第3話 使い魔は遊色効果

 街外れの高台に家が建っていた。日はまだ高い位置にあった。木々の隙間から街並みが見える。街のほうから鐘の音がわずかに聞こえた。落ち着いたら街にも行きたい。

 視線を移した。真新しい家が出迎えてくれた。一階建ての一軒家だった。人で住むには充分な大きさに見えた。木造造りで落ち着けそう。


 使い魔がいるはず。家に入ると床に変わった動物が座っていた。猫の雰囲気で耳が尖っていた。尻尾も変わっている。体の色が変化して驚いた。視線があった。

「イロハ様の使い魔です。呼びやすい名前を決めてください」

 言葉を話した。女性を思わせる声だった。私の返事を待っている。聞きたい内容は山ほどある。でも最初は名前を決めるみたい。


「遊色効果のように体の色が変化している。まるでプレシャスオパールね。決めた。プレシャスよ。雰囲気にあって似合っている」

「わたしの名前が決まりました。プレシャスとお呼びください。遊色効果の意味を聞きたいですが、まずはアイ様の質問に答えます」


 プレシャスがテーブルと椅子のある部屋へ案内してくれた。近くの椅子に座った。プレシャスはテーブルの上でこちらを見ている。プレシャスと仲よくなれたら嬉しい。今は質問の時間ね。


「イロハお姉様の世界が知りたい。特に魔法と魔物は元の世界に存在しなかった」

「魔法とは精霊の力を借りて発揮できる力です。精霊は人間の魔力を対価としてもらいます。魔力は自然界にある不思議な力です。体内に魔力を多く宿していて、能力のある人間が魔法を使えます」


「雰囲気は元の世界にある物語と一緒ね。魔法に種類あるの?」

「人間が使う魔法は二種類あります。一般魔法は、自然界にいる精霊の力を借りた魔法です。火や水などの属性があって属性ごとに強弱関係があります。六属性あります。単に魔法という場合は一般魔法を指します。日常生活や魔物退治に使われます」


「もう一種類は神聖魔法よね」

「イロハ様が人間のみに与えた特別な魔法です。怪我などの回復ができます。神聖魔法が使えると一般魔法が使えません。人間はイロハ様を女神様として信仰しています」


 イロハ様を思い出した。妹を溺愛するお姉さんに見えた。でもイロハ様の世界では女神様で、人間が気軽に話せる存在ではなかった。私がアイ様の姿だからイロハ様に溺愛されている。本物のアイ様は知らないけれど、恥ずかしい行動は取れない。


「魔法は便利な科学技術と考えればよさそう。魔物はどのような感じ?」

「自然界の突然変異で出現した生物が魔物です。魔力の暴走と思われます。イロハ様にとっても想定外です。周囲の環境で魔物の強さも変わります」

「イロハ様なら魔物を殲滅できそうだけれど、直接手をくださないの?」

「自然界から発生しているので、世界破滅に繋がらなければ静観しています」


 人間に神聖魔法を与えているのも、魔物退治と関連しているかもしれない。

「イロハお姉様は自然と世界を愛しているのね。私も自然と世界を愛して、この世界を楽しんでいきたい。魔物退治もしたいけれど魔物は強いの?」

「凶暴な動物以上に強い魔物もいます。人間以上の知能があって、言葉を話す魔物もいます。魔法を使う魔物もいます。人間と魔物との間では争いが絶えません」


「元の世界では人間同士の争いが凄かった。動物との争いは規模が小さかった。イロハお姉様の世界では、人間同士でも争っているの?」

「主な争いは人間と魔物です。でも人間同士もあります。イロハ様は世界破滅に繋がらなければ静観しています。信仰心の厚い人間に恩恵を与えるくらいです」


 なるべく平穏に暮らしたい。知性がある魔物もいる。まずは身近な場所から活動範囲を広げたい。

「今いる場所は何処なの? 国という存在はどうなっているのか知りたい」

「強い人間が国を治めています。昔活躍した人間の家系が国王の国もあります。今いる場所はザムリューン国のリガーネッタです。国の東側にある中規模な街です」


「日用品は街で買えば平気そうね。イロハお姉様の世界らしい楽しみ方で過ごしたい。魔法を使いたいし魔物も見たい。魔物退治にも興味がある」

「通常の人間は好んで魔物退治はしないです。でも魔物退治で生計を立てているギルドがあります。リガーネッタにもハンターギルドがあります。所属するのが一番早いです」


 楽しみができた。魔物を倒せばお金も稼げると思う。街に行けば人間にも会える。魔物は一目見たいけれど、今の体では一撃でやられる。ハンターギルドへ行く前に攻撃魔法を憶えたい。でも最初は生活環境の改善ね。


「ハンターギルドには攻撃魔法を憶えたあとで行きたい。今は生活に必要な魔法を習得したい。習得方法は変わっているのよ。宝石を使った魔法で、私にしかできない魔法よ」


 宝石魔図鑑がなかった。イロハ様が渡し忘れたみたい。宝石魔図鑑が見たいと心の中で思った。手のひらに宝石魔図鑑とペンが現れた。ペンはオパールで飾られていた。本物のアイ様は私の好みを知っているかもしれない。驚いたけれど凄く便利な機能だった。

「生活魔法ですね。この世界にも宝石はありますが、アイ様の魔法に興味があります」


 イロハ様の世界にも宝石があった。見て触りたい。でも今は魔法が先ね。

「知らない文字と言葉よ、それでも平気?」

「問題ないです。わたしを気にせずに魔法を作ってください」

 頭の中で宝石を思い浮かべた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る