第193話 入学「図書館」

 図書館棟に行く。

 窓の少ない建物だね、そして他の棟よりも大きい。

 生徒用の入り口から入ると、1階は学習室のようだ、会議室のような仕切り部屋が幾つかあり、ドアが無く壁も低いので中が見える、5人から30人が使えるように長机と椅子が用意されている。

 入り口近くの階段を登る。


 2階に上がって直ぐに受付の窓口がある、本は幾つかその後ろにあるけど、本棚は見当たらない。

 そして、受付の前に小さい引き出しの付いた棚が沢山並べされている。

 これは図書カードだ、この図書館に納められていて借りることが出来る本と対になるカードがある。

 そのカードを受付に渡すことで、受付の司書が本を蔵書室から持ってきて、借りる手続きを行うことが出来る。

 前の魔法学校ではそうたった、生徒が本を直接探すことは許されていない。

 たぶん、この魔法学校でも同じはずだけど、今の私はそれを知らないことになっている。


 生徒の姿は見えない。

 窓口で何か書類仕事をしている司書に声をかけよう。


「こんにちは、今良いでしょうか?」


「もちろん良いわよ。 何かしら?」


 司書さんは、作業の手を止めてニッコリと笑って対応してくれる。


「今日、魔法学校に入学したマイといいます。

 図書館の使い方を知りたいのと、可能でしたら初等教育に関する本を借りたいのです」


「ん、2組かの子かな?3組はないか。

 もちろん構わないわ、基本的な手順だけど、そこの棚にある本の名前が書いてあるカードを取って、窓口に出せば司書の私たちが本を取ってくるの。

 そこの棚は、分類ごと、書いてある内容が似ている物をまとめてあるて言って判るかな? その初等教育だったら、参考書・教科書とある所ね。

 そこに本の名前の順番で図書カードが入っているから、自分で探してね。

 もちろん、私たちに相談しても良いけど、いつも対応できるとは限らないし、借りたい本は自分で探すのも勉強の一つよ。

 ここまでで、判らない所有る?」


「大丈夫です。

 何冊まで一度に借りることは出来ますか?」


「1度に2冊までね、あと、1日2回借りることが出来るわ」


「2回というと、その日に借りた本が目的と違うときは返却して改めて借りることが出来るのは、1回だけということですか?」


「そうそう、よく判っているわね。

 ただ、そういう時はこんな本が借りたいと具体的に聞いて欲しいな、私たちは大体どんな本があるのか知っているから具体的な相談なら歓迎よ」


「はい、ありがとうございます。

 では、今年使うか使用されてきた初等教育の教科書をまず借りたいです」


「ええ良いわよ」


 その司書さんが、私を図書カードの入っている棚へ案内してくれて、さ行の列を指で示し、”し”の棚から『初等教育教科書1』と書かれた図書カードを抜き出したした。


「1ですか、幾つまであるのでしょう?」


 私が思わず手を出してしまうが、司書さんはそれを咎めずに見ている。

 パラパラとカードをめくる、『初等教育教科書1』が何枚もある、少しして『初等教育教科書2』になる。

 気になって、さらにめくると、『初等組術指南書』になった、初等教育教科書は3まであった。


「そうそう、目的の本が見つかっても、その先が有るかもしれないから前後は確認するのは良いわね。

 『初等教育教科書1』と『初等教育教科書2』を借りる?」


「いえ、閉まるまでの時間もあまり無いので『初等教育教科書1』だけ借ります。

 借りた本はどこで読めば良いでしょうか?」


 2階は、窓口と図書カードの有る棚、そして長椅子が幾つか置いてあるだけだ、本を読む環境じゃ無い。


「借りた本は、3階に机が有るからそこで読んでね。

 席を立つときは、本は3階の係の者に一時的に預かって貰って」


「ペンとノートは使用できますか?」


「出来ないわ、私物は全部 窓口に預けて。

 ペンとノートを使えるのは1階の勉強室だけね。

 頑張って覚えて、1階でノートに取るのが普通だけど、慣れるまで頑張ってね」


 本の貴重さが判る対応だ、町や村出身の生徒はほとんどが本を手に取ったことすら希だ。

 まともに使えるか判らないのに、更にインクを使うような事をされるわけにはいかないだろう。

 3階で本を読むときも、雑に扱わないように監視されているんだろうな。

 たぶん、魔力を検知する魔道具があるから時空魔法を使った持ち込みも難しい。


 私は、司書さんに鞄を預けて、『初等教育教科書1』を借りる手続きをする。

 学生の身分証を提示して、どの学生がどの本を借りているのかを管理している。

 私は3階に上がり、本を読む場所を探す。

 といっても、生徒は数人居るだけでほとんどが空席になっている。

 入ってくる日の光が壁に当たって間接光になっている場所を選んで座る。

 うん、司書さんかな? が全体を見える一段高い場所で事務作業をしながら私や他の生徒の様子を観察している。

 気にせずに『初等教育教科書1』を開く。

 ゆっくり、丁重に。


 書かれている内容と、復習して覚えた内容を摺り合わせていく。

 うん、あのノートは教科書に書かれていない教師が説明した補足事項も上手く書き加えられていて、そのおかげですんなり理解できている。

 所々、ノートに記載が無い所があるけど、これは授業で飛ばしたのか書いた本人が理解していてあえて記載しなかったのか、どっちかな?

 授業の様子が思い浮かべられて、少し楽しくなる。

 ああ、そうだこの知識が入っていく感覚、私が好きな感じだ。


 夢中になって読み進める、後数ページ、という所で肩を軽くたたかれた。


「そろそろ閉館になりますよ」


 司書さんが私の後ろから話しかけてきた、すっかり夢中になっていたので気が付かなかった、内心ドキドキしている。

 窓を見る、日はだいぶ傾いている。

 周囲に生徒はいない私1人のようだね。


「はい、判りました」


 本を閉じる、紙が折れないように注意して。


「本の扱い方を知っているようですね、あなたは安心して見ていられました。

 これからも本を丁重に扱ってください」


 司書さんは、本のことが好きなのだろう、自分の持っている本も大切そうに抱えている。

 私も、前の魔法学校では、魔術の書籍を読み漁ったからね。

 その時に、本を大切に扱う方法は嫌になるくらい身につけさせられた。


 2階に降りて、本を返却する。 また、知らない司書さんだ一体何人居るのだろう?

 本の返却に合わせて、預けていた鞄も受け取る。


「ありがとうございました」


 窓口の司書にお礼を言って、図書館棟を出る。

 少なかった生徒の気配は無い、一人 寄宿舎へ向かう。

 影が長く道路に伸びる。

 太陽が西へ沈みかけている。


 周囲に探索魔術を行使する。

 うん? 人の反応が1つある。

 その方向をそっと見てみるけど、建物の陰なのか木々の陰なのか判別は付かない。

 寄宿舎に向かいながら、探索魔術を数回行使してみたけど、その場所から動く様子は無かった。


 何だったんだろう?

 気にはなるけど、不用意に関わるのも良くない。






 このとき、私はこれからの事に気を取られていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る