第14章 1年目

第196話 1年目「試験」

 コウシャン領都の魔法学校に入学して3ヶ月があっという間に過ぎていった。


 3ヶ月の間に3組では3名の子供が退学した、読み書きが出来ていなかった子供だ。 本人達にとっては予定通りらしい。 これで3組は27人。

 故郷に戻り、初等教育を受けた後に改めて魔力の測定を受けて魔法学校の入学の許可を取ると言っていた。

 ただ、その時は特出した魔力量か、それなりの魔法を使えるようになっていなければ再入学は認められることは無い。

 本当に魔術師に成りたいのでなければ、そのまま故郷で暮らすことになるだろうな。


 寄宿舎の食堂では、幾つものグループで勉強会が行われていた。

 複数人で上級生に勉強を見て貰う依頼を出して、勉強を見て貰っているのが大半だね。

 裕福な子供は個人学習を依頼して学習している、そのための依頼を出して居た。


 私は中古屋で見つけたノートを元に自分のノートを完成させることを目標として学習をした。

 教科書に載っていてノートに載っていない箇所の追記と説明の記述。

 中等教育の後半途中で途切れていた後の完成。

 この作成をしている途中、1ヶ月目が終わる頃、図書館の学習室でナルちゃんに初等教育のノートを作成している所を見られてしまった。


「マイちゃん、お願い! そのノートを見せて。

 報酬は払うから」


「教室や図書館で読める教科書をノートに転記し追記しただけの物ですけど、良いんですか?」


「うん、その追記のおかげで凄く分かり易くなってる。

 これはお金を払って購入したの?」


「いえ、中古屋で見つけた廃棄ノートの中から拾った物を元にしてまとめ直した物です」


「すごい、もしかして中等教育も?」


「……ええ、ほぼ完成してます」


「幾らなら売ってくれる?」


「中古屋にあったノートをまとめた物の価格を覚えていますか?

 廃棄品の教科書の半額程度でしたが、あそこに有ったのは売れ残って安売りされていた物です。

 これは、元のノートが良かったので普通の教科書と同等以上の価値になっていると思っています。 安くは無いですよ」


 ナルちゃんが考え込む、当然だ、痛みが多くて廃棄品となった教科書の値段もかなり高額だ。 このノートはそれ以上と私が言っている。

 本当に、元になったノートの出来は素晴らしい物だったからね。

 子供が生徒が買える値段では無い。


「借りるのは駄目? もちろん依頼を出すよ。

 学校が終わってから、就寝までの間」


 つまり、午後の時間をノートで復習したいということか。

 私が午後の時間は図書館に入り浸ってるのを知っているから、その間の時間ノートを貸して欲しいということかな。


 流石に商人らしいな。

 幾つか制限を出しておこう。


「正式な依頼で依頼料も学生ギルドで適正とした価格で。

 あと、ノート全部を一度には貸せません、章毎かページ単位での貸し出し依頼なら受けても良いです。

 利用者は依頼者のナルさんに限定します」


 ノートを丸ごと貸し出しても1日で読める箇所は限られている。

 なら、必要な箇所だけで安く貸し出すなら、ナルちゃんの負担は軽いはず。

 あ、考え込んでる。

 このノートを教材として他の子供を教えることで報酬を得ようとしていたのかな?

 だとしたら、自分への勉強に時間を費やして欲しいと思う。


「うん、判った。 マイちゃんありがとう」


 伝わったかな?

 そうして、ナルちゃんは自習して判らない範囲のノートを借りる、ということをするようになった。

 手順としては、午前中の授業が終わったら、魔法学校にある学生ギルトの出張所で依頼を発注。

 その依頼を、私がその場で受けて、必要な部分のノートを貸し出す。

 私はそのまま図書館へ、ナルちゃんは寄宿舎に戻ってノートを元に復習と他の子の勉強も見てあげている。



 明日は試験が行われる。

 昨日まででナルちゃんは中等教育の中盤まで進んでいる。

 あと、ナルちゃんが面倒を見ていた子ども達、ちゃんと教えて貰うためにナルちゃんへ依頼を出していた。

 これは意外だったけど、ナルちゃんが子ども達の今後のことを考えて契約の大切さを伝えた結果らしい。

 ナルちゃんの感触では初等教育は何とかなっていると思うそうだ。


 その間、私は自分の事だけをしていた。 周りの子を助けているナルちゃんに負い目を感じてしまう。

 そういう私は中等教育も終わらせて、基礎魔法と通常魔法をしっかり覚え直している。

 私の適性のある時空魔法を過去の魔法学校では盲目的に学んでいて、結果として通常魔術をはおざなりにしていた。

 そのツケは、冒険者となったとき、自分の力の汎用性の無さという現実として理解させられた。

 今回は、間違えない。

 間違えてないよね?



■■■■



 試験が始まった、ざっと問題全部に目を通す。

 あれ? 中等教育の問題が混じっている、これは意図しているのかな?

 さっそく、最初から解いていく。

 どれも応用問題だ、ただ教科書を覚えただけだと解くのは難しい。

 試験は解き終われば退室して良い事になっているけど、見直したりで多分時間一杯かな。

 私も、最後の1問でつまづいた。

 どう考えても解く事が出来ない。

 試験時間がもうすぐ終わる頃に、はっと気が付いた。

 これ、試験問題が間違ってる、問題のこの場所の誤記と考えれば、解く事が出来る。

 そういう指摘と誤記を訂正した場合の回答を記述した所で試験時間が終わった。


 セン先生と数人の職員が試験用紙を回収していく。

 こった肩をほぐしながら横を見る、

 ステラちゃんが微笑んできた。

 うん、試験は上手くいったようだ、私も微笑み帰す。


「マイさん、今日は午後予定ある?

 試験が無事に終わったお祝いみたいなのしない……かな?

 寄宿舎の近くの商業区域に美味しいお店があるんだ」


 うーん、この3ヶ月は寄宿舎と魔法学校、時々文具屋という生活だったからなぁ。

 ステラちゃんとも会話は挨拶を除くと数えるほどだから、良い機会かも知れないね。


「そうですね、良いかもしれません」


 本当はあんまり喜んではいられないのだけど。

 ただ、学術区画の商業区域は詳しくない、もしかしたら色々情報が得られるかもしれないな。


「ね、私も一緒に行って良い?」


 いつの間にか近づいていたナルちゃんが話しに加わってきた。

 うーん、そうなるとナルちゃん一行が加わるのか。

 子ども達の面倒を見るだけになりそうだ。


 私の渋い顔に気が付いたのか、ナルちゃんが補足してきた。


「私1人だけだよ、他の子達は試験の答え合わせをするんだって」


 答え合わせって、答えが判っていないと意味が無いんじゃ……まぁいいか。

 ナルちゃんに頼りっぱなしでは無くなっているのも良い傾向だね。

 3人ならそんなに多くないし、私1人で話が続かなくなったときの保険にもなる、かな?

 というか、私、女の子同士で集まってお祝いなんてやった経験が無い。

 2人で盛り上がって、私が一人呆然としている図が思い浮かぶ。 うん、気合いを入れよう。


「ステラさんが良ければ3人で行きましょうか」


「うん、私も良いよ、よろしくね」


「こちらこそよろしくステラさん、私はナル」


「ステラで良いよ、えっと、マイちゃんも、さん付けを止めてくれても良いんだけど」


 うーん、この辺は辺境師団に居たときの癖が大きいんだよね。

 とりあえず、さん付けしておけば誰でも波風は立ちにくいから。


 あと、あの金具屋に行かないと、忘れられてないと良いなぁ。


「私も商業区域で寄りたい所があるので、寄ってもいいですか?」


「うん、良いけど何を買うの?」


「金物を少々、今必要となるものじゃ無いですが、いずれ必要になるはずの物なので」


「へー、私も参考になるのかな?」


 ナルちゃんが興味深げに聞いてきたけど、多分必要になるのは私だけだよ。


「それは判りません、必要な物とお店は判って居るので時間は取りませんよ」


「では、行きましょうか、皆さん」


 ステラちゃんの先導で移動を開始する、領都出身者だから安心だね。






 そうして初めての女子会に向かう事になった。

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