララレさんが鋭い顔つきになった。私に向けていた視線をマユメメイに移した。


「大聖女様、申し訳ありません。アイは異国の出身者です。常識知らずですが素直な子です。ご無礼をお許してください」

 コララレさんが頭を下げた。

「問題ないの。アイは特別な友達なの。ワタシが名前で呼ぶ許可を与えたから平気」

 また周囲がざわついた。コララレさんも驚いていた。

「お心使いを有り難うございます。お部屋を用意しました。ご案内します」


「移動の前にアイと話をさせて」

 マユメメイが目の前に来た。まだ踊り子の姿で恥ずかしかった。

「異国の音楽と踊りなの? 今日の夜に遊びへ行っても平気?」

 小声で話しかけてきた。期待するような目で私を見ている。可愛らしい仕草だった。


 マユメメイは私をどのように思っているか知らない。でも私には、マユメメイは友達で妹のよう存在だった。波長が合っていた。

 イロハ様が私を抱きしめる気持ちが少し分かった。

「来るのを楽しみにまっている。踊りながら歌えないけれど、異国の音楽と踊りよ」

「待ち遠しい。せっかくだから見習い神官たちを喜ばせて。お祭りに行けない子どもたちがいるの。紹介状も書くから安心して」


「マユメメイのお願いなら断る理由はないよ。このあと神殿に行ってみる」

 キキミシャさんから紹介状を受け取った。マユメメイたちは奥に消えた。

 私が魔法を解くと、周囲の人たちも解散となった。今はライマインさんのみだった。


「アイは常識知らずというか凄いな。大聖女様に名前で呼ぶ許可までもらっていた。国王様でも許可はもらっていないはずだ。いつ大聖女様と仲良くなった?」

「この前知り合って、年齢も近いから意気投合したのよ」


「アイと一緒にいると何が常識かわからなくなる。でも大聖女様も笑顔を見せていた。きっとアイを気に入っているのだろう」

「私もマユメメイは大好きよ。マユメメイから頼まれていた。神殿に行ってくる」

「祭りの楽しんでくれ。明日になったらアイの家へ行く」

 ライマインさんと別れて神殿へ向かった。

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