第206話 1年目「国外品」

 領都、北西部の商業区画で開催されている収穫祭を見て回っています。 マイです。

 領都の中をゆっくり見て回るのは、始めてかも知れない。

 この半年の間は、復習だけでなく昔に時空魔術ばかり勉強していて十分でなかった基本魔術に関しても勉強をしていた、まだ基礎魔術の部分も忘れている所が多い、まだまだだと感じる。

 そして、この前に学術図書館で読んだ書籍、これは興味深かった、書き込んだノートは検証したい内容にあふれている。


 とはいえ、今は休息だ。 国外品というのにも興味が引かれる。

 一番近い外国は、東の商工業国家、商業と重工業を中心に発達している国家だ。

 政治体制は知らない、金属製品の品質の高さと量産能力は高い、なにせ国境の大河を渡ってやってくる盗賊団の装備は領軍の正規兵士の装備よりも上等で高性能なものを揃えている位だ。

 おそらくだけど国全体で豊かなんだろうな、盗賊がわざわざ来る理由が判らないけど。


 ステラちゃんが案内してくれるお店や露店は興味深いものが多かった。

 でも、不思議だ商工業国家から流れてくる商品の品質は国内のそれと大きく違いは無い。


「ステラさん、商工業国家の製品ですけど噂に聞くほど高品質では無いんですね」


「いえマイさん、これは商工業国家が国外に販売する商品の品質や性能を制限しているんです。

 もっと高品質・高性能な物は多いですが民生品の一部を除いてほとんど入ってきません。

 例えば兵器に関連する物は厳しいそうです」


 なるほど、それが商工業国家の武器なのかな?

 この国ではどちらかというと新しい技術はどんどん広めていく方針だから、今ひとつ理解できない。

 この大陸の地図を見たことが1度だけある、その時に見た印象では、商工業国家はトサホウ王国の半分以下の国土しか無いしほとんどが山々と川に囲まれている。

 トサホウ王国から商工業国家へは食料品を大量に輸出しているそうだ。


「それでも、幾つかの製品は商品に紛れて入ってくるので、そういう物は領主様とかが買い上げて研究開発に回しているらしいですね」


 この辺は、国同士の駆け引きになるのかな、実際 私はこの国の技術力に関してはほぼ知らない。


 私に紹介して貰った商店は変わったお店だった、わざわざ森や川に行って野宿を楽しむ為の商品を販売しているというのだ、うん何で?

 そして、そのための道具類が豊富に置かれていた。

 貴族が狩猟を楽しむのと同じなのかな。

 道具類はよく考えられている、小さくなるように工夫されていたりしているけど、価格はうん、実用品に比べると十数倍高価だ、簡単に買える値段じゃ無いなぁ。

 安い入門用という物でも手を出しにくい。 商店の店員に愛想笑いして出ることになってしまった。

 ステラちゃんもやっぱりかぁという苦笑をしてた。


 次、ナルちゃんが希望の化粧品は最初の化粧品店は、入って直ぐに出た。

 世界が違う、それにもう値段があり得ない物から、時価や記載の無い高級瓶に入っている物まで別世界だね。

 その代わりで雑貨屋では比較的安価な製品が売られていた。

 かなり興味深そうに見ている、中には作り方が書かれた書籍も有った、高価なので買いたそうにしていたけど諦めていた。

 遊具もそうだ、庶民向けの簡素だけどボードゲームが幾つもあった。

 町でも簡単なボードゲームは有るけど、ほとんど手作りでルールも統一されていない。

 辺境師団に居たときも、地面にマス目を書いてゲームをしたけどルールを決める所からやらないといけなかった。

 どちらかというと、ルールブックの方が価値があるのかな? 手書きの安いものが幾つかあって、ナルちゃんは購入してた。


「ナルさん、化粧品の作り方は図書館に有るかもしれませんよ。

 化粧品を作るのは一種の錬金ですから」


「おお! マイ、その発想はなかったよ。

 さっそく、ああ、休みの間は学校は閉まっているんだった」


 頭を抱えるナルちゃん、魔法学校には魔法に関することしか無いと思い込んでいたのかな?

 実際、私も作れる、アカギレや手の荒れを防ぐための軟膏や簡単な傷薬は、野草や油から比較的簡単に作れる。 それに香料を加えれば簡単な化粧品だ。

 町でも家庭で作っている所はあるはず、でも購入するのは教会が安く配布している軟膏だ、商店では売りにくい。

 ナルちゃんは、町でも化粧品を流行らせたいらしい。

 他にも、量産品の食器とかに興味を持っていた、陶磁器の様な焼き物の食器は町ではあまり使われていないからね。

 大抵、飾ってあったり、特別な日に使うくらいかな、日常品にはなっていない。


 次に商工業国家の品物を扱うお店に入る。

 大きなお店で、大型の機械もある動力は水力かな?

 目新しい物ばかりだけど、私たちに用がありそうなのは少ない、ナルちゃんも期待外れのような表情をしている。

 携帯食があった、どんな方法かは判らないけど金属質な物で包まれている。 価格は高い。

 他には民芸品とか、知らない香辛料があったりとか。


 領都を巡る。

 小さい小物の装飾品も見て回った、こういうのは持っていないし興味が湧かないけど、2人は楽しそうだ。 フミも好きそうだったな。

 買って送ることは出来ないかな。


 うん?


「どうかした? マイ」


「疲れましたか? それとも面白くなかったとか」


 あ、いけない。

 2人が私を見つめて心配してる。


「いえ、ちょっと考え事してました、楽しいですよ」


 少しぎこちないですが、笑い返す。

 2人には楽しんで貰わないと。


「次は何処へ行きますか?

 珍しい食べ物とかあれば良いですね」


「そうですね、砂糖を溶かして絡めた果実があります、砂糖はこの辺ではそれなりに安く出回っているので、こういうお菓子も安くあるんですよ」


 ステラちゃんが案内してくれる。

 露店で、1本ずつ購入して、公園で一休みする。

 酸味のある果実の種を抜いて木の串を刺した物に溶けた砂糖を付けてある。

 美味しい。


「露店をもう少し見て回りましょう、商工業国家から来た商人が販売しているかもしれません」


 ステラちゃんが提案してくれる。

 うん、良いかな? 国外品というのも見てみたい。


 露店は何に使うのか判らない物から、香辛料など比較的日持ちがして小さい物が多い。

 保存食が有ったら、幾つか買い込みたいなぁ。

 と、1つの露店が目に止まった。


 販売している物は、ススまみれ物や破損している物ばかりだ、値段も捨て値だね。

 中古屋に持ち込んでもタダで引き取られる位の物ばかりだ。

 その汚れも最近ついたものじゃない。


 販売しているのは、お婆さんとお爺さんの2人。

 特に呼び込みもせず座ったまま。


「あの、見せて貰っても?」


「ああ、良いよ好きに手に取ってみて」


 手に取る、あまり見ないデザインだけど小型の折りたたみ式ナイフだ、他にも折りたたみ式の焚き火台、どれも野外活動用の道具だ。 元は良い製品に見える。

 汚れと外側の傷が酷いが、使う分には問題が無いと思う。

 それらをまとめて入れる小型の鞄もある、がこれは損傷が激しい、大きく裂けた穴がある。


 うん。


「あの、ここら辺をまとめて買ったら幾らになりますか?」


「ああ、いくらでも良いよ、使ってくれるならね」


 こまった、でも一応値付けはされているので、その合計金額を端数だけ安くして提示する。


「では、この金額でお願いします」


「貰いすぎだね、これだけで良いよ」


 私の手から半分だけ受け取っていった。


「ありがとうございます」


 お金のやり取りをしている間に、おじいさんが鞄の中に品物を入れていってくれた。


「鞄はおまけじゃ、使い物にならないから、後で捨ててくれ」


「あ、はい。 できるだけ使わせて頂きます」


 鞄を受け取る。

 思ったよりも重いな。


「では、失礼します」


 私が立つと、お爺さんとお婆さんも、立って頭を下げてきた。


「ありがとよ、これであの子も酬われる」


「婆さんや、気にせず使い倒してくれ、その方が良い」


 多分だ、この装備を使っていたのは、この2人の親族だろう。

 そして今は居ない。

 なんでここで販売していたのかは判らない、でもただ埃が被るのもゴミとして捨てられるのも良いとしなかったのだろうな。


 他にも、日用品とかあるが、どれも多分買い手は付きそうも無い。


「マイさん、これ中古屋でも売ってないくらい酷い状態ですよ、良いんですか?」


「はい、見た目は酷いですが、整備すれば使用する分には問題なさそうです」


「マイって変わって物に興味が行くんだね。 うーん、他の物は流石に手が出せないなぁ」


 ステラちゃんとナルちゃんが私が手に持った鞄を見て評価している。

 同じ物を中古屋で揃えても、今払ったお金と同じぐらいでもっと状態が良い物が揃えられる可能性は高い、でも、この同じ所で作れた物かな? それを揃えるのなら良い買い物だと思う。






 振り返り2人が座ってじっとしているのを見て、目だけで礼をした。

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