第13話 魔物は怖かった

 準備を整えて家をあとにした。まだ日は高いから夕方には帰れそう。

「魔物で防御魔法を確認したい」

「意図的に魔物を探しますか。探すのなら魔物の気配を感じたら教えます」

「今は意図的に探さなくても平気よ」


 森の中を移動した。プレシャスが食材を見つけてくれた。兎を発見した。私の魔法では威力調整に慣れていない。兎が丸焦げになる可能性があった。プレシャスに倒してもらった。プレシャスは戦いに慣れていた。簡単に兎を仕留めた。食材を手に入れた。


 森の中を歩き食材も揃ってきた。

「魔物の気配を感じます。アイ様、どうしますか」

「魔法を準備してから近づきたい。星剣ルビー。矢車サファイア」

 剣と盾の準備ができた。急に襲われても大丈夫。プレシャスに視線を移した。

「美しい魔法です。準備は平気そうですね。魔物に近づきます」


 プレシャスを先頭に歩き出した。足音を立てないように注意深く歩いた。プレシャスが動きを止めた。私に視線を向けた。

「少し先にトリプルボアーが一匹います。リーフウルフよりも大型で強いです」

 視線を凝らして奥を覗いた。木々の間に魔物を見つけた。牛ほどの大きさがあった。


「魔物が想定より大きいけれど、防御魔法を試すにはよさそう。せっかくだから攻撃魔法でも一つ試したい」

「何を確認したいのですか」

「命中率よ。今までの攻撃魔法は全て魔物に当たった。普通なら簡単に当たらない。でも宝石魔法は想像すれば反映される。トリプルボアーの反対側を向いて、トリプルボアーの側面に当てる想像で呪文を唱える。命中すれば宝石魔法特有の能力ね」


「通常の攻撃魔法なら命中しません」

「攻撃魔法は今の感じで唱える。防御魔法は半球形状の壁を試してみる。近づいてきたら盾を試す。私が倒れて危ない場合は助けてね」


「下位魔物ですが気をつけてください。わたしはいつでも対応できるようにします」

 トリプルボアーを背中にして息を整えた。剣と盾を維持しながら魔法の威力を弱く想像した。一緒にトリプルボアーの側面に当たるよう念じた。


「紅球ルビー」

 飛び出した真っ赤な塊が急に向きを変えた。体を回転させて真っ赤な塊を追った。トリプルボアーに向かって飛んでいった。側面に当たった。

「命中させる場所も想像で対応できた」

「注意してください。トリプルボアーが向かってきます」

 威力を弱くしたので、かすり傷程度かもしれない。トリプルボアーが私たちに向かって突進してきた。


「矢車サファイア」

 半球形状の薄い壁が周囲を覆った。

「魔法の威力は宝石魔図鑑と同じですか」

「最初は宝石魔図鑑で確認したい。威力が分かったら次は盾で確認する」


 トリプルボアーが近づいた。間近で見るとその大きさに足が竦んだ。でも危険はないと自分に言い聞かせた。トリプルボアーが薄い壁にぶつかった。薄い壁は壊れなかった。


「クリア」

 薄い壁を消した。トリプルボアーが私に向かってきた。盾を前に構えた。近づいてくるトリプルボアーは迫力があった。盾の影に隠れるようにした。


 トリプルボアーが盾に体当たりした。僅かな衝撃しかない。確認が終わって魔物を倒すだけだった。間近にトリプルボアーの顔が見えた。大きな牙二つに、額には角が一本生えている。刺されたらひとたまりもない。恐怖で手足が動かなかった。


「プレシャス、お願い。魔物を倒して」

「アイ様はわたしが守ります」

 目の前にプレシャスが横切った。同時にトリプルボアーが消滅した。一撃だった。私には足がすくんだ魔物だった。プレシャスには余裕だったみたい。


「リーフウルフと違って怖かった。プレシャス、有り難う。魔物退治は慣れが必要ね。ハンターがいる理由がわかった」

「無理は禁物です。トリプルボアーの受け止めは見事です。怪我はなかったですか」

「盾が衝撃を吸収してくれたみたい。ほとんど衝撃はなかった」

「アイ様の宝石魔法は、アイ様と相性がよさそうです」

「本物のアイ様に感謝している」


 トリプルボアーが消滅した場所に、黄色の自素石が落ちていた。リーフウルフが落とした自素石と同じくらいの大きさだった。

「今回は黄色の自素石ね。何種類も色があるの?」

「基本は無色です。たまに強い魔物からは色つきがでます」

「自素石は売れると聞いた。自素石を詳しく知りたい」

 今後ハンターギルドで仕事する上でも、知っておいて損はない。


「大きさと色で価値が異なります。大きさは三種類です。今回が一番小さい小粒です。あとは中粒と大粒です。色は無色と色つきです。価値は大きくて色つきが高いです。ただ大粒は上位魔物からのみです。誰も見たことはないでしょう」

「大粒は出回らないから、実質は四種類ね。販売価格はハンターギルドで聞いてみる。受付のピミテテさんなら、自素石とお金の対価を教えてくれると思う」


「わたしも知識として少し知っていますが、この街の人間に聞いたほうが確かです」

 常識知らずと言われないように、少しずつでもイロハ様の世界を覚えていきたい。

「魔法の確認も終わって食材も手に入った。暗くなる前に家へ戻るね」

 プレシャスと一緒に森をあとにした。

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