第195話 入学「エピローグ」
セン先生は魔法学校で初等教育・中等教育を教える教師だ。
魔法は使えない。
勉強を教えるのが上手いということで、魔法学校に赴任して4年になる。
1年の1,2組はすでに初等教育・中等教育を習得済みなので結果として、3組担任となる。
「今年は何人残れるのか……」
教師棟にある、自分の部屋で深いため息をつく。
国から指定されている勉強方針に従っていると、どうしても初等教育からつまづく生徒が出てきてしまう。
初等教育・中等教育に関しては、魔法学校に入る前に別途学ぶ機会を用意するべきだと思っては居るが、一教師が意見を言えることじゃない。
だから、危機感を持って勉強して貰うために最初に強いショックを与える必要がある。
優しくして、褒めて気分が緩んだところから現実を指摘して落とす。
憎まれるのだろうなぁ。 毎年思う。
初等教育を受ける子供のうち、数名は読み書きが怪しい、長くは在籍していられないだろうな。
自習を選んだ生徒のうち、何人かは2組に入れなかった子だ。
成績が悪かった方から人数の都合で3組になった子だから放っておいても多分大丈夫だ。
町や村から来た子で何人かが自習を選んでいる、大丈夫なのか不安になる。
3ヶ月後の試験では、初等教育だけじゃない中等教育の範囲の内容も一部問題に出る。
詰まる所、ほとんどの生徒が高い得点を得ることが出来なくなる。
魔術師を育てる学校で、魔法の素質以外でふるい落とすのは間違っていると思う。
でも、どうしようもない。
一人でも多く、1年目を乗り越えて欲しい。
そう思わずには居られなかった。
■■■■
トサホウ王国 王都。
2年前に発生した魔物の氾濫は王都にも多大な被害が出た。
特種や超上位種こそ発生しなかったが、膨大な数の黒い雫が降り注ぎ、中位種・下位種が大量に発生した。
戦いとは無縁の王都の民は混乱し、死傷者の半数は逃げ惑ったり出入り口に殺到しての人同士の事故だった。
それに混乱した都民が逃げ惑う中での戦いは困難を要した、王都内での魔物との戦いを想定していなかったために対応が遅れたこともある。
王都には戦える冒険者が少ないことも被害が増えた要因になる。
王都周辺は王都を守る守衛と王都師団の訓練に使われ、冒険者の活動できる内容が限られている為だ。
それでも、強力な守衛や王都師団の戦闘力は圧倒的で、戦い自体は比較的短い時間で収束することが出来た。
国王ディアスは、執務室でようやく魔物の氾濫の後処理が見えてきた事に安堵していた。
その横には、第一王子のトアスも居る。
「トアスよ、王都の様子は落ち着いたか?」
「はい、建築物の修繕はほぼ終わっています。
ただ、死亡者の処理がいまだ残っています、魔物に殺されたのか、そうでないか、の区別が未だに出来ていません」
「うむ、逃げるために他者を傷つけた者や盗みを働いた者も居たそうだが、特定は無理か」
「はい、酷い混乱の中の目撃情報では絞りきれませんし、数も多いです」
ふー、ディアスは、大きく息をはいて椅子にもたれかかる。
後処理もこの辺だろうか、あの、改良されたダンジョンコア、あれが壊れタダの石塊になってか、意欲が湧いてこない。
「トアスよ、魔物の氾濫の処理の終結を宣言する。
残っている件は、通常の補償処理として扱う」
「はい、しかしそれで王都の民は兎も角、領主たちは納得するでしょうか?」
この魔物の氾濫での一番の問題は、ただでさえ不足している人口の減少。
そして、各地の領との関係悪化にある。
何らかのケジメが必要になる。
「ああ、その際、お主に王位を委譲する。
私が退位することによって、責任を取ることとする」
「王よ、よろしいのでしょうか?」
ディアスはまだ退位するには若い、早すぎる王位の委譲は別の問題も起こしかねない。
たとえば、ディアスの王政に賛同している貴族は、トアスの民衆を優先する政策に良い気はしないだろう。
「貴族どもはお前が何とかしろ、王になる者の宿命だ。
ワシは、退位した後、国内のすべての領を回り、関係回復の交渉をして回る」
「父上! 危険です!」
トアスは立ち上がって、反対の意を示す。
今回の件で、トサホウ王国から独立をもくろんでいる領もある、軍事力を含む国力が不足して居るため、表だって動いていないだけだ。
その領を遊説して回るというのだ、身の危険は計り知れない。
「今回の原因となったワシが国内を見て回らなくてどうする、そして、民達の現状も知らなくてはならない」
ディアスの言っていることは正しい。
王位を委譲すれば、王都には王が居ることになる。
そして、魔物の氾濫の時の王であったディアスが直接 各領を回るというのは、非常に重い意味がある。
師団も当然警護について行く、それも含め関係の改善が得られる可能性は高い。
「承知いたしました。
王位の委譲の準備をします」
「ああ、頼んだぞ」
ディアスは、すっかり冷めてしまった お茶に口をつけた。
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