第20話 大聖女と友達になった

 夕方から料理を作り始めた。今日は多めに作る必要があった。日中はプレシャスと一緒に森へ出かけた。目当ての食材以外に兎の肉も手に入った。

 肉を焼いた。キノコのスープも暖めた。他の料理もできあがった。パンはすでに作ってある。あとはサラダを盛り付ければ完成だった。


 扉を叩く音が聞こえた。来たみたい。

「プレシャス、迎えに行くわよ」

 扉を開けるとマユメメイが手を振ってきた。笑顔を見せていた。

「マユメメイ、待っていたよ。本当に来てくれて嬉しい」

「約束だから当然なの。アイが手料理をご馳走してくれる。楽しみ」

 甘えた声で話しかけてきた。後ろにいる二人が驚いていた。


 剣と盾を持っている男性に睨まれている。女性は杖を持ち黒魔道士に思えた。鳥の使い魔もいる。ツバメに似ていて大きさも同じくらいだった。

 二人とも元の世界なら高校生くらい。年齢が近くてよかった。

「料理ができたから案内する。後ろの二人もどうぞ」


 食事も運び終わって、全員が椅子に座った。プレシャスにはテーブルと同じ高さの椅子を用意した。私の横にプレシャスで、向かい側に三人が座った。

「美味しそうなの。すぐに食べたいけれど自己紹介が先ね。タイタリッカとキキミシャなの。信頼できる二人だから、アイも気にせず会話してね」

「俺がタイタリッカ・ザムリューンだ。父から大聖女様の護衛を任せられている」


 嫌われてはいないけれど警戒されている。素性が不明で不審者に思われて当然かもしれない。それよりも聞き覚えのある苗字だった。

「怖そうだけれど根は優しいから安心して。タイタリッカは第三王子なの」

 今いる場所はザムリューン王国だった。まさか王族の護衛だとは思わなかった。


「わたくしはキキミシャ・アイギルンですわ。使い魔はキーメノミーです。変わった魔法を使うと聞きました。実際に使う姿を見せてくれるかしら」

 優しい感じの女性だった。細身の姿に赤色のポニーテールが、声とも合っていた。苗字があるから、キキミシャさんも偉い人よね。


「貴族令嬢の中でも優秀な黒魔道士よ。アイとも話があうと思うの。でも怒らせると怖いから注意してね」

「大聖女様、誤解を与える発言は控えてください。本当に怒ります」

 マユメメイとタイタリッカさんが笑った。三人は仲よさそうだった。


 二人の紹介が終わった。次は私の番ね。

「遠い異国から来たアイよ。宝石魔法を使って世界を楽しんでいる。隣にいるのが使い魔のプレシャスよ。簡単な挨拶をお願いね」

 視線を向けるとプレシャスが頷いた。

「アイ様のお世話をしているプレシャスです。アイ様は常識を知りません。その点は寛大に見てください」


「マユメメイに聞きたいけれど、私はこの国の習慣に疎いのよ。護衛の二人は王族と貴族よね。何て呼べばよいの?」

「二人に対してはアイが呼びやすい方法で構わないの。ワタシがアイに会うのは心が温かくなるからなの。大聖女ではなく特別な友達として接したい」


 気軽に話せる雰囲気が必要ね。私はそのほうが気軽に楽しめる。

「マユメメイの気持ちはわかった。護衛の二人は、タイタリッカさんとキキミシャさんと呼ばせてもらう」

 タイタリッカさんはマユメメイを見た後に、険しい顔で頷いてくれた。キキミシャさんは笑顔で応えてくれた。


「アイさんは私より年下に見えますわ。話せる使い魔持ちですか。驚きました。キーメノミーはまだ話せません。ですが魔物を退治できる戦闘力があります」

「プレシャスは私には勿体ないくらいの使い魔よ」

「料理を食べながら話したいの。せっかくの料理が冷めたら勿体ないの」

「召し上がって。この国と異なる料理よ。味付けがおかしかったら言ってね」


 三人が食べ出した。手を止める気配はなかった。でもタイタリッカさんが私のほうをじっと見ている。口に合わなかったかもしれない。

「変わった味だけれど美味しいの。アイは料理の天才よ」

 喜んでくれた。料理を作った甲斐があった。

「簡単な料理しかできないよ。マユメメイは料理を作らないの?」

 タイタリッカさんが立ち上がった。


「先ほどから気になったが、なぜ大聖女様を名前で呼ぶ。それも呼び捨てだ。理由によっては俺の剣が黙っていない」

「ワタシがお願いしたの。アイと一緒にいると安心するの。温かい心になれるの」

「大聖女様が楽しげに話している姿は、俺も驚いています。ですが示しがつきません。せめて大聖女様と対等の力がなければ納得できません」


 マユメメイが困った表情を見せた。難しい問題よね。イロハ様にお願いすれば、本当に出現してくれるかもしれない。でも余計に話をややこしくする。

 いまさら大聖女様と呼ぶつもりはない。マユメメイが私に心の居場所を求めてきた。その場所を守れるのは私だけ。イロハ様の世界を楽しむには友達がほしかった。マユメメイを悲しくさせたくない。


「マユメメイのためなら力を示すよ。どのような方法でも構わない?」

「俺が納得できれば方法は任せる」

 剣の勝負では勝てる気がしない。プレシャスに視線を向けた。

「アイ様、宝石魔法を見せたらどうでしょうか。アイ様の防御なら大抵の攻撃にも耐えると思います。もちろん戦闘になれていません。決闘は止めてください」


「よい考えね。私の宝石魔法は特殊よ。タイタリッカさんの攻撃に、私の魔法が耐えたら納得してくれる?」

「俺の剣は自素石で強化されている。構わないのか」

「平気よ。でも私は戦闘に不慣れなの。防御魔法で壁を出現させるから直接攻撃して」


「その条件で構わないが何処で試すつもりだ。外は暗いぞ」

「明るくするから大丈夫よ」

 食事を中断して全員で庭に出た。暗かった。この状態では力を発揮できない。

「今から明るくする。輝きオパール」

 ルースが出現した。連続で魔法を唱えてハートシェイプの明かりを十個に増やした。心で想定した位置に散った。庭全体が明るくなった。


 庭の中央に歩いた。プレシャスのみがついてきた。

「初めて見た魔法で連続詠唱も凄いです。この明るさも、わたくしには無理かしら」

「次に防御魔法を唱えるよ。青い壁を攻撃して。矢車サファイア」

 半球状の青い壁ができた。硬くする想像も忘れなかった。


「この壁に攻撃する。壊したら俺の勝ちだ」

 剣と盾を構えて壁を切りつけた。周囲に音が響いた。でも亀裂は入らない。何度か切りつけると、ひびまで入った。すぐに魔法を重ねた。

「もっと威力がないと一撃で壊れない。何重にでもできるよ。まだ勝負はつづける?」

「壁の強さはわかった。だがアイも攻撃できないはずだ。実際の戦闘では勝てない」


「戦闘形態もあるけれど、私は戦闘に不慣れなのよ。見るだけでも平気?」

「見てから判断する。実践に役立つ防御なら、俺も負けを認める」

 唱える魔法が決まった。出現している壁を消した。三人の近くに寄った。

「始めるよ。絶対に攻撃しないでね。矢車サファイア。星剣ルビー」

 二つのルースが出現して剣と盾を手に取った。タイタリッカさんの構えを真似た。


「盾は先ほどの壁と同じ強さよ。攻撃魔法で作った剣よ」

「凄いですわ。異なる魔法を連続で唱えています。明かり魔法を含めて、同時に三つも出現させています。魔力は持つのかしら。どのように制御しているのかしら」


 キキミシャさんだった。私は他の魔法を詳しく知らない。でも一般魔法に長けているキキミシャさんだから、凄さが分かったみたい。

「俺には分からないが、キキミシャの言葉なら確かだろう。俺の条件も満たしている。負けを認めよう」

 勝敗が決まった。明かり魔法を消して家に入った。


 中断した食事を始めた。タイタリッカさんは、半信半疑の目で私を見ている。キキミシャさんは宝石魔法を聞いてきた。魔法を知っている人ほど、特別な魔法に感じるのね。マユメメイは嬉しそうに料理を食べ始めた。

 遅くなる前に三人が帰った。

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